第6話「シンドーの就職物語」
先日、授業中に私が教えた文法を使っての短文づくりというグループワークをしていた学生たち(中級)から『壁ドン』とはどんなものか聞かれて返答に大層困った日本語教師、シンドー・ケンイチです。LINEスタンプで丁度いいものを送って「これ」で解決しましたが、女の子はアレ嬉しいものなのでしょうか。しばらくキャーキャー騒いでうるさかった。
今回は私が日本語教師になるまでを書こうと思う。まず始めに書いておくと、私が日本語教師になった経緯はだいぶトリッキーで参考にならないはずだ。
そもそもの始まりは大学一年生の時、ボランティアで初めてタイへ行ったことだ。そのとき、タイという国と波長が合ったのか相性が良かったのか、私は在学中、何度もタイ旅行をして、大学ではタイ人の留学生と遊ぶようになった。タイ語はそれほど熱心に勉強していなかったけど。
ただ、当時の私はあまり真面目な学生ではなかった。4年生になっても毎日大学に通っているような学生だった。3年生までに必要な単位を取り終え、4年生時は卒論と就職活動に精を出す、というのが一般的な大学生らしい。もちろんそうじゃない大学生もいるのだろうけど、私は『一般的な』という括りからはぐれてしまったスイミーのような学生なのだ。
さて、若きシンドー青年、毎日大学へ通って何を勉強していたかというと『日本語教育』に関する授業の数々。
「おお、将来を見据えて勉強しているのか」
と思ったあなたは甘い。世間知らずでちゃらんぽらんな大学生がそんなこと考えちゃいない。単純に卒業のためにはいくつか自由に選んで授業を取る必要があり、科目名を見て選んだだけだ。それまで留学生と一緒にいて日本語の質問をされる事が多く、役に立てばいいなぁ程度の軽い気持ちで取ったというわけだ。だからまあ、その選択がその後の人生を大きく変えることになるなんて思いもしなかった。
相も変わらず就活なんてせずその日その日を生きていたある日、同じ授業を取っていたタイ人の友人に冗談半分、いや、冗談九割で聞いてみた。
「ねえ、卒業したらタイに住みたいんだけど、仕事知らない?」
「じゃあ、私が働いていた大学で日本人の先生を探してるからやる?」
「やる!」
就活が15秒で終わった瞬間である。
そんなこんなで私は日本語教育に関する授業を一通り取って副専攻を取得し、晴れて日本語教師としてタイへ渡ったのである。
途中の話を省くなとお怒りの方もいるかもしれないが省いたりしていない。マジでこれが私の人生なのだ。一応、用事があって来日した主任のW先生(第一話で迎えに来てくれた方)に新宿で会って軽く仕事について話したりもしたけど、試験や面談などは一切なかった。今思うと、ド田舎の大学なので食いついてきた人間は離したくなかったのかもしれない。私は本当に運が良かった。
ここまでお読みになって気づいた方もいるかもしれないが、私は『日本語教師になりたくてたまらない!』という人間ではなかった。単純に『夢とか特にないけど、な〜んかタイ行きてぇ』という人間だったのだ。どうしようもねぇな。
それが5年後には大学院進学(もちろん日本語教育専攻)を目指して帰国するのだから、人生なにがあるかわからないものだ。
さて、最初に断った通り、私の経験談が役に立った方は皆無だろう。もし役に立った、感銘を受けたという方がいるならば、声を大にして言いたい。
『目を醒ませ!あなたの価値観がシンドーに侵略されてるぞ!』
おや、『SSSS.GRIDMAN』というアニメの主題歌に似たフレーズだな。
今回は以上。次回は「日本語教師になるにはどうすればいい?」というテーマで書いていきたいと思う。
ちなみに、冒頭の学生たちからはその後「じゃあ、これは日本語でなんですか!?」と相手の顎に指を添えてそれを軽く持ち上げてキスをする動きを見せられたので『顎クイ』と答えておいた。
私は『先生』ではなく『日本語に詳しい友達』だと思われているようだ。
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