夫の元不倫相手と一緒に住んでいます
花氷
1 2度目の不倫
夜中に頻尿で目が覚めた。三十代になってから明らかに頻度が増えている。
下腹部に力を入れてダブルベッドから起き上がり、足を床につけた。真っ暗闇の中、尿意に耐えながら足指でスリッパの在処を探していると、あることに気づいた。
夫――
重度の鼻炎持ちの淳樹は常に口呼吸で、毎日地鳴りのようないびきを気持ちよさそうに奏でている。新婚当初はあまりのうるささに不眠が続いたが、五年たった今は眠れるようになった。その代わり、頻尿に睡眠を阻害されているけれど。
それはそうと、なぜ淳樹はいびきをかいていないのだろう。今日は飲み会もなくて二十一時には帰宅していたし、一緒に寝床についたのだからいないはずはない。
後ろを振り向き、先程寝ていたところに視線を移す。暗がりでよく見えないが、隣にはもっこりと隆起した掛け布団がある。私が不眠で体調を崩して以来、淳樹は掛け布団を顔まで被って眠ってくれるようになったのだ。
もしかして、それが原因で窒息している?
その可能性を考えた途端に焦燥感に駆られ、急いで掛け布団をはいだ。視界不良の中、「淳樹」と呼びかけをしながら彼の身体をゆすった。
しかし、それは人間の感触ではなかった。
拍動の加速を感じながら手探りでシーリングライトの小さなリモコンを探した。
ない、ない、ない、ない、ない、ないないない。
苛立ちが飽和し、雪崩れるようにベッドから降りた。一目散に部屋の入り口へ向かい、壁付けの電気のスイッチを探す。途中でスリッパを踏んで足首を捻ったが、気にする余裕はなかった。
壁を何度か拳で叩いたらスイッチを押せた。唐突についた人工的な光があまりにも眩しくて、反射的に瞼が下りた。乱暴に目をこすって強引に目を開ける。
掛け布団の下にあったのは、淳樹のパジャマを着た細長いヨギボーだった。
「また、不倫……」
あの日の苦い記憶を思い出した途端、先程捻った足首が激しい痛みを訴えた。
同時に、少しだけ尿が漏れた。
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