第14話 キラリの家庭環境と趣味・特技


「キラリの親って厳しい?」


 会議室でキラリと対峙して、とりあえずした質問。

 今後の配信予定ではなく、世間話から入ったので困惑しているようだ。


「……何ですか、その話? 誰かから私の親ついて聞きました?」

「いや、聞いていないけど」


 なんだろう、その引っかかる言い方。

 もしかして親子関係に問題あるのかな。


「まあ、父親は厳しいかも知れないですね。礼儀とか作法とかには厳しいです」

「それって、いい親御さんじゃないか」

「…………」


 当たり障りない言い方をしたのだが、不満そうだ。


 父親が口うるさくてウンザリって言いたそうだ。

 家族の中だと父親が強く子どもに注意するので、嫌われ役になりがちな気がする。

 子どもの為に厳しく言っても、子どもからすればウザいだけなんだろうな。

 親になっていないから、キラリの気持ちの方に肩入れしちゃうけど。


「お母様は?」

「お母さんは、普通ですかね。買い物もたまに二人で行きますけど」


 母親との仲は良好なのか。

 まあ、どこの家庭も娘と母親は家族というより友達関係みたいになることが多いんじゃないだろうか。


「何でそんな話を?」

「いや、自宅で配信する時にどこまでご両親が許可してくれるかなって思って」


 ミラちゃんと話をしていて生じた疑問だ。

 両親と共に暮らしているのなら、まずは親の理解がないとまともな配信ができないんじゃないかって。


 どれだけの音量で喋っていいのかでも、配信内容は変わってくる。


 絶叫するのが駄目ならホラーゲーム配信はNGだ。

 どうしても声が大きくなるカラオケ配信だって駄目なご家庭もあるだろう。


「……親にはVtuberであること話していないんですよ」

「ええ!? じゃあ、家で配信できないよね!?」

「はい。だから家じゃなくて、撮影場所はここのスタジオを借りてます」

「そうなんだ……」


 Vtuberって確かに親に内緒でやっている人が多い気がする。

 親にVtuberやっていることをカミングアウトしましたみたいな動画が前にバズってたよな。

 やっぱり、安定しない職業をやっていたら親には言いづらいよな。

 親は子どもがやる仕事だったら公務員が一番嬉しいだろうし。


「ん? でも未成年がVtuberやるっての親の許可がいるんじゃ?」

「母親には話していますけど、父親には話してないですね。私の家の父親に話しても反対されるだけですから」

「父親の理解はなさそうなんだ?」

「ええ。そもそも未だにネットをあまり使わないんですよね。テレビや新聞が絶対だって思ってます。動画観ない人がVtuberなんて理解できないですよ」

「なるほどね……」


 年齢を重ねれば重ねるほど流行には鈍感になりやすい。

 面白い番組なんてテレビ番組であるかな? って俺は思っているけど、ニュースやドキュメンタリー番組とかはテレビの方が今でも圧倒的に上だと思っている。


 番組にかける予算もとんでもない違いがあるし、動画だとセットもないし、安っぽく見えるかも知れない。

 テレビ至上主義の人が未だにいてもおかしくはないのかな。


 動画を滅茶苦茶見ている人の中だって、Vtuberは観ないっていう人も多いだろう。

 高校生から大学生が一番見ている層が多いんじゃないだろうか。

 そう考えるとVtuberが面白いっていう人の範囲滅茶苦茶狭いんだよな。

 父親世代の人には否定されてもおかしくないな。


「だとすると、配信はここのスタジオでできることに限られるか……」


 家じゃないから、ホラーゲーム配信とかカラオケ配信とかの音量を気にする必要はなくなった。

 だが、ここで新たな問題が浮上する。


「長時間配信は難しいな……」


 キラリが高校生ということで事務所は長時間配信をそもそも推奨していない。

 スタジオを借りての夜の配信もご法度だ。


 それにスタジオを借りての配信となると、それだけ配信ができないことになる。

 スタジオの数は限られている。


 キラリ以外にもスタジオを借りて配信をやる人間は沢山いる。

 この会議室だって予約しないとまず使えないのだ。

 だからこの事務所で配信するとなると、長時間配信はまずできない。


 最初から長時間配信は予定していなかったけど、それだけやる企画が潰れたと思うと落胆を隠せない。


「……どうしますか?」

「うーん」


 俺が聞きたい、そんなこと。

 俺だってマネージャーの素人だからな。

 スケジュール管理だけじゃなくて、企画まで考えるのがマネージャーの仕事だとは思わなかった。

 こういうのはテレビ番組とかだと企画担当の人がいると思うんだけど。この事務所にはいないのか。


「それじゃ、質問です」

「は、はい」


「趣味とか特技はある?」

「え? 何ですかいきなり、その合コンでするみたいな質問は? やっぱり私のこと狙ってます? 逮捕されますよ」

「違う!! 次の配信内容についての話だから!! 趣味や特技を生かした配信ができたら他のVtuberと差別化できるだろ!!」

「……なんだ、そういうことでしたか」

「露骨にホッとするな」


 そもそも合コンってなんだ、合コンって。

 まさか高校生で既に合コンとかってあるのか?

 最近の子は進んでいるっていうし、高校生でも合コンに似たようなことしているかも知れない。


「合コンしてないよな?」

「はい?」

「いや、ならいいんだ」


 流石に合コンはしていないか。

 想像で話していただけだよな、きっと。


 Vtuberは異性と連絡取り合うだけで炎上するような界隈だからな。

 最大限気を遣わないといけない。


 男と連絡先を交換しそうな時は、俺が全力でブロックしていかないといけない。

 男のVtuberとコラボする時も来るかもしれないけど、その時は俺を通さないと連絡取らないようにしないと。

 まあ、そもそも男のVtuberすること自体が、結構地雷だったりするんだけどな。


「趣味は普通にカラオケとかボウリングとか……。遊園地に行くのとかも好きですし。ドラマとか映画も。まあ、でも、動画を観るのが一番好きですかね」

「カラオケ、か」


 カラオケが趣味だと聴けたのは僥倖だ。

 どれぐらい上手かは分からないけど、カラオケをするVtuberは多いからな。

 Vtuberっていうのは、自分の曲とかカバー曲を出すことだってある。

 カラオケが趣味なのはVtuberにとって最低限のことだ。


 例え下手であっても、それはネタにできる。

 一般的な上手さであっても、歌手ではなくVtuberというだけでみんな褒めてくれるはずだ。


「動画はどんなのを?」

「同年代の子がふざけている動画とか、猫の動画とか、テレビとか……」

「テレビ?」


 同年代の子がふざけている動画っていうのもよく分からなかったけど、動画でテレビっていう表現がよく分からなかった。


「公式が動画として配信しているやつってこと? 見逃し配信みたいな」

「そうじゃなくて、昔のバラエティ番組が切り抜き動画みたいに上がっているのでそれを観てますけど」

「それって違法視聴じゃないの?」

「? でもクラスのみんな観てますよ」

「駄目だから!! そもそも人気のバラエティ番組だったらお金払えば公式で観られるんじゃないの!?」

「あー、そうなんですけど、手間なんで」


 凄いこと言っているな。

 でも、確かにオススメ動画で昔のテレビ番組が流れてたりするんだよな。

 何の加工もなしのフル動画だとすぐに運営側から削除されるんだけど、残る動画は残ってしまう。


 違法視聴って分かっているのに、他人にベラベラ喋るのはどうなんだろうか。

 周りが子どもばかりで、みんな動画見ているからっていうので罪の重さがあんまりないんだろうな。


 でも、少しは気持ち分かっちゃうな。

 今となってはゲーム実況動画って世間から認められているけど、かつては普通に違法だった気がするよな。

 絶対、昔のゲーム実況者って、公式からの許可得てないよね? って思っている。


 今は公式に許可を取ってからゲーム実況を配信するのが普通になっているけど、昔はそんな考え方自体なかっただろうしな。


 未だにVtuberが許可を得ずにゲーム実況やったり、音楽を使ったりして炎上騒動になったりするから、そういった意識が低い人は未だにいるんだろうな。


 キラリがそんな問題を起こさないように入念に打ち合合わせをして、俺もちゃんと許諾がいるかどうかを調べないといけないよな。

 カラオケ配信だって、普通にやっていいのかも分からないしな。

 配信で音楽を流すとして、どこに許可を取ればいいのやら。


「特技は特にないんですよね。昔は習字を習ってましたけど。あとは、家にピアノがあるからそれを弾くぐらいですけど」

「それだ!!」

「え?」

「ピアノ演奏っていいんじゃないのかな!!」


 実写でピアノを演奏している有名な人はいる。

 あの、胸を強調して演奏していて、一部の大ファンがいる人だ。

 だけど、Vtuberでピアノ演奏している人はいないはずだ。

 いたとしても、少ないはず。


「ピアノ演奏を配信でやるのがいいんじゃない? 特技だったらできるよね?」

「……でも簡単な曲しかできないですよ」

「それでもいいって!! ゲームであるのかな」


 スマホで調べてみると、安いゲームであった。

 無料のピアノゲームもある。


「ピアノのゲームを配信するのはどうかな?」

「うーん……」


 乗り気じゃないみたいだ。

 特技ではあるけど、好きではないって感じかな。


 ピアノの練習って厳しいっていうもんな。

 吹奏楽部のクラスメイトが、吹奏楽部は運動部と一緒だから、それぐらいキツいからとか言っていた気がするけど、ピアノの関していい思い出がないかも知れない。


「あんまりうまい方じゃないんですよね」

「普通の人より上手ければいいって!!」


 何とか自信を持たせたい。

 正直、下手でもいい。

 素人には全然上手い人か下手な人とか判断ができない。

 とりあえず、弾ければそれだけで格好いいのだ。


 リコーダーとか、シンバルとかしかできないし。

 音ゲーは太鼓ぐらいしかしないしな。


 ピアノ弾ける人はそれだけで尊敬できる。


「じゃあ、ちょっと聴いてもらえますか? ピアノのアプリ入れているんで」

「え? ピアノのアプリとかあるの!?」

「ありますよ。本物とは雲泥の差ですけど、お遊び程度のアプリだったらスマホに入ってます」

「へー」


 ピアノ全然やったことないから、色々と情報が新鮮だ。

 ピアノ経験者だと、学級コンクールの時に強制的に弾かされる役になるから、絶対ピアノの習い事だけはしたくなかったな。


「あっ」

「大丈夫?」


 キラリが落としたスマホが転がって俺の足元に落ちた。

 操作していて手が滑ったのだろう。

 手に取ろうとしたところ、画面には『彼氏』の二文字が映っていた。

 しかも、禁止していたSNSにその文面が乗っている。


「なっ、なんでもな――」

「なんでもなくない!!」


 スマホを取ろうとしたキラリの腕を掴む。


「誤魔化さないで話してくれ。これは大事なことなんだ」

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