第7話 告白



俺は収納袋に花束とネックレス、ケーキを入れて部屋に戻った。


こう言うところは前世と違い後ろ手に誤魔化さないで良いだけ便利だ。


「ただいま~」


「おかえりなさい、随分早かったわね」


「そりゃ、静子さんに会いたいから頑張って仕事を早く終わらせたんだ」


「うふふふっ、嬉しいわ」


これだよ、これ!


美女の包容力のある笑顔。


凄く癒される。


マリアは聖女だから癒し系とか言われていたけど。


本物を見てしまったら偽物にすら思えてしまう。


こう言う笑顔ってきっとこの位の年齢にならないと絶対に出来ないと思う。


「いつ見ても凄く綺麗だ」


「うふふっありがとう! セレスくんも凄く素敵よ! だけど、おばさん、そんな事余り言われたことが無いから、照れちゃうわ、顔が赤くなってセレスくんが真面に見れなくなっちゃうわね」


「静子さんはおばさんじゃないよ…せいぜい、お姉さんだと思う」


「そう? そうかな?そう言われるとおばさん照れちゃうな」


「おばさんって思って無いし、凄く綺麗だと思っているよ本当にそう思っているから、だから余りおばさんって言わないで欲しいな」


「そうだったわゴメン、ついでちゃうのよね、余り言わないように気をつけるわね…本当にごめんなさい!」


「本当に綺麗で美人そう思っているから、そうしてくれた方が凄く嬉しい」


「本当に? おばさん困っちゃう…あらやだいけないわ」


「ゆっくりでいいよ」


「そう言ってくれると助かるわ」


仕方が無いよな、ゼクトのお母さんだし、恐らくは少し前まで『息子の友達』そう見ていたんだから。


俺だって最初は『こんなお母さんが居たら良いな』からのスタートだ。


最も、半分は、そういう対象で見ていたのは間違いない。


「時間は沢山あるんだからさぁ…はいこれ!」


俺は収納袋から薔薇の花束を取り出した。


「うそ、これを私にくれるの?すごく嬉しいわ、ありがとう!」


はにかみながらの笑顔、これ一つとっても『買ってきて良かった』本当にそう思える。


案外、俺はちょろいのかも知れない。


「他にもケーキも買ってきたから食べない?」


静子の顔が少しだけふくれた顔になった。


「セレスくん、それは食事が終わってからね、お菓子を先に食べるとご飯が食べられなくなるでしょう?」


これは小さい頃に静子さんや他の仲間のお母さんからも良く言われたな。


折角この流れでネックレスを渡そうと思っていたのに、仕方がない。


気がついたら俺は理想の女性の他に、理想の母親の面影も重ねていたのかも知れない。


「そうだね、ご飯をしっかり食べた後じゃないとね」


「なんだか、変な顔をしているわね」


「いや、小さい頃にゼクトと一緒に良く言われたなぁ~と思って」


「うふふっ、確かに良く言っていたわね」


本当に癒されるな。


◆◆◆


「この煮物にスープ、凄く美味しい」


「こんな田舎料理しか作れないけどね!昔から良く美味しいって食べてくれたよね、そう言ってくれるのはセレスくん位だよ」


その田舎料理が凄く美味しい。


お袋の味というか懐かしい味というか、とってもホッとする。


食べなれているからゼクトもセクトールおじさんもそうは思わないかも知れないが、これ程美味しい料理は他にはない。


『お袋の味』『ふるさとの味』こう言うのが一番近いかも知れない。


「静子さんの味って言うのかな、食べると凄くホッとする」


「うふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ、本当に作りがいがあるわ」


静子さんは良く笑う。


その笑顔を見ているだけで癒される。


こういう大人の笑顔や表情は残念ながらマリア達が出来るようになるには10年は掛かるだろうな。



◆◆◆


食事が終わると静子がお茶を入れてくれた。


この世界特有の葉っぱを乾燥させて湯を注いだものだ。


それにケーキが添えてある。


今思えば、勇者パーティは凄く不遇だった気がする。


家事一式をやらされながら、生活していた。


今とは全然違う。


「静子さん、ありがとう!」


「この位はさせて貰わないと悪いわ」


そういうこの部屋はほこり一つなく綺麗だし到底『これ位』なんて物じゃ無い。


家事をやった事が無い人間にはその苦労が解らないんだろうな。


「静子さん、これ良かったら貰ってくれないかな?」


静子がお茶を飲んで寛いでいる瞬間を狙って、ペンダントの入った箱を取りだした。


「え~と何かしら…宝石?」


「開けてみて」


「うん! 嘘これ有名なお店じゃ無いの?」


「これ位はさせて貰わないとね」


静子は綺麗な指で丁寧に包装をあけていく、そのしぐさも品がある気がするのは気のせいではないだろう。


三人ならきっとグチャグチャだ。


「ネックレス、綺麗な宝石!これを私にくれるの? 意味をちゃんと解っててくれるの?」


「勿論!」


「解ったわ、こんな物までくれるんだからもう! 私は奴隷としての価値ないおばさんだし、今の私は奴隷だから貴方が望むならこんな事しないでも命令できる存在なのよ!それなのに、本当に良いのね?後悔しないのね?」


「するわけないよ!この世界で初めて好きになった人だから…」


「解ったわ、受け入れる」


嬉しそうに静子は俺のあげたネックレスを首から掛けてくれた。


「どう? 似合うかな?」


髪をかき上げてネックレスを身に着ける静子は凄く綺麗で愛おしく思えた。




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