ウブなウサギのウサウサ子
夜々予肆
First Wonderland
1羽目 「ねー。そんな本読んでて楽しいの?」
「ねー。そんな本読んでて楽しいの?」
土手の上で何も言わず、挿絵も会話も無さそうな本を読んでいるお姉ちゃんにわたしは率直に尋ねてみた。
「もしもーし? 聞こえてるー?」
「……」
「おーい!」
「……」
「これは……聞こえてないね……」
本を読むのに集中しているらしく、わたしの声は耳に入ってないみたいだった。
試しに目の前で手をブンブンしてみたけど全く意に介していなかった。この前わたしも試しにこっそりちょっと読んでみたけれど、難しい言葉で難しいことばかり書かれてて何が何だかわからなくてつまらなかった。あんな本を読んでるくらいならその時間でヒナギクの花輪でも作ってた方がまだマシだった。
「にしても、今日は暑いね……」
「……」
「暑くないの?」
「……」
「やっぱり聞こえてないみたい……」
はしたないけど胸元とスカートを両手でぱたぱたさせて風通りをよくしてみる。服装はお気に入りの水色のワンピースに、白色のエプロン。脚はボーダータイツ。そこまで厚着をしている訳じゃないけど、こんな暑くなるならもっと薄着でも良かったかな。少なくともタイツは履かない方が良かったかも。タイツを履いてるとはいえ自分でも中々のサービスカットだと思うんだけど、お姉ちゃんは暑がる素振りもチラ見する様子も見せずに相変わらず本に夢中だった。
「ふぁぁ……なんか眠くなってきた……」
強い日の光に当てられたせいなのか、退屈のせいなのかどうかはわからないけど、なんだか眠くなってきた。もちろんお姉ちゃんと一緒に本を読む気にもなれないので青々とした芝生の上に仰向けで倒れ込んだ。芝生は湿り気も無くて、身体を優しく包む感触がふかふかで気持ち良かった。空も雲一つない青空ですごいいい天気なんだけど、とにかく暑いせいでそんなプラス要素も全部マイナスに持っていかれてしまう。
「ねぇ……なんでわざわざ外で読むの?」
「澄んだ空気の中、気持ちよく読めるからよ」
「今のは聞こえてたんだ……でもさ……これはちょっと……暑過ぎじゃない?」
「あなたが暑がりなのよ、アリス」
「えー?」
「そうよ」
わたしは仰向けになりながらお姉ちゃんと話していたけど、お姉ちゃんは話が一段落するとまた読書に戻ってしまった。こんな暑いのによくそんな集中して読めるなあ……。わたしは日差しが当たらないように手を顔の前に持ってきた。指先を見るだけで眩しい感じになるほど太陽からの光が照っていた。やっぱり夏だからかなぁ……なんて思っていると、ピンク色の目をした白いウサギが「遅刻する!」なんて言いながら芝生を二足歩行で駆け抜けていくのが見えた。
「変なウサギ……」
ぼーっとした頭でそんなウサギを見ていると、ウサギはチョッキから懐中時計を取り出して時間を確認するとさらに走って行った。
「ん……? え……!? ちょっと待って!」
わたしはしばらく思考停止していたけど、慌てて立ち上がった。二足歩行のウサギがチョッキを着ていて懐中時計を取り出す? そして遅刻だと言って走っている? そんなウサギ、見たことないよ。そんなウサギを見て、
「追いかけてみるしかないじゃない!」
わたしは一目散にウサギを追いかけた。あの子がどんな子なのか興味しかないし、この出会いがこんな退屈で平凡な毎日を変えるのかもしれない。わたしはそう思いながら必死にウサギを追いかけ野原を駆け回った。でもいくら追いかけても全然追いつけず、距離を広げられる一方だった。
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