第21話 反乱の裏で
エミールは戸惑っていた。
一応という形式だけの師弟関係となったメヌエール・ド・サン・フレデリカは、己を遥かに凌駕し、挫折した自分の夢を託そうと思えたのは一瞬だけで、後悔しかない相手であったが、現ランフ魔法協会の会長、メヌエール・ド・サン・ジェルマンが溺愛する玄孫で、彼なりに気を遣いながら見習いとして経験を積ませていた。
その現状は、なんやかんやでエミールにも、フレデリカにも利益のあるものだった。
エミールは、一級魔導士である自身が受けた依頼をフレデリカに与えていた。そして、その報酬はエミールの実績と共に懐に納まるのだから楽に利益を得られる。一見、タダ働きの様に思えるフレデリカであるが、通常の見習いだったら、碌な報酬もなく、雑用や傭兵の様な仕事ばかりさせられる。
そういう意味では、見習いの身分で一級魔導士の仕事を出来るフレデリカは恵まれていた。
尤も、一級魔導士の依頼を難無くこなせるフレデリカが、世間一般の常識からすれば、おかしいのだが…
そんなフレデリカに与えた依頼が、とんでもない事態を起こしてしまった。
アルジュ駐屯地からの依頼。
それは、これまでと同じ変異種討伐の依頼であった為、深く考えずにフレデリカを向かわせた。
フレデリカなら朝飯前の依であったし、何より、依頼主のアルジュ駐屯地、その司令は一級魔導士ラウル・サランであり、エミール自身も彼と面識があり、真面目で優秀な人格者、信頼出来る人物だと知っていたからであった。
しかし、そんな信頼とは真逆のことが起こってしまった。
それを知ったのは、フレデリカの出立から三日後のことであった。
フレデリカのいないだけで、楽園と化した自宅で研究に勤しんでいたエミールの元に、魔法協会から緊急事態を報せる使い魔が届いた。
『アルジュにて反乱の兆しあり。魔法協会は、共和政府に協力し、早急な反乱の鎮圧を行う。』
その報せに、エミールは慌てた。
フレデリカが依頼で向かっている場所だからだ。
そんな事態にエミールはこう考えた。
フレデリカが反乱の主導者なのでは?
あの高慢で我儘、横暴で自尊心の塊の様な少女なら、なにか自分の自尊心やプライドを傷つけられる様な態度をアルジュの地でとられたなら、容赦なく暴れるだろうし、それを反乱と捉えられているのではないか?
そう考えたエミールは、頭を抱えた。弟子の不始末は師匠も責任を負う可能性がある。ましてや、その弟子を反乱の発生地へ向かわせたのは自分だ。自分こそが反乱の指示者と捉えられても仕方ない。
「バルサン・エミール、暫く身柄を預からせてもらうぞ。」
エミールにとって良い上司であった、魔法協会会長ジェルマンの懐刀と云われるデュボアが、そんな想像通り、直様魔法協会からベテランの一級魔導士を数人率いて現れた。
勝つどころか、逃げることさえ不可能と察したエミールは観念し、大人しくデュボアの差し出した枷に手を伸ばした。
「ラウル・サランの協力者と認めるのだな…優秀なお前が何故…とは思うが、話は後程ゆっくり聴かせてもらおう…」
「ラウル・サラン!?…首謀者はメヌエール・ド・サン・フレデリカではないんですか!?」
自身を認めてくれていたのだと知ると同時に、予想外の人名が主導者であったと知り、枷に向けていた両腕を、慌てて手を引っ込める。
「フレデリカは!?」
「無事だ…お前、いったいどんな勘違いをしていたんだ…?」
エミールの質問に、デュボアは呆れた様子で答え、そう問い返す。
「随分と誇大な妄想だ…いや、仕方ないか…」
エミールの考えたシナリオを聞いたデュボアは、呆れた様子を一瞬見せたが、すぐに致し方ないという判断を下した。
デュボアもまた、ジェルマンの側近という立場から、フレデリカという少女の性格や能力を良く知る人物であり、エミールがそんな考えに行き着く可能性を理解出来たからだ。
「しかし、お前の言う言葉を全て信じるという訳にもいかぬのだ…分かってくれるな?」
拘束を解く気配は微塵も見せずにデュボアは言う。
「ええ、勿論。なんなら、首謀者と一緒に、あのクソガキも断頭台にかけてくれませんかね?」
フレデリカがヤバい奴だという認識は、何も間違っていなかったのだという確証を得ながら、エミールは頷いた。そんなエミールの言葉にデュボアは苦笑した。
エミールの身柄を抑えること三日と半日。デュボアの元に一報が齎された。
『メヌエール・ド・サン・フレデリカの一撃により、反乱軍は壊滅。共和政府軍も甚大な被害。』
と。
「とんでもないじゃじゃ馬だな…エミール。」
一報を受けデュボアの言葉に、エミールは応える。
「代わってくれませんか?後半年、胃が保たないです…」
悲痛な彼の呟きに、デュボアは首を横に振った。
その数日後、首都パンパールへと帰還したフレデリカは、反乱を事前に察知した功績と、決定的な勝利に繋がる、敵味方共に容赦ない一撃を放った功績で表彰されることが決まった。
そんな情報を得たエミールは、これで一層、態度が増長するのだろうと冷や汗を流していた。
しかし、その後、フレデリカは彼の元には現れることは無かった。
数日後、偶然街中で見かけた彼女の姿は、まるで別人の様で、以前の様な覇気は微塵も無く、不健康そうな顔色と、疲れ切った瞳をしていた。
てっきり、己の功績を存分に振りかざし、ふんぞり返って歩いていると思っていたエミールは、そんなフレデリカの姿に驚愕を覚えると同時に、恐怖を感じた。
彼女の精神状況は正常ではない。それは一目見れば分かることだが、そんな彼女が、そんな不安定な精神で暴走するのではないか…と。
だが、フレデリカは暴走することも無く、エミール宅に現れることも無く、姿を消した。
フレデリカが彼の前に現れたのは、彼女が姿を消してから三月後。
以前の様に覇気に満ち、傲慢で高慢、横暴で自尊心に満ち満ちたナルシスト。以前よりも一層増長した悪魔の少女の姿だった。
そんな姿に安心したのは一瞬で、エミールは、平穏な三月をすぐに懐かしむ様になる。
そのままでいてくれたら良かったのに…と。
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