第18話 フレデリカの罪
「煩いわねっ!!…クソっ!!あのババアッ!!」
轟音と悲鳴の響きで悪態を吐きながらフレデリカは目覚めた。
「ぐっすり眠ってましたね~。可愛らしい寝顔でしたよ~。やっぱり、子供はいっぱい寝ないと〜。」
目覚めたフレデリカの眼前に、彼女を気絶させた、緊張感の欠片も無い張本人がいた。
何故か、すやすやと安らかな寝顔を浮かべるアイアを膝枕して。
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「私、どれくらい寝てたのかしら?」
外の喧騒…窓から外を見たフレデリカの目に入った光景は、魔法が飛び交い、兵がぶつかり、血みどろの戦いを繰り広げている。
「三日ですよ~。本当にぐっすり寝てたので起こすのも気が引けました〜。普段夜ふかししていますね~?駄目ですよ~子供はしっかりと寝ないと〜。」
ぽわぽわととんでもないことを言うヒルメ。
「三日!!…だからこんな状況になってるのね…」
フレデリカは察すると同時に、グーッと腹の虫が泣いてしまい、顔を赤くする。
「あらあら、そうですよね〜、お腹空きますよね〜。」
「違うわよ!!そうじゃなくて、この状況のことを言ってるのよ!!」
ウフフ、と笑うヒルメに更に顔を赤くして怒鳴るフレデリカ。
「とりあえず、ご飯にしましょうか~。」
ヒルメは、そんなフレデリカを、可愛いものを見るような微笑みでそう言った。
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「なによこれ!!塩辛い!!こんなの食べ物じゃ無いわ!!」
ヒルメの出した白い三角形のものと魚の保存食らしきものを口に含むと同時に吐き出し、怒鳴るフレデリカ。
「好き嫌いしてたら大きくなれませんよ~?」
そんな塩辛いものを美味しそうに食べながら、小さな子供に言い聞かせる様に言うヒルメ。勿論、数千年の時を生きる彼女からすれば、フレデリカは赤子の様なものかもしれないが…
「ベ、別に大きけりゃ良いってもんじゃないでしょ!!」
「ん…??」
顔を赤くしながら自身を睨み、怒るフレデリカに、子供扱いし過ぎたかしら?と小首を傾げるヒルメ。
一方のフレデリカは、ヒルメの胸を見て、大きけりゃ良いわけじゃない!!あんなの牛よ!!牛!!その点私は…と、自身の胸に手を当て、ワナワナと震えていた。
外の音は更に激しく、大きくなる。戦闘が更に激化している。
「う〜ん…やっぱり、好き嫌い言わずに食べた方が良いと思いますよ〜。…腹が減っては戦は出来ぬ、って言いますし…うん、やっぱり、我慢して食べた方が良いですよ~。」
そんな状況を察して、ヒルメは無理矢理フレデリカの口に食べ物を突っ込む。
「よく噛んで食べましょうね~。」
吐き出しそうになるフレデリカの口を押さえ、無理矢理咀嚼させ、鼻を摘み、無理矢理呑み込ませる。
「〜〜〜っ!!何すんのよ!!このクソババアッ!!このフレデリカ様にこんなもの食べさせてただで済むと思って無いでしょうね!!こんな塩辛い…塩分過多の高血圧で死んでしまえ!!クソババアッ!!
怒り狂い、杖を向けるフレデリカに、ヒルメは笑う。
「お師匠様の仰っていた通りですね〜…私、サロメちゃんよりも強いですよ〜。」
間の抜けた声。しかし、そんな声の主の放つ気配は、言葉の通りで、フレデリカが完敗したサロメの比ではなく、啖呵を切ったフレデリカ自身でさえ気圧され、言葉を紡ぐことが出来ない程に…
「フレデリカちゃん、この状況、貴女はどう見ますか?」
垂れ目を見開き、全てを見透かす様な黒い瞳で問うヒルメ。先程迄の威圧感は一瞬で霧散していた。
彼女の問いの意味を、フレデリカは理解し、答える。
「どう上手く立ち回ったとしても、反乱側の敗北。なんせ、他国の魔法使いまでも監禁、洗脳したのだから…アイツらの正義が、如何に崇高であっても、大局を理解出来ていないなら、結果は明白。…まあ、そんな大局を容易にひっくり返せる者がいるなら別だけど。」
「流石天才魔法少女ですね~。」
自身を見るフレデリカに、ヒルメはほんわかと言う。
「でも、私は、アイアを助けられたので、これ以上動きません。それなら、この戦いは、フレデリカちゃんの予想通りに、反乱軍の敗北で終わるでしょう。そうなった場合…」
「また革命の波が起こる。そう言いたいんでしょう?」
睨み合う様に二人は見つめ合う。
先に言葉を紡いだのはヒルメだった。
「そこまで理解していてやったのなら、私は何も言いません。」
「何を言いたいのよ!?」
フレデリカは、ヒルメの曖昧な言葉に問う。
「知るのは、もう少し先ですね。私が今伝えたら、お師匠様に叱られてしまいます。」
微笑んで返すヒルメ。
「アンタの言うお師匠様って、誰よ!!」
フレデリカは怒りを顕にして怒鳴る。
「もう少しすれば分かりますよ~。セラフィマ姉さんもそう言ったんじゃないですか~?」
間抜けた声でそう返し、
「では、また数年後に〜。」
アイアを担ぎ、ヒラヒラと手を振って、そう言ったヒルメは、一迅の光となり、誰一人傷付けることなく激戦の戦場を疾走り、一瞬で視界から消えた。
「フレデリカ!!…無事であったか…」
涙をボロボロと流しながら、フレデリカの前に現れたジェルマン。
フレデリカは、アルジュの町に着き、その違和感に気付き、町を見廻り、確信すると同時に、使い魔をジェルマンの元に放っていた、『反乱の疑いあり』と。
「お前に何かあったかと思ったら…儂は…儂は…」
涙と嗚咽で言葉を続けることが出来ないジェルマン。彼は、フレデリカからの報告を受け、直ちに全権力を振るい、軍と魔法使いを動かしすように、短期間でアルジュ制圧にランフの全力を向けるべく各方面に圧を掛け、愛しの玄孫を救うべく動いた。
「はぁ!?キモいのよ!!クソジジイ!!このフレデリカ様がこの程度の奴らに負けるわけ無いでしょっ!!」
そんなジェルマンに厳しい言葉を浴びせるフレデリカは、続けて言う。
「『極東の慈母』がいなければ、私がとっくに制圧していたわ!!私が英雄になる機会だったのよ!!絶対に殺してやる!!サロメも!!ヒルメも!!」
今まで通りに癇癪を起こし始めた玄孫に、ジェルマンはがっかりしつつも、安心していたが、続く言葉を聞き、彼女の変化を知る。
「…でも、感謝はしてあげる。…ありがと、ジェルマンお祖父様。」
赤い顔をしながらそう言って、プイッ!と顔を背けるフレデリカは、
「さっさと制圧して、都に帰るわよ!!」
直様いつもの調子で杖を取り出す。
「ああそうじゃな…」
そんな玄孫に頬を緩ませるジェルマン。
「なにニヤけてんのよ…マジキモい…」
一瞬で汚物を見る様な、嫌悪の目で見る玄孫に、マジ泣きしそうになったジェルマンだったが、必死に堪える。
「この程度、私一人で十分だわ!!前から試してみたい魔法があったのよ…」
そう言ったフレデリカは、敵、味方問わずに豪雷を落とし制圧する。
正しく悪魔の所業であったが、そんな天からの雷に、戦場の半数以上が倒れ、誰もが戦意を喪失していた。
「極東の乳牛と、そのバカ弟子がいなければ、さっさと終わっていたのよ…」
焼け野原に変えた戦場を見下ろしながら呟くフレデリカ。
そんな彼女に、生き残った兵たちは憎悪の目を向ける。それが彼女にも伝わったのか、ゾクリと、不気味な感覚が、一瞬だけフレデリカを襲う。
「弱いのがいけないのよ…私は、何も悪く無い…私は特別なんだから…」
己に言い聞かせる様に呟くフレデリカの下には、黒焦げになり、吐き気を催す程悍ましい匂いと、惨劇が広がっていた。
「私は悪くない…」
そう呪詛の様に吐き出すフレデリカ。
新たな革命の炎が燃え上がる。その火種の一つとなる日であった。
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