明るい禁欲運動

ボウガ

第1話


近未来の地球である流行がうまれた。それは環境を配慮した禁欲運動だった。すでに、地球環境は後戻りできないほど悪化していたが、美徳として人々は禁欲行動に走った。だが、禁欲といっても、貧乏人は欲を禁じては生きていく術がないために、欲を抑える事はできなかったのだが……というのもくうにも生活するにも困るものは地球の環境にいいものを消費したり、つかったり、行動をしたりという事はえらべない、まさにあるものを使うことしかできない。やがて世界中でそうした批判が巻き起こると、それに配慮し、人々の禁欲行動は徐々に下火になっていったのだった。しかし、本当のところそれは表向きの事実で、過度の禁欲が体に悪いとわかったので初めは富裕層が、次はある程度の稼ぎのある層が禁欲運動をやめた。ただそれだけの話だった。


 それから数年。ある話をきっかけに、またもや環境へ配慮した禁欲が再流行する。その話というのが、あるおお金持ちが貧乏人に施しをしたところ、彼は施しをうけず、その代わりに彼は、“禁欲”の美徳は素晴らしいから続けてくれというのだった。そうしたら、恩を返すと彼はいう。やがて金持ちが彼の言う通りにすると、不思議な事がおきた。身の回りでいい事が立て続けにおきたのだ。あとでその貧乏人の正体をさぐると、どうやらかつて有名な占い師だったが、運悪く稼ぎがわるくその時、貧乏になっていたという事らしかった。あらゆる人々がその話に感銘や気づきをうけて、禁欲に手を出すが、それはある人間たちが計画した社会的な策略だった。というのもそれはある話を捏造して改変した作り話だったのだ。本当のところは、金持ちが助けたのは、知り合いの、事業に失敗した人間だったし、恩返しというのも、ただたんにかした借金を返しただけだった。それ以外は作り話である。


 やがて、さらに地球環境が悪化して、人々の暮らしさえままならなくなると、大金持ち意外はみなほとんど原始的な生活を始めざるをえなくなった。近代的な社会生活はおくれなくなり、機械も温暖化でほとんどダメになった。人々は未来に諦めを感じながらもそれでも支えとなったのが“禁欲”の美徳で、その美徳のおかげでお互い励ましあい、支えあい生きることが出来ていくのだった。


 ところでこれを早期に計画して、策略を立てた人間たちがいた。金持ち、富裕層である。彼らはかつて、自分たちの文化が、下々のものから批判を受けたことを根に持っており、しかしその文化に最早魅力を感じず、“禁欲”などという美徳はすててしまった。人々が禁欲に走る中で、金持ち、富裕層はもはやばかばかしいと考えていたのだ。どうせ地球が終わるのならば、ありとあらゆる好きな事をしようと、早期に富裕層だけのドーム状のコロニーをつくりそこに引きこもり生活を送ることを計画し、実行に移した。それから彼らはありとあらゆる資源やエネルギーをむさぼり、むしろそちらの美徳にふりきって、怠惰な生活をおくるのだった。しかし彼ら富裕層は彼らのおかげで外の原始的な“禁欲”生活を送る人々が、彼らの作り話や彼らのつくったその美徳によって団結しているのだという事を知らずに真逆の生活を送るのだった。その両方が、別々の暮らしを隔離された場所で送っているため、どちらが幸せか、ついには誰も理解する事もできなくなったのだった。


 

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明るい禁欲運動 ボウガ @yumieimaru

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