#010_青い髪の少女
【前書き】ーーーーーーーーーー
昨日は仕事のトラブルにより投稿できなかったため、本日は2話投稿しています。
こちらは2話目です。
よろしくお願いします。
【本文】ーーーーーーーーーーー
リリン村はなんの特徴もない田舎村だ。
村の中央に集会所や食堂、商店、鍛冶屋などが集まっているが、それ以外はほとんど畑。さらに村の奥に行けば、そこら一帯雑草だらけの土地と廃屋が数軒ある。過疎化が進んだ小さな村といった感じだ。
村と外とを区切る境界として木の柵が立てられていて、大きな街側とその反対側に門が設置されている。ちなみに、俺たちがレイモンドさんとくぐったのは街側の門、そしていま向かっているのが森側の門の方角だ。
「あそこに行くわ」
そう言ってティーが指差したのは、森だ。まだ柵の内側であるにもかかわらず、木々の生い茂った一角がある。
「気になる場所って、森?」
「あの森の中に、家があるの」
「えっ、じゃあだれか住んでるってこと?」
たしかに、森に向かって、土が踏み固められた道が伸びていた。わずかだが車輪の跡もある。
「なんでこんなところに? 村の中心部からも遠いのに……」
「離れられない理由があるのよ」
「その理由、知ってんの?」
「ええ」
雑草のない道を辿って森へ入ると、本当に大きな家があった。
森を一部、切り拓いたような場所にあるその家は、田舎の村には珍しい二階建てだ。青い屋根に白塗りの壁、窓には木扉。見た感じ、村にいた人たちよりは裕福そうな家である。
いったいどんな人が住んでるんだろう……。
ティーが玄関扉をノックすると、家の中からぱたぱたと足音が聞こえた。
出てきたのは、俺より年下に見える少女だ。すこしくせ毛の青髪で、まぶたの降りた眠そうな瞳をしている。寝起きかとも思ったが、エプロンに三角巾をつけているところを見るに、なにか作業中だったようだ。
「……どなた?」
「私はティー、こっちはミキヒト。よろしくね」
……え、それで終わり?
普通は職業とかここに来た理由とか言うもんなんだけど……どうしよう、無職だし、ここに来た理由は聞かされてない。フォローのしようがない……。
「……そう。とりあえず、あがってください」
うさんくさげな視線で俺たちを見た少女だったが、すぐに俺たちを家に招き入れた。
俺たちのような見ず知らずの輩が訪問するような心当たりがあるのだろうか。
ていうか、親御さんとかはいないのか? 留守中だろうか?
招かれたリビングダイニングにて待っていると、少女は俺たちの分の椅子を運んできてくれた。
テーブルにつくように勧め、わざわざお茶まで出してくれる。
紅茶ではない。すこし薬っぽい? 漢方みたいな香りのお茶だ。どことなく日本茶を思い出す。
俺がお茶の味に懐かしさを感じていると、三角巾をはずした少女が俺とティーの対面に座る。
「それで、目的は薬の買いつけですか? それとも薬草?」
「買いつけ?」
俺は少女の言葉をオウム返しする。
少女は俺の態度を訝しみ、首を傾げた。
「? ……私が作る薬が目的でいらっしゃったのでは?」
「……もしかして、お医者さんなんですか?」
こんな年端もいかない少女が?
「医者というよりは薬師ですね。正式な免状を持ってるわけじゃないけど、薬は冒険者ギルドにも商人ギルドにも卸してる。珍しい種類の薬草も栽培してるから、ときどき村まで買いつけにくる薬師とか行商人がいるんだけど……あなたたちは、そうじゃない?」
「ええ、それとは違う目的」
ティーが首肯する。
「たしかに、あなたたちは薬師にも行商人には見えない。なんの目的でここに?」
そう、それ俺も知りたい。
「そうね、なにから話すべきか、すこし迷っているのだけれど……」
手を顎にやり、考える仕草のティー。
しかし彼女がなにか言う前に、俺が発言する。
「まずは自己紹介とかからじゃないですかね……?」
これが妥当だ。
出会い頭のアレはざっくりしすぎていたし、俺はこの少女の名前すら知らない。あと、ティーに任すとどんどん話が進んでいきそうだ。俺を置いてけぼりでな。
「えっと、俺はミキヒトって言います。彼女はティー。俺たち、実は貴族落ちで……」
「私は精霊よ。彼は異世界からの召喚者」
「えっ」
言っていいの? 俺せっかく貴族落ちって新ワード使って嘘ついたのに……。
精霊、召喚者。そんな聞き慣れないであろう言葉を投げかけられた少女は、やはり驚愕した。眠そうだった瞳はぱっと開かれ……しかし、すぐにもとに戻った。
そして思案顔。数秒あと、
「……だいたいわかった」
えっ、いまので? なにがわかったというのか。
「こっち」
そう言って少女はリビングを出た。俺たちは彼女のあとについていく。
通された部屋は廊下の奥、どこか実験室じみた部屋だった。
木製の棚が並んでいて、そこには薬研や乳鉢、さまざまな実験道具が陳列してある。机には調合の途中っぽい中鉢が置いてあった。ここは彼女の作業部屋なのだろう。
少女はそんな部屋の奥に俺たちを招いた。
なにもないスペースだ。普段は使わないのであろう余計な椅子が重ねて置いてあるだけである。
少女はそれらの椅子をどかし、しゃがみ込んで床石に触れた。
「召喚者様、魔術は使えますか?」
「使えるけど……」
「じゃあ、ここに」
少女が示したのは、その空きスペースの床石だ。
「この下、10mほどに術式が仕込んであります。起動をお願いしていいですか? 私じゃ、時間がかかるので」
「あ、はい、大丈夫です」
言われるがまま、俺はしゃがんで床石に触れる。
意識を集中させ、言われた通り、床下10mほどに意識を広げていくと……、
「おおお……!」
ゴゴゴゴッ、と音を立てて床石が沈み始めた。
そのまま魔術を使い続けると、やがてそこには地下へと通じる石階段が形成される。秘密の部屋感……!
「来てください」
少女について階段を降りる。
石階段は何度か折り返していて、そこそこの深さがありそうだ。
地上の光が届かなくなると、少女の左手首に巻かれていた幅の広いブレスレットから、ぽうっと光の球が放たれた。あのブレスレットには発光の術式が仕込んであるのだろう。
「ここです」
そう言った少女は、光球を分裂させて地下室へと拡散した。
その光に照らされて現れたのは……、
「図書室……!」
またもや図書室だった。旧王城と同じパターン……いや、もちろん違うところもある。
まず、旧王城の地下図書室ほどの規模はない。学校の図書室くらいの広さだろうか。
室内も手入れが行き届いているようで、埃の一つも見えなかった。
石製の本棚に挿してある本についても、くたびれてはいるが、旧王城地下の書物のように触れると崩れるほどではない。古くはあるが、手入れされている印象だ。
「ここは、私のご先祖様が作った書庫」
部屋の奥へと進みながら、少女は説明してくれる。
「数百年前、この村を開拓するときに、この場所を作ったらしい」
村を開拓って、開拓民かなにかだったのか?
「召喚者様、これを」
部屋の奥から戻ってきた少女は、俺に一冊の本を差し出した。
見せたいものってこれか?
見た目は普通の本だ。本棚に並んでる本と同じで、かなり古い年代のものっぽい。
表紙は、かすれていて読みにくいが……、
「……これって」
その文字を認識して、俺は思わず息を呑んだ。
かすれた表紙には、たしかにこう書いてある。
『diary』と、英語で。
「読めるんですね?」
少女が確かめるように、俺の顔を覗き込んできた。
「え、ああ、はい。これって……」
「それは、私のご先祖様が、故郷の言語で記した書物です」
故郷の言語が、英語。
「つまり、君は……」
「私はリース・メイヴィス。異世界からの召還者、ジェイク・メイヴィスの子孫です」
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