第13話 王太子殿下から呼び出しがありました

今日もマリアナと楽しいティータイムを過ごした後、馬車に乗り込もうとした時だった。


「ジュリア嬢、これを」


男性が何やら手紙を渡してきたのだ。一体誰からかしら?男性に誰からか聞こうと思ったが、すぐに去って行ってしまった。


仕方ない。馬車の中で早速手紙を見る。

これは…

王太子殿下からだわ。

急いで中を開けると“君と一度ゆっくり話がしたい。明日、王宮に来てくれ!”と書かれていた。きっとマリアナの事で、私に文句を言いたいのだろう…なんて器の小さな男なの。でも、さすがに王太子殿下の申し出を、無視する訳には行かない。


どうしよう…マリアナに相談しようかしら?

いいえ、相談なんかしたら、きっと2人は喧嘩をしてしまうわ。本来なら私がマリアナの側を離れた方がいいのだろうが、せっかく出来た大切な友達を失いたくはない。


一体どうすればいいのかしら…


結局その日は、どうすればいいのか悩みながら過ごした。



翌日

私の重苦しい心とは裏腹に、憎らしいほどいい天気だ。そして今日は、貴族学院もお休み。あぁ、王宮なんて行きたくない。でも…行かない訳には行かない。


「ファリサ、悪いけれどドレスに着替えさせてくれる?」


近くにいたファリサに依頼する。


「まあ、お嬢様がお休みの日にドレスだなんて!今日は嵐にでもなるのかしら?」


そう言って外を見ている。本当に、失礼ね!


「王太子殿下に呼ばれているから、王宮に行かないといけないのよ!さすがにジャージで行く訳には行かないでしょう?」


「王宮ですって!お嬢様、一体あなた様は何をなさったのですか?」


「何もしていないわよ!ただ…マリアナと仲良くなったから、あの器の小さな王太子が私に焼きもちを焼いているのよ。大体、婚約者が女友達と仲良くしたからって焼きもちを焼くなんて、それでも王太子なのかしら?」


つい思っていたことを爆発させてしまった。


「お嬢様、思っていてもその様な事は言ってはいけません!国家反逆罪で捕まりますよ!」


すかさずファリサから注意を受ける。ファリサったら、今“思っていても”と言ったわよね。という事は、きっとファリサも思う事があるのだろう。


「とにかく面倒だけれど、行かないといけないの。早くドレスに着替えさせて!」


「分かりましたわ。でも、お嬢様だけでは心配ですわね。お坊ちゃまは…今日は騎士団の稽古で留守ですし、ジャスミンお嬢様はジルド様(ジャスミンの婚約者)のところですし、やっぱり奥様…」


「止めて!お母様にこのことがバレたら、間違いなくジャージを没収されるわ。とにかく、私1人で何とかするから、絶対に言わないで。わかったわね」


ファリサに強くお願いしておいた。


ドレスに着替えたら、いざ出発。玄関に向かうと、運悪くお母様と出くわしてしまった。


「あら、ジュリア。あなたがドレス姿だなんて珍しいわね。どこかにいくの?」


「ええ…ちょっとお友達のところに…」


「そう、くれぐれも粗相を働かない様に気を付けるのよ」


「わかっていますわ。それでは行ってきます」


お母様を振り切り、さっさと馬車へと乗り込んだ。


びっくりした、まさかお母様と出くわすなんて。それにしても、王太子殿下め、わざわざ私を呼び出すなんて。


もし“マリアナにこれ以上近づくな”なんて言われたらどうしよう…

さすがに王太子殿下に逆らう事なんて出来ないし…


「は~」


ついため息が出る。本当に嫉妬深い男って嫌になるわ。マリアナは嫌じゃないのかしら?


そういえば、子供の頃参加したお茶会で、王太子殿下に見初められ、そのままあれよあれよと話しが進み、気が付いたら婚約者になっていたと言っていたわね。


そんな事を考えているうちに、目の前には立派な王宮が見えて来た。そういえば私、王宮に来るのは初めてだわ。なんだか緊張してきた。


門の前で馬車が停まった。

ゆっくり馬車から降りると…


「ジュリア・スリーティス侯爵令嬢様でございますね。王太子殿下がお待ちです。さあ、こちらへ」


どうやら王太子殿下は既に待っている様だ。もしかしたら門番から、“そんな話は聞いていない”と、追い返されるかと思っていたのに…


さすがにそんな事はないか…


重い足取りで、使用人に付いて行く。それにしても、王宮内って本当に立派ね。あのシャンデリア、金で出来ているのかしら?あの壺も高そうね…


しばらく進むと、これまた立派な扉の前で止まった。どうやらこの部屋の様だ。


「少々お待ちくださいませ」


そう言うと、1人で部屋の中に入って行く使用人。このまま出てこなくてもいいわよ!なんて考えてしまう。


でも、すぐに使用人が出て来て、中に入る様に促される。


仕方ない、女は度胸よ!


意を決して部屋の中に入ると、ものすごく不機嫌そうな顔の王太子殿下が待っていた。既に嫌な予感しかしないのだが…


「王太子殿下、お待たせして申し訳ございません」


とりあえず頭を下げておいた。


「本当に、僕をいつまで待たせるつもりなんだい?これだから嫌なんだ」


何なのよ、こいつ!そもそも何時に来いなんて書いてなかったじゃない!こみ上げる怒りを必死に堪える。


「いつまでそこでボーっと突っ立っているんだ。さっさと座ってくれないかい?話が出来ないだろう?」


面倒くさそうにそう言い放った王太子殿下。この上なく感じが悪い。でも、ここは我慢よ!そう言い聞かせ、席に座った。いよいよ話し合いスタートだ。

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