第83話 砂漠の薔薇
一晩中デスストーカーと戦ったせいでみんな睡眠不足になっているが、遠征隊は夜明けとともに移動を開始した。
さすがにこのままでは体力が持たないので、休憩の時に一組ずつ仮眠をとることになった。
地面は砂地だけではなく枯れていない草木が生えた場所も点在するので、そこで休憩をしている。
『さまよう砂丘』は森や草原を飲み込みながら移動しているので、砂丘の中にまだ枯れていない草地が存在している。
朝が早いので今の所、砂丘の気温は涼しい。
しかし、時折り吹く風が強く、砂塵が舞上がって視界が悪くなる時がある。
「前方に砂嵐っ」
遠征隊の先頭を歩いていた冒険者が前方を指さしていた。
「遠征隊止まれ。枯れ木の森で砂嵐をやり過ごす」
遠征隊の進行方向右側に枯れ木が何本も生えている場所があり、僕たちはそこに移動した。
2台の荷馬車の間に入り馬と共にみんなで体を寄せ合い、砂嵐が通り過ぎるのを待った。
大量に砂を巻き上げた砂嵐はあっという間に遠征隊を飲み込み、10分ほどで通り過ぎてくれた。
(口の中が砂まみれだよ)
僕はひょうたんを取り出し口の中の砂をポーションで洗い流した。
するとまた警告が発せられた。
「魔獣発見っ」
僕は急いで荷馬車の間から抜け出すと、遠くにオークの集団が固まって地面に座っていた。
オークの集団も砂嵐をやり過ごしていたようだ。
そのオークの集団は、これまで遭遇してきたオークたちと違い、僕がパーティー『女神』と一緒に戦ったときのオークたちに似た雰囲気を持っていた。
最近白の大地から来たばかりのオークが『さまよう砂丘』に閉じ込められたのだろうか。
「ヴォオオオオオオオオオオオッ」
ボスオークを先頭に遠征隊に向かって突撃してきた。
「デカい奴は俺たちがやる。その間に他の奴らを削ってくれ」
ロイスさんの指示が飛ぶ。
「わかった」」」」
ロイスさんのパーティーがボスに向かって走る。
他のパーティーたちもそれぞれ狙いを定め戦闘に入った。
(同じクランだと連携がしっかり出来ててすごいな)
取り残された僕は、急いでボスオークと戦っているブラックアイロンの元に向かった。
ロイスさんと大盾持ちのカーネルさんが、石で出来た棍棒を振り回しているボスオークを正面で
その少し離れたところでは、魔法使いのコステロさんが魔法の準備に入っていた。
「来たかセイジ。どうだ、やれそうか?」
ロイスさんがチラリと僕を見た。
「はい。以前『女神』と一緒に白の大地の魔獣討伐をしたので、似たようなオークと戦ったことがあります」
「ほう。第1級のか。あいつ他人と共闘するんだな。うちのクランに誘ったんだが相手にもされなかったぞ」
「そうなんですか。共闘と言うかたまたま一緒になっただけですよ」
「そうか。セイジ、遠慮せずやってくれ。他も厳しそうだ」
「わかりました」
周りを見ると確かにオークたちの猛攻に押され気味のようだ。
(前回と似たような戦い方をやってみようかな)
僕は魔剣を抜き背後に隠した。
「範囲魔法を使います。少し距離を取ってください」
「わかった。ブラックアイロン、離れるぞっ」
僕はボスオークに向かって突っ込んだ。
ボスオークが棍棒を振りまわしながら近づいてきた。
僕は余裕を持って棍棒をかわし空中へ移動し、魔剣『白妙』をボスオークに突っ込ませた。
ボスオークは魔剣を棍棒で弾くことが出来ないと判断し、体をひねってかわした。
ボスオークは空中にいる僕をにらみつけた。
その瞬間を待っていた僕は、すぐさまボスオークの背後にテレポートし、すぐさま念動波を発動。
ドウッ
「ギュオッ」
ボスオークがよたよたと前によろめいた。
飛んでいった魔剣を物体操作で回収するとともに、鬼人の角を取り出し濃霧を発動する。
僕とボスオークが濃霧に包み込まれた。
ボスオークが棍棒を背後にいる僕に向かって乱暴に振り回した。
ブオンッ
僕はそれをテレポートでかわし、ボスオークの真上に移動して発火を発動した。
ボスオークを炎が包み込む。
「ブッフフフォォオオッ」
ボスオークの絶叫が砂丘に響き渡る。
続けざまに魔剣白妙を操作し、ボスオークに向けて射出した。
ドスッ
ボスオークの肩に魔剣が深く突き刺さった。
「ググッ」
僕はボスオークの後方にテレポートして距離を取り、さらに発火をボスオークに向けて発射した。
再びボスオークが炎に包まれた。
「コステロさん。炎を目標に魔法発動をお願いします」
僕は大声でコステロさんに合図を送った。
「はいはい。待ちくたびれたよ」
魔法使いコステロさんが杖を突き出した。
「石の
ボスオークの上空に結界が展開し、そこから大量の水が一気に落ちてきた。
ドシャァァァァ
濃霧が晴れるとボスオークは地面に倒れ潰れていた。
すかさずロイスさんたちが突っ込み、剣を突き刺し止めを刺した。
「よしっ。次だ。他のパーティーの援護に回る。セイジも頼んだぞ」
「はい」
ボスオークが倒されたがオークたちの勢いは落ちず、遠征隊との戦闘は激しさを増していた。
しかし、人数に勝る冒険者側が徐々に戦いを優勢に進めオークは全滅した。
すべてのオークたちから魔石を取り遠征隊は休憩に入った。
遠征隊の冒険者たちはポーションなどを使い、怪我や疲労の回復に努めていた。
「セイジ君、セイジ君。濃霧の範囲魔法は魔剣の能力なのかい?」
コステロさんが興奮気味に話しかけてきた。
「はい。濃霧だけですけど」
「そうかそうか。見た感じ魔剣を中心に展開され、効果範囲も決まっていたけど、それは変えられるのかい?」
「いえ。試したことないですけど、おそらく時間も範囲も固定みたいですね」
「なるほどなるほど。勉強になったよ。ありがとう」
「いえいえ」
しばらくの休憩後、遠征隊はさまよう砂丘の依り代を目指して出発した。
しばらく進み夕方になったころ、遠征隊の冒険者たちの耳に遠くからドスンドスンと衝撃音が響いてきた。
「何だ?音がするな。全体止まれ」
ロイスさんの号令で遠征隊は行進を停止した。
僕は周りを見渡したが砂丘に出来た山のせいで遠くまで確認できない。
「どうする?」
遠征隊の冒険者の一人がロイスさんに聞いた。
「そうだな。音に向かって進んでみよう。依り代に関係あるかもしれない」
遠征隊は進路を音のする方向に変え、砂丘の山や谷をいくつも越え進んでいくと遠くに魔獣が2体見えた。
「あれが音の原因か?」
「距離が結構離れているのにあの大きさだぞ。でかくね?」
「そうだな」
冒険者たちに不安が広がる。
巨大魔獣同士の激突音が、遠く離れた遠征隊のところまでズンズン響いてきている。
僕は千里眼でその様子を見てみた。
「百足と竜?」
僕のつぶやきにロイスさんが反応した。
「セイジ。あれが見えるのか」
「はい。でも魔獣の名前がわかりません」
「竜の方の特徴を言ってくれ」
「わかりました」
僕は再び千里眼で竜を観察した。
「二枚の大きい翼と前足があって、蛇のような長い胴体の先にはトゲトゲした尻尾がありますね。鱗の色は暗い青ですかね」
「そうか。だとしたら。・・・リンドブルムかもな」
「リンドブルム!?」」」」」」」」
冒険者たちが一斉にどよめいた。
(歴戦の冒険者たちでも動揺する相手なのか。竜だから当たり前か。それにしても大百足の方も竜と同じくらいの大きさなんだけど)
「やべえ奴らにあっちまったな」
「どうすんだロイス。リンドブルムだけじゃなく大百足もいるんだぜ。これ以上近寄れないぞ」
「うーん。そうだなあ。でもどちらかが守護者だと思うんだがなあ」
「そうかもしれんが、あんな奴ら相手にしたら全滅するぞ」
「決着するまで隠れているのはどうだ?」
「決着がついた瞬間、俺らが見つかるぞ。大人数でいるんだ」
「そうだよな。だったら早くここから離れないと」
「そうだそうだ」」」」
仕方ないことだろうけど、どうやら避難することになりそうだ。
(何かいい案はないかな。戦わなくていい方法とかないものか)
遠征隊が場所を移動するため準備を始めた。
(僕一人なら何とかなるのかな?)
「ロイスさん。リンドブルムって飛べるんですか?」
「ん?んー。一応飛べるらしいがそれほど早くないらしい。竜の中ではだぞ?それがどうした」
「僕がおとりになってリンドブルムと大百足をどこかに移動させようと思うんですけど。やってみますね」
「決定なのかよ。まあ、セイジの能力なら逃げるのは問題なさそうだな」
「はい。少し離れたところで見ててください。うまくいかなかったら僕も逃げますんで」
「わかった。気を付けて行けよ」
「はい。僕の信条は安全第一ですから」
「くくく。いいなそれ」
僕は透明化して空中にテレポートし巨大魔獣たちの元に向かった。
遠征隊は少し離れた場所に移動を開始した。
ある程度近づいてみると両者の巨大さがよくわかる。
勝てる気がしない。
僕が戦う必要はないのだけど。
2匹とも鬼人の大秘境付近で遭遇した八頭霊蛇より太くて長かった。
大百足はリンドブルムに対し、頭部の下にある巨大な毒牙を突き刺す攻撃を繰り返していた。
リンドブルムは
リンドブルムの方が攻撃は多彩だが、大百足の方が優勢に進めているように見えた。
ある程度近づき上空で戦闘の様子を見ていると、リンドブルムと精神が繋がった感覚がして声が飛んできた。
(人よ。何をしている)
その声は威厳があり落ち着いていて、怒ってはいないようだった。
(!?すみません。邪魔はしませんので)
(お前は緑に連なる者か?)
(緑ですか?よくわかりませんが違うと思います)
(そうか。まあよかろう。何か事情があるのだろう)
良い機会なので質問をしてみよう。
(あのう、リンドブルムさんは守護者ですか?)
(我は囚われてなどおらぬ。
僕と会話をしながらリンドブルムは戦っていた。
(でしたらお手伝いをしても構いませんか?)
(我に助勢をすると?)
(はい。駄目でしょうか)
(よかろう。我が君の
(ありがとうございます。とりあえず回復しますね)
僕はポーション球を作り、リンドブルムにぶっかけた。
(助かる。この回復の速さ、さすがだ)
我が君が誰だかわからないけど、了承を得られたので攻撃を開始します。
透明化を解除し姿を現すと大百足が僕の存在に気付いた。
しかし、リンドブルムの攻撃により、すぐに僕から注意を逸らされた。
僕は大百足の巨大な頭の近くにテレポートし、全力の発火を発動させた。
(ちょっと~せいじく~ん~それは駄目だよ~)
そう言うと幽霊のレオナさんは左腕から抜け出し魔剣白妙に移った。
(発火!!)
能力が発動した瞬間、左腕の中身が消失し巨大な火の玉が出現した。
「いぃぃぃたっあああああああぁっ」
あまりの痛みに僕の
直後、巨大な火の玉が大百足を包み込んだ。
「ビシャァァァァアアッ」
大百足の
ドスウウン
大百足が砂漠に倒れ伏した。
更にリンドブルムが強靭な尻尾を振り回し、鋭い
その後、リンドブルムは大百足の胴体に腕を突っ込んで魔石を取り出した。
(緑の眷属よ。人はこれが必要なのだろう。受け取るがよい)
「ありがとうございます」
僕が地面に降りると、上から人の頭ほどもある巨大な魔石が降ってきた。
(あそこに見えるのがこの領域を創造するものだ。それも持ち帰るがよい)
リンドブルムの視線の先にキラキラ光る赤い花が咲いていた。
「ありがとうございます。ところでリンドブルムさんはなぜ大百足と戦っていたのですか?」
(我が住処に侵入してきたからだ。
「そうだったんですね。あ、僕たちもお邪魔してましたね。すぐ出ていきます」
(うむ。この近くの湖に近寄らなければそれでよい)
「わかりました。他の人たちにもそう伝えておきます」
(さらばだ。小さき緑の眷属よ)
そう言い残しリンドブルムは空を飛び森の方に向かって行った。
僕はリンドブルムを見送り、大百足の魔石をリュックに入れて赤い花の元に向かった。
手に取るとそれは砂の結晶で出来た薔薇のような石だった。
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