第43話 聖地

 古今東西あらゆる魔法の知識を詰め込んでいる。

 そう自負しているフレデリカの知識の引き出しに納まっていない魔法を使われた。


 自身の舌に刻まれた刻印を見て、フレデリカは悔しさを滲ませた。


 自分が知らない魔法が存在することは、ヒルメよりサロメのオリジナル魔法を授かった時点で想定していた。

 それと同時に、サロメの魔法を解読し、扱える様になったことで、未知の魔法でも対応出来ると過信していたことへの悔しさだった

 知り得ない魔法…いや、魔法と気付くことさえ出来なかった自分への…


「素敵な魔法です〜。」

 フレデリカの舌に刻まれたそれをうっとりと見つめながら、そう言うヒルメは続けて言う。

「お師匠様の所有物となる…その喜びを口づけと共に得られるのですから〜。」

 うふふ、と笑みを浮かべながら師を見た。

「お前には既に一度刻んでおるだろう…」

 呆れた様にハンモックの上から言うアフロディナ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−


「さて、ヒルメの言う通りだ。小娘、お前は私の所有物…愛玩動物ペットとなった。」

 本のページを捲りながら、アフロディナは嗜虐的な笑みを浮かべて言う。

「はぁ?!私が愛玩動物ですって!?巫山戯んじゃないわよ…クソババァっ!!」

 負けずと睨むフレデリカ。

 そんなフレデリカに、アフロディナは小さく笑い、言葉を紡ぐ。

「先ずは『お座り』だ。」

 アフロディナの言葉に、フレデリカの意に反して身体が勝手に動く。

「う、嘘よっ!!このフレデリカ様がっ!!」

 ペタン、と正しく『お座り』の姿勢をとるフレデリカは、悔しさに涙を浮かべながら叫ぶ。

「嘘と思うのであれば、もっと辱めてやろうか?…衣服を全て脱いで笑え。」

 アフロディナの命令に、フレデリカの心は必死に抗う。

 しかし、身体が勝手に衣服を脱ぎ、生まれたままの姿で羞恥に染まった笑みを浮かべる。

「小娘、この通りお前は私の愛玩動物だ…」

 そんなフレデリカを軽蔑の眼差しを向けながら、溜息を漏らしアフロディナは言う。

「殺すっ!!殺してやるっ…!!」

 目に涙をいっぱいに溜め、真っ赤な顔で睨みつけ、震える声でフレデリカはアフロディナに宣言する。

「良い心がけだ。そんな小娘に教えてやろう。」

 アフロディナは一瞬でハンモックの上から移動し、フレデリカの頭に手を置いて僅かに笑う。


「解呪の方法を教えてやる。」

 アフロディナは未知の魔法の解き方を教えると言い出す。

「解呪の方法は三つ。一つは契約の完遂。小娘が『最果て』に到れば解ける。二つめ…これが一番簡単だ。私を殺せ。」

 にんまりと笑うアフロディナ。

 彼女の言葉に、『最果て』の魔女三人が大きく首を振る。

 つまり、一番難しいということだ。

「そして最後、三つめだが…」

 アフロディナが指を鳴らす。

「抗ってみよ。抗う術はここにある。」

 

 パチン、と指が鳴ると同時に、フレデリカの頭上、天井が天に伸びていく。

「全ての魔法がここにある。解呪の方法もだ。」

 その天まで届く塔の壁に並べられた無数の本。

 フレデリカは震えていた。

 全ての魔法が集まり、天を目指す魔法使いの聖地シラクサ。

 神話上の虚構としか思っていなかった場所がここなのだと、確信を持った。



 

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