絶版ウェブページ栞さん
沈黙静寂
第1話
わたしこと
当初は制作を進めるコツみたいなものを掴めていなかったから、浮かぶネタを溢れるままに書き、「百合短編集」の中に毎日投げ込んでいた。自己満足で書いているので誰にも読まれなくていいと思っていたが、試しに他人のレビューを書いてみれば自分の作品にもコメントが付いて嬉しかった。「乱歩みたい」と言ってくれた人の存在は今でも覚えている。コメント一つ貰えただけで、いいねが一つ付いただけで、今後一生不満足には陥らないだろうと思った。
長編としては姉妹の話や中二病の話、スポーツ批判の話、小説家を殺していく話、挙句はコンビニバイトの話を同時に上げて進めようとしたが、案の定二つ目以降は最初の二、三話で更新が止まった。当時は学校や受験に頭を搔き乱されて集中出来る状況ではなかったから、仕方なかったと思う。その代わり短編やショートショートは二百点近く上げ、「嫉妬なんかじゃないんだからしねっ」「先輩と過ごす時間の価値」「色香のダリア」辺りは小説家になろうで言う所の二桁の評価点数には到達した。だけどそれが限界で、ツイッター上の告知にいいねは一つも付かなかった。唯一、同じく姉妹をテーマに書いていた人からメッセージを貰ったことはあったが、それでおしまい。
そんな状況が半年以上続いたものだから、わたしは逆上してカクヨムで暴れてやった。何百回もいいね、レビュー、フォローしていたらやがて凍結された。新しくアカウントを作っても以前の情報を載せた途端抹消された。そこでカクヨムの利便性は諦め、別サイトにも投稿しようとした際、表紙画像を設ける欄があり、折角だから自分で描いてみようと思い立った。これがわたしの絵描き人生の始まり。この時はまだ油性ペンとコピー用紙で十枚、二十枚描くだけだったけれど。
短編を書き連ねる内に本格的な受験期が迫り、三年の二〇一八年、浪人の二〇一九年は「日めくり喫茶」「であいちゅう」を書くだけで殆ど創作活動を行わなかった。最終的に合格したのでこの空白期間は無駄ではなかったと思うが、ツイッター上の微小な繋がりが更に希薄になったのは悔しかった。
二〇二〇年、晴れて自由の身になったわたしは執筆を放置して絵描きに没頭した。いつだろうと書ける文章より、上達に時間の掛かる美術を学生の内に一通り極めようと思った。表紙絵を魅力的に描けば小説にも貢献するし、何より元から図工の好きだったわたしは創作全般に対して関心があり、第二の創作に出ることによりそれを強く自覚した。独学で只管描き続け、ツイッターやピクシブに上げてみるがこれも精々二十いいねに留まった。
今度は絵描きと繋がってみようと五百人以上フォローした内、反応があったのは三十人程度で、十人にダイレクトメールした所、一人とはオフラインでゲームをプレイする段階まで漕ぎ付けたが、そこから先へ進展することは無く、また逆上してわたしの方から縁を切った。その一人は未だに鼓動を確かめてしまう。
半年、九カ月、一年と経ち、制作数が二百を超える頃には技術面はかなり進歩し、コンテストに応募してみようと関連する情報収集を始めた。同時に今更ながら小説、文芸のコンテストを調べ始め、敷居の低い短編コンテストにはそそくさと応募した。インターネット上で流行る方が理想的だからと言って避けていた公募だが、とんだ贅沢思想だったと振り返る。
二〇二一年夏頃、絵の成熟を見計らって好い加減小説活動を再開しようと短編「誕生日」を投稿する。三年以上期間が空いて不穏ながら無事に書き上げると、良い物が創れた達成感でエクスタシーを感じた。やはりわたしには小説執筆が一番向いており、初心を忘れることは有り得ないと分かった。
再開後暫くは小説家になろうのみで投稿していたが、カクヨムの新しいアカウントを作ってみると今度は直ぐに消されることは無く、「あの子の中の短編集」に嘗ての短編達の一部を詰め込み、「冷ややっ子」「アンナバレンタイン」等の短編を表紙絵と共に創り上げ、例のコンビニ人間に横取りされたコンビニ長編小説を四年振りに再開した。媒体同士の掛け算を実践すれば、自分の世界が確実なものになりゆくのを犇々と感じた。
だけど、読まれなかった。
見られなかった。
だから懲りずに暴れてやった。「死ね」「死にたい」を撒き散らす雑言の中に、「友達くれ」ある日、本音が呟かれた。
「良ければお話しませんか?アズシーさんの活動に興味があります」
人生初めてのリプライを送ってくれたのは
この時、わたしは栞さんと出会った。
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