第24話 やっぱり断る事は出来ません

部屋に入ると、国王陛下、王妃様、さらに第二王子が待っていた。


「遅くなり申し訳ございません。国王陛下、王妃殿下、リュカ殿下」


お父様が頭を下げるのと一緒に、私もお母様も頭を下げた。


「急に呼び出してすまなかったね。スリーティス侯爵、夫人。それから、君がジュリア嬢だね。妻と息子から、話しは聞いているよ。さあ、座ってくれ」


陛下に促され、席に付く。なんだか物凄く緊張してきたわ。


「ジュリアちゃん、昨日は美味しいお料理ありがとう。本当に美味しかったわ」


「私もおせんべいと言うものを食べたが、本当に旨かった。侯爵、こんなに美味しいお菓子を、世に出さないなんてもったいない!せっかくだから、王都で店を出してみてはどうだ?そうだ、たくさん作って、他国に輸出するのもいいな」


「あのおせんべいをでございますか?確かにあのお菓子は、私どもも非常に気に入っておりますが…」


「あんな旨い物で商売をしないのはもったいない!私も協力するから、是非検討して欲しい」


「陛下にそうおっしゃって頂けるのでしたら、是非お願いいたします。その為には、まず米の生産を増やす必要がありますね。それから大豆も」


「よくわからないが、それらの生産を行う必要があるという訳か?もっと詳しく…」


「あなた!今日はおせんべいの話しをするために、わざわざ侯爵に来ていただいた訳ではないでしょう。そんな話は、後にして下さい!」


おせんべいの話しで盛り上がる2人を止めたのは、王妃様だ。まさかおせんべいで貿易をしようだなんて…そういえば陛下はかなりやり手と聞く。さすが、目の付け所が違うわ。


「すまん、それでだな。スリーティス侯爵家の次女、ジュリア嬢を、リュカの婚約者にしたいのだが。ここに正式に婚約申込書も作った。どうだ、受けてやってはくれないだろうか?」


王家から正式な婚約申込書を渡された。


「あの…陛下。大変申し上げにくいのですが、ジュリアは少し変わっていると申しますか…なんと申しますか…とてもリュカ殿下の婚約者は務まりません」


さすがお父様、言いにくい事をズバッと言ってくれた。


「あら、ジュリアちゃんは、そんなに変わった令嬢ではないわ。とっても素敵な子よ」


「僕もジュリア嬢は、とても魅力的な令嬢だと思っています。確かにすぐに迷子にはなるけれど、そこもまた魅力の一つですし。それに、僕はジュリア嬢とこれからの人生を共に歩んでいきたいんです。どうかよろしくお願いします」


何を思ったのか、第二王子が頭を下げたのだ。


「殿下、どうか頭をお上げください」


これにはお父様も驚いて、必死に頭を上げる様伝えている。


「ジュリア嬢の成績等も確認させてもらったが、かなり優秀な様だな。マナー面に関しても、問題なさそうだ。それにリュカはいずれ家臣に降りる身。あまり深く考えてもらわんでも、大丈夫だ」


さすがにここまで言われては、お父様も断れないと思ったのか


「わかりました。不束な娘ですが、どうかよろしくお願いいたします」


そう言って頭を下げたのだ。お父様ったら、王家の圧力に負けるなんて!


「あの…お言葉ですが、私は貴族界でも変り者と呼ばれております。料理の開発はもちろん、屋敷ではたるんだズボンを履いて生活しております。はっきり言って、令嬢らしくありません。そんな私が、殿下の婚約者が務まるとは思いません。ですので、どうか別の令嬢を…」


「ジュリア嬢、僕は初めて君に会った時から、猛烈に君に惹かれたんだ。きっと君の令嬢らしからぬ行動に、興味を抱いたのかもしれない。とにかく、僕はどんな君でも構わない。だから、どうか僕の婚約者になってくれないかい?もちろん、意地悪な令嬢たちから全力で君を守るから」


私を真っすぐ見つめ、そう言った第二王子。さらに


「ジュリアちゃん、そのたるんだズボン、マリアナちゃんから見せてもらったの。よくできていたわ。確かに私たち貴族や王族は、外では身だしなみをしっかりする必要があるわ。でも、自分の部屋の中ではどう過ごそうといいのではないかと私は思っているの。現にマリアナちゃんも、自宅ではあなたに貰ったジャージ?と言うものを愛用している様だし。そんなに難しく考えないで」


マリアナったら、まさか王妃様にジャージを見せていたなんて。でも…ここまで言われては、さすがに言い返す事なんて出来ない。それに…陛下や王妃様、第二王子はもちろん、お父様やお母様まで、“もう諦めなさい”と言わんばかりの目で私を見つめている。


もう!わかったわよ。


「分かりました。私の様な不束者でよろしければ、どうぞよろしくお願いいたします」


ぺこりと頭を下げた。


「やった!これでジュリア嬢は僕の婚約者だ!早速婚約をかわそう。さあ、これにサインして」


第二王子が持ってきたのは、婚約届だ。第二王子の記載欄はもちろん、陛下や王妃様の場所まで記載されている。なんて用意がいいのかしら…


結局促されるままに、お父様とお母様、私もサインしてしまった。


「それじゃあ、この紙を提出して来てもらえるか?それから他の貴族に、リュカとジュリア嬢が正式に婚約を結んだことを伝えてくれ」


「かしこまりました」


あぁ、本当にその紙を出してしまうのね。その上、貴族たちに伝えるなんて…やっぱり止めたなんて、口が裂けても言えなくなったじゃない!そんな私の元にやって来たのは、第二王子だ。


「これで君は僕の婚約者だ。これからよろしくね、ジュリア」


急に馴れ馴れしく呼び捨てにしてくる第二王子。でも、一応婚約者だ。こっちも挨拶をしないと。


「はい、よろしくお願いいたします。殿下」


「僕たちはもう婚約者なんだよ。名前で呼んで。ほら、もう一度」


くっ!面倒くさい男ね。


「リュカ様、よろしくお願いします」


面倒だと思いつつも、彼の名前を呼んでみる。すると、それはそれは嬉しそうな顔で笑ったのだ。名前を呼ばれただけで、こんなに喜んで貰えるなんて…


なんだか悪い気はしないわね。

とにかく、これからは第二王子改め、リュカ様の婚約者として生きていく事になる。

私、令嬢たちに八つ裂きにされないかしら…

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