第16話 付き合ってやる
現役JKに告白された。
しかも相手はVtuberで人気の職業に就いている女性だ。
付き合いたい男共は沢山いるだろう。
急展開に頭が追い付かない。
「彼氏って、どういうこと?」
「私、男の人が嫌いなんです」
「うん……」
早くも矛盾すること言うな。
最近、痴漢に遭ったりして、男に対していい想いはしていないだろうなとは思っていたけど。
「でも、男の人に興味はあるんです」
「はあ……」
正直だな。
普通、恋愛が出来ない人っていうのは、異性に興味ない。
もしくは、興味あるけど、興味ないって見栄を張る人間ばかりだ。
正直に異性に興味あるけど、嫌いってストレートに自分の感情を言える人は中々いないと思う。
「だから付き合ってください!!」
「なんで!?」
「マネージャーが安パイだからです」
「失礼だろ!!」
「だって、マネージャーって童貞ですよね!?」
「ど、童貞ちゃうわ!! そっちだってヤッってない女だろうが!!」
「さ、最低です!! 女の子にそんなこと言うなんて!! 犯罪です!!」
「じゃあ、童貞言うな!!」
なんで女が男を童貞扱いしたらギャグで済むのに、逆の言葉言ったら犯罪者扱いされないといけないんだ。
俺だって女嫌いだわ。
「付き合ったからって何の手も出さないですよね?」
「それは幻想抱き過ぎだ……。俺にだって人並みに下心はある」
「え? や、やっぱり……」
「女子高生に手を出すようなロリコンではないがな!!」
「だったら付き合ってくださいよ」
「付き合うって意味わかってないだろ……」
絶対その場のノリで言っているよ。
男の人が苦手とか言いながら、俺に告白してくるってことは、逆に俺のことを男として見ていないってことだよな。
このまま放置したら、俺に隠れてまた裏垢作りそうで怖いな。
ここは相手の思惑に乗るしかない。
「分かった。付き合おう」
「え? 本当ですか!?」
「ただし、ごっこ遊びに付き合うだけだ」
「どういうことですか?」
「要は男の人と付き合うっていう実感があればいいんだろ? だったら、付き合う振りでもいいはずだ」
「それは、そうですけど……」
「女子高生と付き合うのは犯罪になる可能性があるから、そもそも付き合えないんだよ」
「手を出したら駄目なんじゃないですか? 付き合うのでも犯罪何ですか?」
「手を出したか出してないかなんて悪魔の証明だ。第三者がその証明をできる訳がないだろ」
というか、手を出したらの意味も分かってるのか。
男の人が苦手っていうぐらいだから、付き合ったことはないだろうけど。
スマホで今は何でも調べられるから、耳年増になっているのかも知れないな。
俺等が学生時代もネットが使えたけど、パソコン、ガラケーが主だった情報収集源だったからな。
今の子達みたいにスムーズに調べものはできなかった。
パソコン起動するのに30分以上かかったり、ドガガガガ!! と異音が発生していたり、ガラケーのアンテナを伸ばしていた時代があったのと言ったら、キラリは信じるんだろうか?
「じゃ、じゃあ。写真撮っていいですか?」
「じゃあ?」
キラリがスマホ片手にしながら、興奮気味ににじり寄って来る。
なんか襲われそうで怖いんだが。
「写真って?」
「カップルみたいな写真を撮りたいんです」
「……SNSに上げたら、今度こそ破滅するぞ」
「そうじゃなくて写真で撮るだけです!! 一枚だけでいいですから!!」
そんな先っぽだけみたいな言い方されても……。
時間が合えば遊ぼうという台詞並みに信用できないんだけど。
「どういう写真を撮ればいいんだ?」
「手を繋ぐ写真がいいです」
「手ね。それぐらいだったいいか」
「やった!!」
可愛く飛び跳ねるように喜ぶ。
そこまで嬉しいのか。
男に飢えているのかな。
俺が高校生の時はそこまで異性に興味持てなかったけど、これぐらいが健全な反応なのかもな。
「……そんなゴミを掴むような手の繋ぎ方ないだろ」
キラリが服の裾を握ってきたのだが、生ごみが入った袋を掴むような持ち方だ。
俺が苦手だからという理由ではなく、男が苦手だからという理由でそんな挙動をしたのだと思いたい。
「じゃ、じゃあ、これで」
キラリがおずおずと手を差し出してきたので、手を乗せてみる。
「なんかダンスするみたいですね」
口では経験者ぶりたいけど、俺も結構緊張しているみたいだ。
手をちょこんと乗せただけだ。
これじゃあ、キラリが空想したエア彼氏に完敗だろう。
「これでどうだ?」
「こ、恋人繋ぎ……!!」
お互いの両手を合致させて離れないようにする握り方。
リアクションが大きいけど、あまりにもレベル低いやり取りだな。
客観的に今の俺達を観たら相当アホに見えるだろう。
「写真撮りますね」
カシャカシャと、数十回以上、スマホからシャッター音が鳴り響く。
「何枚撮るんだ!?」
「あと一枚、一枚だけ」
「もういいだろ!!」
俺は手を離すと、あっ、と名残惜しそうに俺の手を見つめる。
そもそも写真を撮るために超接近していたせいで、キラリの髪が頬に触れたり、腕と腕が当たったせいで無駄に意識してしまった。
久しぶりに女性とあれだけ物理的に距離が近かったせいもあって、俺も頬が熱くなったな。
「それじゃあ、満足しただろ。写真を削除してもらおうか」
「……今日家に帰ってから削除するんじゃ駄目ですか?」
「駄目だ!!」
俺が怒ると、シュンとした演技をしながら写真を削除する。
ここで騙されたら駄目だ。
このまま返したら、家でまたSNSに上げて承認欲求を満たすに違いない。
完全に削除しきるのを見守る。
「よし、これで満足したな」
「何言っているんですか!? 一回で満足する訳ないじゃないですか!! たまにまたこうやって私に付き合ってください。――じゃないと、私また裏垢作ってエア彼氏の自慢ツイートをするかも知れないです」
「きょ、脅迫しているつもりか……」
「どう受け取るかはマネージャー次第ですね」
挑戦的な眼で見てくる。
子どもの駄々に付き合っていたら、要求がエスカレートしかねない。
ここでビシッと大人の威厳を見せるべきだ。
だが、俺がそういうことが出来る人間だったら、ここまで言い包められていないんだよな。
キラリは恋愛ごっこに憧れているだけだ。
カップルっていうのはそんなにキラキラした関係じゃない。
あくまでメリットデメリットの関係でしかないと分かれば、熱も冷めるだろう。
その現実を教えるのも、マネージャーとしての責務なのかも知れない。
「……分かった。あと少しだけな」
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