第2話 僕が気になる女性
「次は、池袋~、池袋に停まります。お出口、右側が開きま~す」
と車掌の車内アナウンスが聞こえる。
いつもは地獄の窯の中に居るかの様に混雑する車内も、今日は土曜日なので少しだけ空いている。
電車はゆっくりと減速してゆき、吊り革を持つ僕の身体が進行方向に引っ張られる感じがする。
僕は吊り革を持った手の肘が、隣に立ってる中年女性の頬に当たらない様にと気を付けながら、足に力を入れて踏ん張っていた。
すると僕の腰辺りに柔らかい感触が一つ感じられた。
少しだけ首を傾けて横目でそちらを見ると、数人の女子高生が固まって乗って居て、僕の背後には僕の肩よりも少しだけ背が低い女子高生の頭と制服の肩の部分だけが見えた。
僕は首を元に戻して目を瞑り、その柔らかい感触に意識を集中していく。
ああ・・・柔らかい感触だな・・・、まだ高校生っぽいから、そんなに大きく無いんだな・・・、だけど、ちゃんと柔らかいんだな・・・
やがて電車が駅のホームに入り、ピタリと停車する。
プシューと音をたてて扉が開くと、皆が一斉に下車をする。
僕も池袋で下車をするので、人の流れに任せてホームに降り立つ。
さっきの女子高生達も同じ様にホームに降りて来た。
「げーっ! マジむかつくんだけど! 巾着に入れてたクリームパン潰れてるんだけど!」
と声がして、歩きながらそっと振り向くと、さっきの女子高生がリュックにぶら下げた巾着の中味を気にしてそう言ってるみたいだ。
「ぎゃはははっ! 何で巾着持ってんの? 逆にカワイイし!」
「あははは!」
と他の友達も笑ってる。
「なんだ、クリームパンだったのか・・・」
と背中の感触を思い出しながら、僕は人の流れのままにホームの階段を登って行く。
階段を登ると改札を出る前にパン屋があった。
僕は改札口に続く人の流れから離脱して、パン屋に寄る事にした。
色々なパンがある中で、サンドイッチとクリームパンを買った。
「426円になりまーす」
とレジのお姉さんが言う。
僕は「Suicaで」と言ってピッとセンサーに当てて会計を済ませた。
そして脇に抱えたカバンに今買ったパンを入れ、店を出て「南口」と書かれた改札を出た。
そこから20分くらい歩くと、雑居ビルが並ぶ通りに出る。
そのビルの一つに僕が務める会社があった。
僕は、いつも通りにビルに入りエレベーターに乗って5階のボタンを押す。
小さなビルなので、エレベーターは狭い。
4人乗ればいっぱいだ。
ガタンとエレベーターが揺れて、チーンと音がして止まる。
エレベーターの扉が開くと、正面に見える扉がオフィスの入り口だ。
僕はいつも通りにオフィスに入って、壁に掛けてあるタイムカードを取り出して打刻機に差し込む。
ガチャリと音がしてタイムカードが出て来る。
僕はそれを元の場所に戻して、いつも通りに自分のデスクにカバンを降ろして席に着く。
「おはようございます」
と言って淹れたてのコーヒーを持ってくる事務服を着た26歳の女子社員、
「あ、お、おはよう」
と、僕はコーヒーの香りの後に微かに香る彼女の匂いを嗅いでいた。
今日もいつものシャンプーの匂い・・・
「い、いつもコーヒー、ありがとね」
と僕はいつも週末になるとそう言う。
花頼さんは笑顔で軽く会釈をして
「どういたしまして」
と言って去って行く。
僕は椅子に座って花頼さんが淹れてくれたコーヒーを啜る。
社員のみんなにコーヒーを淹れてくれるけど、僕のコーヒーはいつもマグカップに入ってる。
いつも僕だけにたっぷりのコーヒーを運んでくれるのが嬉しくて堪らないんだ。
彼女が僕の気になる女性、花頼友子さん。
僕は今日も、彼女の為に仕事を頑張ろうと思っています。
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