第7話 掴み合い
僕たちはタダシくんに呼びこまれて塩川医院の中に入った。
塩川医院は元々もう少し僕の家の近くにあったが、駅により近くより広いこの場所に昨年移転した。
人口13,000人の
塩川医院が移転したことで、別の中学に進学したことで
「その子らをこっちに寝かせてくれ」
タダシくんが指示して、診察室のベッドにないと君とにいなちゃんをそれぞれ寝かせる。
タダシくんは2人の指にそれぞれでっかいクリップのような機械をつける。
「
そう言ってタダシくんは、
「火傷もないみたいだな。骨折とか大きな
タダシくんがそうないと君に伝えると、ないと君も安心したように目を閉じた。
「おい、タダシ! 何医者みたいなことしてんだよ! オマエんところの父ちゃんか母ちゃんに言って
オグちゃんが、寝そうになっているないと君に気を使って小声で、だけど強い語調でタダシくんに問いただす。
今にも
タダシくんもムッとした表情になって、こちらも小声で言い返す。
「オマエはいつもそうだ! 人の事情も考えずに自分の気持ちばかりぶつけやがって! ふざけるな、どうしようもないことだってあるんだ! 本当はわかってんだろ、この脳筋野郎が!」
「何だと! いつもお高く止まりやがって! アタマいいからって調子に乗ってんじゃねえ!」
「オマエこそ、こんな状況でよく自分の正義振りかざせるもんだな! 正義の味方気取りか!」
「二人とも止めてよ! ないと君たちが落ち着かないよ!」
僕はそう言って二人の間に割って入った。
タダシくんが、グッと言う表情になり、一度息を吸って大きく吐き出して「場所を変えよう」と言って診察室を出て行った。
「くそっ!」
オグちゃんもそう言ってタダシくんの後を追っていく。
僕はないと君たちの様子が心配だったので二人に付いて行くか迷ったけど、ないと君とにいなちゃんは、今は落ち着いて目を閉じ眠っている様子だったので、二人の後を追った。
中学が別れてタダシくんとは
昔はよくめぐも入れて4人で遊んでいたし、あの頃は本当に仲が良かったのに。
二人があんなに仲たがいするようなことは、僕が覚えている限り無かったと思う。
オグちゃんからも聞いていない。
最も、タダシくんの話題になることはほとんどなかったし、
オグちゃんとタダシくんは、駐車場で
互いの胸の
オグちゃんは179㎝で中学生としてはかなり身長が高いけど、タダシくんも172㎝ある。
でもやっぱり身長差でオグちゃんの方が
「オマエは、どうせ俺のことなんてどうでも良かったんだろ! 俺達のこと捨てて一人だけ
「オマエこそ勝手すぎる!
「行きたくねえなら素直にそう言えばいいだろ! 俺だって何か力になれたかも知れねえのに! オマエはいっつもそうやって一人で何でもやりたがる! それが気に入らねえ、お高く止まってるってんだよ!」
「言ったってどうしようもないだろ! うちの両親がガッチリ決めてたんだから! せめて卒業までは変な気を使わせたくなかったんだ!」
「それが水くせえんだ、バカ野郎! 入学式にオマエが居なくて俺がどれだけ心配したかわかってんのかよ!」
そう言ってオグちゃんは、タダシくんの
タダシくんのかけていたメガネが吹っ飛ぶ。
でも、タダシくんもオグちゃんが手を放すのと同時に右手を離し、左頬を殴られる直前にオグちゃんの腹を突き上げるように
「ぐふっ」
長身のオグちゃんの体が折れ曲がり、お互いに手を放した。
タダシくんは、吹っ飛んだメガネを拾った。
落ち着いてメガネが
「オマエが言ってることは、正しいよ。正しいけど、僕みたいな子供にはどうしようもないことだ。それをその後会うたびに何度も何度も言われて怒鳴られて責められるのは
水臭いのはわかってたさ。でも、言っても言わなくても結局は同じことだろう」
「違うよタダシくん、それは違う!」
僕は思わず叫んだ。
「僕もオグちゃんも、タダシくんと
タダシくんは、僕の言葉を聞いて、ちょっと表情を
タダシくんも、本当はわかってたことなんだ。
でもタダシくんは、続けて言葉を重ねた。
「大人がみんな砂になって消えてる状況ってわかってるんだろ? なのに、父さん母さんに
……え?
「そんなことある訳ないだろ!」
うずくまったオグちゃんがそう言い返す。
「オグちゃん、オグちゃん家の両親やお兄さんはちゃんと家にいたんだよね……?」
「家の両親は、この時期いつも朝は5時くらいに畑に行ってるし、兄貴も嫁さんも一緒だよ。家はブドウもやってるから、今の時期は
「……じゃあ、オグちゃんは両親と朝は会ってないの……?」
「会ってないけど、軽トラは無かったからいつも通り畑に行ってんだよ」
それを聞いていたタダシくんは、メガネの上から顔を抑えて、天を仰いだ。
「……なるほどな。なら仕方ないか……」
「ねえ、タダシくん、タダシくんは何でそんなに断言できるの? 大人が砂を残してどこかに集まってるだけかも知れないじゃないか」
そうだ、そうであってほしい。大人たちの壮大ないたずらであって欲しい。
でも、タダシくんは、僕の目を見て真っ直ぐに言った。
「目の前で、大人たちが砂になったからな。だからさ。あの車は砂になった会社員から拝借してきた」
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