ゲームチェンジャー

新藤広釈

宇宙歴1010年 7月03日


 宇宙歴1010年 7月03日


 戦艦級マリア・グレーメンは、映し出された映像の目を疑った。

「帝国軍の敵は、5人、5体、です」

 見ればわかることを、レーダー観測員は教えてくれた。

 白い、旧時代の宇宙服のような恰好をした人間がライフルを抱え闇の中を飛んでいた。

 その大きさが、10メートルを超える大きさでなければ罪人が流刑にされたのかと思うような映像だ。

「ロボット、ですかな」

 いつもは無口な副艦長のアガフォンが呟いた。

 40代とは見えない皺だらけの厳しい男が、この時ばかりは驚愕に目を見開いていた。

「SPを発出させろ」

 フェドート艦長は、最大の仕事を終えた。

 まだ若く、実績もないフェドートが宇宙戦艦の艦長ができる理由がこのためだ。


 スペースポット。

 正式名称は省くが、この時代の最大戦力だ。

 球体の戦闘兵器を遠隔操作する。

 これが、宇宙での戦争だ。

 SF映画のように戦闘機やロボットなど、この数百年間優れた兵器を作ろうと四苦八苦したが、結局この形に落ち着いてしまった。

 あらゆる方角に攻撃を仕掛けることができ、実弾をはじく形状をしており、変則的な動きで的を絞らせない。

 後は数だ。

 連合軍は帝国軍の技術に大きく遅れている。

 だが、スペースポットの数が多ければ勝てる。

 結局地球歴の中世時代へ戻ってしまったわけだ。

 この戦艦マリアはSPを10万個積んでいる。操縦者は一万人、1人五個まで操縦でき、この戦力はコロニー群国家を攻め滅ぼせるだけの数になっている。

 この戦艦級マリア・グレーメンは動く要塞であり、連合軍でも最強と言っていい。

「フェドート、敵の兵器を確保しなくてもいいのか?」

「手もないのどうやって確保するんだ?」

「・・・破壊した後残骸を集める」

「そうしてくれ」

 フェドート艦長は苦笑する。

 政党の意向で艦長となったが、まるで有能な艦長のようではないか、と。

 この巨大戦艦において、艦長など所詮飾り物だ。

 優れたAI、苦労の絶えないアガフォン副艦長がいてくれれば、どんな間抜けだろうと優秀な艦長の出来上がりという訳だ。

 ブリッジのクルーたちも、フェドートと同じだ。

 誰一人必要がない。

 彼らも何かしらのコネでこの軍艦に乗った者たちばかりだ。

それでも戦場に立てるほどにシステム化が進んでいる。

 全く必要のない外の戦況を映し出すスクリーン。

 誰もが談笑しながらコーヒー片手に映画を見るかのように眺めているが、フェドートは注意するつもりはない。ただ、アガフォン副艦長の顔が渋面になるだけだ。

 そんな和やかな雰囲気が一気に凍り付いた。

 人型ロボットが、悠々とこちらに向かって進んでくる。

 数百、数千のSPは命を失ったかのように闇の中に消えて行く。

「どういうことだ! アガフォン!」

「・・・」

 誘導弾が、ただまっすぐにしか飛んで行かない。

 不規則な動きで敵を惑わすはずが、惚けたように明後日へ飛んでいく。

「アガフォン!」

「わ、わからん」

「わからないとはどういうことだ!」

 苛立ちながら艦長帽を地面に叩きつける。

 不測の事態だ。

 最強の戦力であるはずのSPが無効かされている!

 このような状況で的確な助言を進言できるクルーは・・・この艦にはいない!

「退艦! すぐに逃げろ!」

 その言葉を聞くと、ブリッジのクルーたちはためらいもせず逃げ出していく。

「馬鹿な! フェドート、船を捨てるのか!」

「アガフォン、君は残ってもいいんだぞ」

 副艦は、いつもの渋面になった。

「・・・一般兵はどうする」

「馬鹿か、全員で逃げだしたら我々が逃げる猶予が無くなるだろ」

「了解」

 こうして巨大戦艦を残し、わずか数十名は逃げ出した。

 とんでもない愚行であったが、素早く、ためらいもなく行われた撤退は帝国軍も想定外だったらしく逃げ出すことに成功した。

 そして、この異常事態を連合軍へ伝えることができたのだった。


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