第47話 不安でたまらない~リュカ視点~

「は~」


ついため息が出る。どうしてこんな事になってしまったのだろう…


「ジュリア…会いたい…」


あの日、僕が犯した失態のせいで、ジュリアを深く傷つけてしまった。いくらあの女に嵌められたからと言っても、彼女を傷つけてしまった事には変わりない。


「今日でジュリアが学園に来なくなって3日目か…」


なんとか誤解を解きたくて、毎日ジュリアの家に出向いているが、いつも申し訳なさそうに頭を下げる夫人。


「リュカ殿下、娘は少し混乱している様です。あの子は…変なところで繊細と言いますか…不器用と言いますか…ですから、どうかもう少し待ってやってください。本当に申し訳ございません」


夫人も第二王子の僕を追い返すのは、精神的にキツイだろう。学院でも僕を心配したジャンとジャスミン嬢が声を掛けてくれる。ジュリアの家族は、彼女を傷つけた僕にもとても優しいのだ。


でも、その優しさが辛い…


ゴーン王太子殿下もこの隙に、少しでもジュリアに近づこうと侯爵家を訪れている様だが、こちらも会わせてはもらえていない様だ。


その点に関してはホッとしている。でも…ジュリアは僕の事をきっとまだ好きではないのだろう。その事を考えると、不安でたまらないのだ。


あの日以来、毎日悪夢にうなされる。目の前にはジュリアとゴーン王太子殿下が幸せそうに腕を組んで歩いて行くのだ。僕がどんなにジュリアの名前を呼んでも、こちらを振り向いてくれない。


まさに地獄の光景だ。目が覚めた時には汗だくで、本当に生きた心地がしない。でも、この夢は正夢になるかもしれない。そう思うと、胸が張り裂けそうになるのだ。


ふとある機械を取り出した。この機械はジュリアにあげたイヤリングと連動しており、あのイヤリングには映像と音を拾える機能が備え付けられている。もしもの時の為に付けさせたのだが。この機械を使えば、彼女の様子がわかる。


いいや、ダメだ。いくら彼女の様子が知りたいからって、こんな事をしては!それに万が一、僕の事が大嫌い、もう信用できないなんて言葉を、ジュリアが発していたら…僕はもう生きていけない。


結局機械を机の奥にしまった。


その時だった。


「リュカ、大丈夫か?」


僕の元にやって来たのは、母上と兄上だ。


「リュカ、食事を持ってきたのよ。お願い、少しは食べて。スリーティス侯爵家の料理人に頼んで、ジュリアちゃんが開発した料理を作ってもらったの」


「ありがとうございます。母上。でも、今は食欲がないので…」


僕はあの日以来、食事も喉を通らなくなってしまった。かろうじて学院には行っているが、ほぼ無表情で過ごしている。時折マリーゴールド殿下が絡んでくるが、正直顔も見たくない。その為、視界にも入れない様にしている。


「リュカ、今日マリアナがジュリア嬢に会いに行ったよ。マリアナの話しだと、明日から学院に来るそうだ。それから、マリーゴールド殿下の事だが、色々と調べがついた。時間がかかってしまって済まなかったな。これでリュカの疑いも晴れるだろう」


「明日ジュリアが学院に来るのですか?でも…彼女は僕を許してくれるでしょうか…マリーゴールド殿下に抱き着いた事は事実ですし…」


「許すか許さないかは、ジュリア嬢が判断する事だ。たとえ許してもらえなかったとしても、リュカとジュリア嬢が結婚する事には変わりない。これは決定事項なんだ。また時間を掛けて、信頼を取り戻していけばいいだろう?」


「ありがとうございます…兄上…」


明日ジュリアに会えるのは嬉しい。でも、ジュリアは僕をどう思うだろう…

そもそもジュリアは、僕の事を愛していない。さらに今回彼女を裏切った。そんな僕と一緒にいて、彼女は幸せなのだろうか…


「リュカ、不安な気持ちはわかるわ。でも、そんな弱気でどうするの?私もね、お父様に見初められ、あれよあれよといううちに、婚約させられたの。最初はお父様の愛が大きすぎて戸惑ったわ。私が王妃に何てなれるのかしら?そう思った事もあった。でも、今ではお父様を愛しているし、これからも共に生きていきたいと思っているの。ずっと一緒にいるとね、情の様なものも生まれるし」


僕のベットに腰を掛け、まっすぐ見つめる母上。


「ねえ、リュカ。ジュリアちゃんはあなたとマリーゴールド殿下が抱き合っている写真を見て、ショックを受けたのよね。それって、少なからずあなたに興味を抱いているという事ではないかしら?もし全く興味がないのなら、別にあなたが誰と抱き合おうが、何とも思わないのではなくって?」


「そうだよ、リュカ。僕もずっとマリアナから愛されていないと思っていたけれど、彼女は僕を誰よりも愛してくれていた。きっとジュリア嬢も、リュカの事を大切に思っていると思うよ」


「母上…兄上…ありがとうございます。僕…本当は不安でたまらなかったのです。僕だけがジュリアを好きでいるのではないか。僕と一緒にいて、ジュリアは本当に幸せになれるのかって。でも、もうジュリアなしの人生なんて考えられないし…その上、こんな事件まで起こして…」


ポロポロと涙を流す僕を、優しく抱きしめてくれる母上。


「リュカ、ずっと不安だったのね。でもその不安な気持ちを、ジュリアちゃんに伝えてみる事も大切よ。だって、言葉にしないと相手の気持ちなんて分からないでしょう?明日、しっかり話し合ってみなさい。大丈夫、もうリュカは、昔のリュカではないのですもの。自分の気持ちをしっかり言える、しっかり者になったのだから」


「僕が、しっかり者?」


「そうよ。もうあなたは、人の顔色ばかり見ている子ではなくなったでしょう。でも、きっとあなたを変えたのは、ジュリアちゃんね」


そう言って母上はクスクス笑っている。


「ありがとうございます、母上。明日きちんとジュリアに話しをしてみます」


正直まだ不安の方が大きい。でも、僕はジュリアを失いたくはない。出来る事は何でもしよう。大切なジュリアとの未来の為に…

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