第4話 Vtuber事務所『ビサイド』のマネージャー


「担当マネージャーていうのは?」


 言葉の意味は分かるけど、意図が分からない。

 半ば思い付きで仕事の斡旋を頼んでみたけど、本当に何かを紹介してくれるとは思わなかった。


「この子はVtuberをやっていましてそのマネージャーをやって欲しいんです。実はこの子のマネージャーが今不在なんですよ」

「……しゃ、社長、本気ですか?」


 寝耳に水だったのは俺だけじゃなく、女子高生の方も同じだったようだ。

 俺よりも動揺している。


「本気よ。あなた一人で仕事なんてできないでしょ? マネージャーは必要だったんだから、顔見知りの方があなたも仕事しやすいでしょ?」

「それは……そうですかね……」


 顔見知りだけど、最悪な出会い方しているんだけど。

 それは社長も分かっているはずだが。


「マネージャーっていうのはどんな仕事を?」

「担当Vtuberのスケジュール管理や売り込み、営業、それからSNSチェックや付き添いとかね。まあ、彼女を守るのが仕事よ。天音さん、あなたにはピッタリの仕事だと思うの」

「ピッタリ、ですか……」


 確かに痴漢から守った経験はあるけど。

 あの時、あの痴漢のスマホからやはり盗撮した写真が見つかったようだった。

 そのお陰で俺は無事無罪放免だった訳だが、もしもあの写真が見つからなかったら、俺が犯人に仕立てあげられていた。


 警察の人も俺が無職だって告げていたら、怪訝な顔していた。

 証拠がなくとも俺が犯人だと言われているような気がしたんだよな。

 凄い剣幕だったし。


 自分も守れない奴が他人を守るなんてできるのか?


「あの、マネージャー不在なのは何でですか?」

「? どういう意味?」

「だってデビューはしているんですよね? この子。だったら他にマネージャーがいたんじゃないですか?」

「ああ、そういうこと。クビにしたわ。だって前のマネージャーがこの子に手を出そうとしてたんだから」

「えっ」


 俺は思わず女子高生の方を見たが視線を逸らされた。


 手を出すって、そういうことだよな。

 肩を触ったり、膝に手を置かれたりとか、そういうセクハラ紛いの行為をされたってことか?

 それともストーカーで家までついてこられたとか。


 痴漢も痴漢で嫌だが、それはあくまで他人。

 だが、マネージャーとなると、その人のプライベートまで知っている。

 家とか連絡先が割れているってことだ。

 そうなると恐怖は倍増だろう。


 前のマネージャーも男だったのか。

 それで痴漢騒ぎに、自分の担当マネージャーから手を出されたりと大変だったなこの子。

 災難続きだ。


「最初の給与は20万円くらいしか出せませんが、騒動のこともあったので初月は色を付けさせてもらいます」

「――うっ」


 心が揺らいでしまう。

 転職先の候補の給料があまりにも低いので20万円でもかなり魅力的に聞こえた。

 今、不景気だし、まともな職歴がない俺からすればかなりの好待遇だ。

 しかもあちらからこうして条件を提示して是非にと誘ってくれる企業なんてない。

 Vtuberという最近できたコンテンツに乗っかる不安はあるが、今の現状から考えるとこれは相当なチャンスだ。


 だが、女子高生は浮かない顔をしている。


「私、男の人嫌です」

「でも、この人は守ってくれたんでしょう?」

「そ、それは……」


 男性に色々と嫌なことをされて、ちょっとした男性恐怖症になっているんだろう。

 さっきから目を合わせることもほとんどしてくれない。

 どうなるだろうか。


 こういうタレント業界みたいなところは、タレントの力が強いと聴いたことがある。

 普通は上司や会社側の方が強いが、タレント第一の為、タレントの言葉で現場が振り回されるらしい。

 もしも彼女が本気で拒絶したら、俺は採用されないだろう。


「わ、分かりました。私はいいですよ」


 不承不承といった感じで俺は肯定してくれた。

 肝心の俺はというと、実は少し前から決心がついていた。

 キッチリと頭を下げる。


「よろしくお願いします」


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