第3話 静子さん

良く考えた末、俺はこれから田舎に帰る事にした。


ゼクトが言っていた『田舎冒険者』それが良いかも知れない。


だが、その前に…俺は奴隷商に顔を出すことにした。


今までは勇者パーティに居たからこんな場所には来た事が無かった。


今の俺は『自由だ』娼館だろうが奴隷商だろうが自由に行ける。


「いらっしゃいませって…セレス様」


「はい、セレスです」


奴隷商の人…驚いているな。


そりゃそうだ、俺は勇者パーティに居たから顔は売れている。


その勇者パーティのメンバーの俺が奴隷商に顔を出したんだ驚くのは当たり前だ。


「あの、セレス様今日はどういったご用件でしょうか?」


「ちょっと女性の奴隷を見させて貰おうと思ってな」


「セレス様は勇者パーティですよね、大丈夫なのですか?」


勇者パーティと言えば魔王を倒すまで旅から旅、更に醜聞になるから奴隷なんて買いにくい。


だが、俺は大丈夫…最早勇者パーティじゃない。


「つい先日、勇者パーティ、希望の灯(ともしび)は首になったんだ、今の俺はただの冒険者、セレスだ」


「そうですか、それでは良い時に来られました、今はかなり多くの女奴隷がいましてエルフから元令嬢まで思いのままです…さぁさぁどうぞ!」


「いや、俺が見たいのは、家事奴隷をはじめ価値が低い女奴隷を見たいんだ」


「家事奴隷…そうですか失礼しました、確かに一人になられたら家事でお困りになられますな、このドロマ勘違いしました、それじゃあちらのカーテンから先が家事奴隷をはじめとする価値の無い奴隷でございます…どうぞご自由にご見学下さい」


言葉使いは丁寧だが表情はがっかりした様だった。


まぁ、余り儲からない客だから『どうぞ勝手に見て下さい』そんな感じだろうな。


カーテンをめくり、中を見た。


見た感じの第一印象は『酷いな』だ。


カーテンに入る前の場所は檻はある物の中には絨毯が敷いてあり椅子やベッドがあった。


見た感じは狭いホテルの一室そんな感じだった。


だが、此処にあるのはただの檻だ。


サーカス等で猛獣を入れている檻となんら変わらない。


薄暗い中ひとつひとつ檻を見ていくが、男ばかりで女性は少ない。


『流石にそんなタイミング良く良い相手が見つかるわけないか』


そう思いながらも暗い檻を覗き込む様に見ていった。


もう諦めかけていた時、一番奥の場所で一人の女性が目に止まった。


黒髪の長い髪を無造作に後ろで束ねている。


この世界はかなり前に異世界召喚を止めたから黒髪は珍しい。


俺は1人しか見たことが無い。


その一人は今、普通に考えてこんな所に居るわけが無い。


俺は檻に近づいた…彼女じゃなくても俺の前世は日本人『凄く気になる』


覗き込んだ瞬間目と目が合った。


「嘘、静子さん!」


驚いた様にこちらを見た彼女も俺を見て驚いていた。


「セレスくん…」


俺が驚かない訳が無い。


静子さんは俺の初恋の人…そしてゼクトの母親だ。


◆◆◆


購入前の奴隷と長く話すのはマナー違反だと以前聞いた。


だから俺は「静子さん、待ってて」


それだけ伝え、奴隷商を呼んだ。


「この人買います…幾らでしょうか?」


「あっ買われるのですね、それなら銀貨5枚に奴隷紋が銀貨3枚です、宜しいですか?」


思った以上に安いな…前に酒場で聞いた話しでは普通の女奴隷は最低でも金貨5枚と聞いた事がある。


心配だから一応なぜ安いか聞いてみた。


「セレス様、私はこれでも国から免許を頂いた奴隷商です、だからお客を騙して高く売りつけたりしないだけです、この奴隷で言うなら、珍しいですが人気の無い黒目黒髪、そして経産婦の高齢の村女、この位が妥当な金額です」


静子さんはゼクトの母親、そう考えたら30歳前後。


この世界だと…そうなのかも知れない。


「教えてくれてありがとう、それなら全部で金貨1枚払うから、彼女にシャワーと真面な服を用意して欲しい」


「はいご用意致します…ただ若い子用の服しかありませんが宜しいでしようか?」


「お願いする」


「それじゃ、こちらの皿に血を少し下さい…奴隷紋に使います」


「ああっお願いします」


サロンでお茶を飲むこと30分…着飾った静子さんが現れた。


「凄く恥ずかしいわ」


そう言ってスカートを引っ張る静子さんは凄く可愛い。


まぁ奴隷商が用意する服だから丈が短く油断すると下着が見える位セクシーだ。


「静子さん、ごめん…此処を出たら新しい服を買いに行くから」


「そうね…こんな、おばさん買って貰って悪いけど、これは恥ずかしいわ、そうしてくれると助かるわ」


そういう静子さんは耳まで赤くして可愛く見える。


「セレス様、一応これ書類です…まぁ無くしても奴隷紋が刻まれていますから、所有者は解りますから問題はありません、これよりこの女性は貴方の物です…ありがとうございました」


俺は耳まで赤くなった静子さんの手を取り奴隷商を後にした。


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