地獄の介護マンション

連喜

第1話 サ高住

 自分の足で歩ける。

 住居選択の自由がある。

 働きに出れば給料をもらえる。

 こういうのは、すごく幸せなことだ。

 若い頃は当たり前のことが、年を取るとできなくなってしまう。頭ではわかっているけど、元気なうちは人生を無駄にしてしまうものだ。

 

 今日はサービス付き高齢者住宅(サ公住)の話。


 サ高住はバリアフリーの住宅だけど、介護保険を使って介護サービスを受けられるという賃貸住宅だ。各戸にキッチンや風呂があるかなど、施設によって色々特色がある。俺の知っている限りでは、デイサービスなんかも併設している。


 年を取ると、マンションを借りづらくなるというのは、一般的に知られていると思う。借りられるのは、ボロボロのアパートくらい。孤独死されたら困るからだ。だから、余裕のある人は終の住処にマンションを買ったりしてる。


 じゃあ、元気なうちからサ高住に住んどけばいい、と思うかもしれないけど、家賃が割高だから、介護がいらないほど元気な人は住んでいない。


 サ高住の入居者は、75歳以上くらいからのおばあさんとか、軽い痴ほうの人が多い。適しているのは要介護2くらいまでと言われている。要介護2っていうのは、家事、トイレ、入浴、食事を一人でやるのが難しいくらいの人だ。このくらいの人は、1人暮らしはほぼ無理だ。


 サ高住にも、寝たきりの人はいるけど、ほとんどいない。夜間の巡回とか見回りが少ないし、入浴の設備など、色々な点で介護度の高い人に適していないからだ。俺の聞いた範囲での話だから、うちの親が住んでる所は違うという人もいるかもしれないけど。


 どこの高齢者の施設も同じだろうけど、救急車がたまに来る。

 病院に連れて行かれたらほとんど戻って来れない。で、部屋が空く。


 退去した人は、次はもっと介護度が重い人が入る施設に移るか、入院か、亡くなるかだ。


 仕事で介護をやっている人はすごいなと思う。お年よりがどんどん衰えていき、歩けなくなって、頭がはっきりしていた人たちでも、記憶がどんどん曖昧になって、ボケていく。それを見ていて、仕事だと割り切れるんだから、メンタルが強いと思う。俺はお年寄りを見ていると、エネルギーを吸い取られてしまう気がしてダメだ。


 俺の知り合いのお母さんが入居していた、某サ高住は”地獄の入り口”のようなところだったそうだ。


 そこに入ると、歩けていた人がすぐ寝たきりになってしまう。

 

 人間の筋力は、1週間の絶対安静で10~15%、3~5週間で50%まで低下するそうだ。前に聞いたのは、高齢者は1ケ月くらい入院していると、寝たきりになってしまうそうだ。寝たきりになると、自然に痴ほうが悪化する。例えば、大腿骨を骨折すると、数週間から2か月入院している間に、歩行困難になりボケてしまうことが多い。睡眠薬を飲まされたりしていると、1週間くらいで歩けなくなる場合もあるそうだ。


 件の施設は、本当に『地獄への入り口』のような感じだったらしい。お年寄りは寝かせっぱなし。デイサービスと言って介護保険を取っておきながら、入居者は部屋で寝ているという有様だった。


 しかも、介護士の人が怖かった。お年寄りを𠮟りつけたりしていた。

 こういう人がなぜ介護の仕事をしているのかは不明だ。

 嫌なら別の仕事をしたらいいと思うのだが・・・。

 ちなみに介護職に就く理由は、下記のようなものだ。


 手に職

 介護経験

 自分に合っている


 お年寄りは優しい人が多いだろうから、対人関係が苦手な人には気楽かもしれない。


 もし、俺が介護の仕事をやるとしたら、将来ビジネスにつながるなら・・・というくらいしか思いつかない。グループホームなんかは、賃貸物件で始める場合、開業資金1000万くらいで可能らしい。それほどハードルは高くない。新築する場合は、何億もかかる。前者の方なら、介護をやってる人でもお金を貯めて開所できるかもしれない。


 

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