第35話 ピクニックに行きます

翌日、早速ジャガイモ料理を披露する。昨日作ったコロッケやポテトサラダ、フライドポテトなどはもちろん、シンプルなジャガバターやジャーマンポテトなども作った。


「ジュリア様は本当に次から次へと料理が出てくるのですね。凄いです」


料理人や執事たちが、目を輝かせている。中には私の手を握って感動している料理人もいた。ただ…リュカ様によって、すぐに引き離された。


「ジュリアは僕の婚約者だよ。彼女の料理に感動するのはわかるが、気安く触らないでくれるかい?」


そう言って料理人に威嚇をしていた。


「申し訳ございません!」


と、小さくなる料理人。手ぐらいいいのでは…そう思ったが


「ジュリアは少し、警戒心がない様だね。君はちょっと抜けているところがある。いいかい?僕が一緒のとき以外は、厨房で料理を作るのを控えてくれ。部屋にもキッチンを準備してあるから、あそこで作ってもいいしね。いいかい、わかったね」


そう言われてしまった。


ちなみに領地に来てから、ほぼずっとリュカ様と一緒にいる。私がぬか床を混ぜている時も、散歩に行くときも、ずっと側にいてくれるのだ。


さらにリュカ様が視察に行くときは、私も必ず同行している。さすがに毎回私が付いて行くのはどうかと思い、リュカ様にその旨を伝えたのだが


「ジュリアは僕の妻になる人だからね。僕がどんなことをしているのかも、見てほしいんだ」


そう言われてしまっては、何にも言い返せない。そんな日々を過ごしているうちに、気が付けば1ヶ月が経とうとしていた。


「ジュリア、明後日はついに王都に戻る日だね。今回僕と一緒に、領地についてきてくれて本当にありがとう。ジュリアのお陰で、さらに領地も潤いそうだし。王都に戻ったら出店準備など、色々と忙しくなると思う。それで…その…明日は一緒にピクニックに行かないかい?」


夕食を食べている時、急にそんな事を言い出したリュカ様。ピクニックか、それは楽しそうね。


「ええ、是非行きたいですわ。ここは自然が豊かですので、きっと目いっぱい楽しめそうですわね」


「よかった。それじゃあ明日、よろしく頼むよ」


「はい、分かりましたわ」


明日はピクニックか。なんだか楽しみね。


翌日、雲一つない快晴。絶好のピクニック日和だ。朝早く起きた私は、お弁当を作った。せっかくなら、リュカ様に喜んで貰いたいからだ。せっかくだから、卵サンドも作ろう。デザートには、ジャガイモを使ったスイートポテトだ。そうだわ、コロッケパンも作らないと!


料理人と楽しく料理を作っていると、すごい勢いでリュカ様がやって来た。


「ジュリア、勝手に厨房で料理を作ってはいけないと言っただろう!」


珍しく怖い顔で怒られてしまった。


「ごめんなさい…せっかくのピクニックなので、リュカ様に喜んでほしくて…」


「ごめん、そうだったんだね。そんな悲しそうな顔をしないくれ。僕が悪かったよ」


慌てて私を抱きしめてくれたリュカ様。なんだかんだ言って、とても優しい。約束を破ったのは私なのに…


「私の方こそ、約束を破ってごめんなさい。ちょうどお弁当も出来たところです。さあ、朝ご飯を食べに行きましょう」


リュカ様の手を取り、2人で食堂に向かう。食後は早速馬車に乗り込み、出発だ。


「今日はね、あの森に行こうと思っているんだ。珍しい動物がたくさんいるんだよ」


リュカ様が指さした方向を見ると、立派な森が目についた。珍しい動物か。どんな動物がいるのかしら?


ドンドン森の中に入って行く馬車。



ふと窓の外を見た私は、一瞬にして固まる。何なの、あの動物は!


「リュカ様、羽が生えたウサギがいますわ。あっちは恐竜?」


本当に見た事がない動物たちがいるのだ。私はてっきり、リスやキツネなどを想像していたのだが…


「ああ、あれはフライングラビット、君が恐竜?と呼んだのはダイーナだ。この地域では、一般的な生き物だよ」


あれが一般的な生き物ですって?あり得ないわ。さらに森を進むと、美しい銀色の狐が、2本足で走っている。さらに、ラッコの様な生き物が空を飛んでいるわ。


あり得ない光景に、目を丸くすることしかできない。


しばらく進むと、開けた場所に出た。ゆっくりと馬車が停まる。


「さあ、着いたよ。ジュリア、君はすぐに迷子になるからね。僕の手を絶対に離してはいけないよ。それから、勝手にどこかに行くのも禁止だ。いいね」


馬車から降りようとした私を一旦座らせ、真剣な表情でそう言ったリュカ様。もう、迷子に何てならないわよ。


「大丈夫ですわ。最近は迷子になっておりませんし…」


「油断は禁物だよ。それからあっちの森の方は、肉食動物もいるから、絶対に行ってはいけないよ。食べられたら大変だからね」


えっ?そんな恐ろしい森なの…とにかく、リュカ様の側から離れないようにしないと。


ギューッとリュカ様にくっ付き、ゆっくり馬車から降りる。目の前には、美しい湖が。でもこの湖、色がおかしいわ。


ゆっくり湖に近づくと、なんと虹色に輝いていたのだ。


「嘘…あり得ない…虹色の湖だなんて…」


湖を呆然と見つめる私に、リュカ様が声を掛けて来た。


「この湖は特殊でね。水の中に特殊な成分が含まれているんだ。それで、光に当たると虹色に見えるんだよ。ジュリア、湖に手を入れてごらん」


「こうですか?」


ゆっくり湖に手を入れる。すると、小さな魚たちが集まって来た。


「くすぐったいですわ。でも、なんだか気持ちいい」


「この魚たちは、人間の古い角質が大好物なんだ。だから人間が手や足を入れると、こうやって集まって来るんだよ」


なるほど。だから私が手を入れたら、すぐに集まって来たのね。せっかくなので、両足も入れた。これは病みつきになりそうだわ。


「さあジュリア、次はあっちのお花畑に行ってみよう。珍しいお花が一杯咲いているよ」


リュカ様に連れられ、今度はお花畑にやって来た。リュカ様が言っていた通り、珍しい花々が咲いている。


「ジュリア、この花はね。僕たち人間が話した言葉と同じことを言うんだよ。見ていて。“僕はリュカです”」


“僕はリュカです”


「まあ、本当にリュカ様の言った言葉を発したわ。凄いですわ」


この森には変わった動物だけでなく、変わった植物もたくさん生えている様だ。その後もお花畑をリュカ様と一緒に見て回ったり、花冠を作ったりして楽しい時間を過ごす。


「ジュリア、そろそろお腹が空いたね。ご飯にしようか?」


「そうしましょう。私、お腹ペコペコですわ」


2人で馬車の近くまで戻り、お昼ごはんを食べる事にしたのだった。

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