第2話
婚約の解消は滞りなく行われた。
元々私の家族はこの婚約に積極的ではなかった。
そのため、あの日屋敷に帰ってから事の顛末を伝えると、お姉さまもお母さまもお父さまもみんな抱きしめてくれた。
だから自室に入ってからは少し泣いてしまった。
フィリップの前では我慢していたのに、つい一人になると切なさに押しつぶされそうになった。
それから、学園生活は変わった。
少し居心地よくなった。
憧れの対象であるフィリップの婚約相手として、周りから嘲笑されていたのは分かっていたもの。
婚約の解消が知られたおかげで、誰からもやっかまれることはなくなったわ。
今ではむしろ憐れまれている。
それはそれで胸が痛くなるけれど、私のせいでフィリップの名声に傷をつけることは無くなってよかった。
そして私との婚約が解消されてすぐ、フィリップの隣には女の子が集まるようになった。
私より位の高い公爵令嬢に、学園一綺麗な子、そんな子達が集まるのは流石としか言いようがない。
だけれど、彼は相変わらず不愛想だ。
同性の私でも息をのむような笑みを向けられても胡散臭そうに顔を背けるだけ。
まぁ私の時みたいに、直接冷笑は浮かべないのだけれど。
「アリーヌ、どうかした?」
「いいえお姉さま。なんでもありませんわ」
「そう。ならいいんだけど」
お菓子を作っている最中だというのに、考え事に耽ってしまった。
お姉さまに声をかけられてハッとする。
もう彼との関係は終わったのだから、すっぱり忘れてしまわないとね。
甘い匂いの立ち込めるオーブンの前でじっとしていると、隣にお姉さまが立つ。
「久々のお菓子作りなのに、元気ないわね」
「そう見えます?」
「そりゃもう。ずっと元気はなかったけど、ここ数日は輪をかけて酷いわ」
「気のせいですわ。きっと」
「どうせ彼の事を考えてたんでしょ? フィリップ第四王子」
指摘が図星だったため、私は口をつぐんだ。
黙り込む私にお姉さまはため息を吐く。
「あまり気にしないことよ。彼、偏屈で有名だしアリーヌは悪くないわ」
「でも、でも……」
「こういう時は外に目を向けるものよ。きっと良い出会いがあるはずよ」
外、か。
要するにフィリップ以外の男性と、って事よね。
改めて彼以外の男性と結ばれる事を想像する。
否、想像しようとして苦笑した。
フィリップとの婚約が成立して三年。
私も今年で十六歳だ。
今更他の男性なんて、想像もつかないわ。
なんて思っていた私だったけれど。
「おい! アリーヌ! お前に縁談だ!」
血相を変えて扉を開けるお父さまを見て私は口をあんぐり開けた。
偶然ってあるものね。
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