真夜中のお仕事

朝凪 凜

第1話

 いつものように学校帰りに友達の結城ゆうきつばさと遊んでいつものように陽が落ちる頃に家に帰って、いつものようにお風呂でのんびりしてそろそろ寝ようかなという頃にスマホでゲームを始める。

 前に翼がこれ面白いよと教えてくれたのだ。

 3Dキャラクターを自由に動かして敵を倒したり、クエストを進めてレベルアップしたりというRPGだ。

 最近のスマホゲームはすごい。ゲーム機でやるようなものをこんな小さな画面で出来るようになるんだから。


  *  *  *


 数時間は経っただろうか、かなり夜更かししているのは自覚しているものの、明日の学校で小テストがあるわけでも無し、多少は授業中寝ていても大丈夫という謎の安心感からゲームを続行する。


 ゴトン。

 ベランダの方から何かが落ちたような音が聞こえ、どうしたのかと思って顔を上げると、月夜の逆行に照らされて人影が見えた。

(こんな夜中に泥棒!?)

 と感じた途端に身体が動かなくなってしまった。

 そのまま静かにしていたらカラカラカラと窓が開いたので、唯一動かせた首を背けて寝たふりをしてやり過ごそうとする。


 ゴソゴソと音が聞こえ、これはなんかヤバいやつなのではないかと改めて不安になっていると、


 ガシャーン!


 とガラスが割れる音と同時に別の人が入ってきたようだった。

「コラ待ちなさい! こんな所にご飯は無いわよ!! 籠にお戻り!」

 という女性の声が聞こえて咄嗟に振り向いてしまった。

 顔は暗くてよく見えないもののシルエットは全身にフリルが多く、膝上くらいのミニスカート、左手には何やら装飾された棒がうっすら見えた。

「え、なに……?」

 あまりの違和感に咄嗟に声が出てしまい、相手がその声のした方、つまり私の方をすごい勢いで見つける。

「え、やばっ! 起きてる起きてる。気付かれてるってば。ちょっとポチなんとかして……ってあれ?」

 疑問の声が上がり、こちらを見つめる少女らしき人物。

「もしかして……あかりちゃん?」

 私、芳野よしのあかりだということが知られていることに驚いた。

 目を凝らしながら少女が近づいてきて息がかかるくらいまで顔を寄せてきたところで、ふと友人の顔が浮かんだので名前を呼んでみる。

「翼?」

 今日遊んだばっかりだったのに声を聞いても全然分からなかったのはあまりのことに動転していたからだと思う。

「うげ、やっぱり! どうしよ。このことは他の人には内緒に……」

 尻すぼみになっていく声を聞いて私はいつの間にか動ける身体を起こして笑ってしまった。

「あははは。どうしたのこれ。ちょっと待って……。うわっ、めっちゃパステルカラーな服」

 スマホのライトをつけて突っ立っている少女の方に向けると、不思議な衣装を纏っていた。

「ちょ、ちょっと眩しいって! まあこれはそのー……色々とあってね」

 スマホのライトを消して頬を掻く友人の方に今度は鋭い光を当てた。

 カシャ!

「よし! 証拠は押さえた! それじゃあどうしようかな~、これ」

 友人の恥ずかしい写真を撮り、これをネタに強請ゆする。

「ちょっとちょっと、友達相手にすることじゃ無いでしょ!? このことはどうか内緒に!」

 必死に拝む友人を見て、さすがにやりすぎかなぁと思った、けれど。

「人ん家の窓割っておいてさすがに何も無かったなんて親にも言えないしなぁ」

 これ見よがしに言うものの、実際に割れた窓から夜風が入ってきて少し寒い。

「あ! 忘れてた! そうよね! じゃあちょっと待ってて」

 そう言うと、変な装飾の棒を両手で持ち、何やら呟いていると淡いエメラルドグリーンの光が棒から発光し始めた。

 驚きのまま動くのを忘れてそれをただ眺めていると、一分くらいだろうか。窓が塞がったように感じる。

「風が入ってこなくなった……?」

「はい、窓は直したからね! これで私の言うことも聞いてくれるよね!?」

 とても必死そうにそう言ってくるし、私としても半分冗談だったから二つ返事で快諾した。

「分かった分かった。っていうかすげぇなそれ。まるで魔法じゃん」

「まあ、ね。見れば分かると思うけど、この格好だし、分かるでしょ?」

 見るからに魔法少女だった翼を見て、コスプレじゃなかった。という感想を持ったのだった。

「へぇ。で、なんでこんな所に?」

 ようやく平静になって、素朴な疑問を呈す。

「そうそう! この使い魔のポチが勝手に入って部屋を漁ってたから、私じゃないよ? 依頼のあったものを探したりなんだりしてるのよ。夜中の目に付かない時にやらないと空飛んでるのも目立つからね」

 他にも言いたいことは沢山あったけれど、とりあえず

「じゃあ私も連れて行って」

 一度空を飛んでみたかった、というのは嘘では無い。絶対に出来ないと思っていたからこんなチャンスを逃すわけが無いのだ。

「えー? んー……まあ今日は別に危なくないから、口止めってことでいいわ」

 そう言うと、ホウキも何も無く、スーパーマンのように飛ぶわけでも無く、ただ浮遊しているという感じ。……最近何かでこんなのを見た気がするけれど思い出せなかった。


 そして一通り空の散歩を堪能し、翼の依頼も無事完了したので、自分の部屋に戻ってきた。

「もうすぐ明け方だ。いやー、楽しかった。めっちゃ楽しかった」


 それから翼が帰り、私も寝た。興奮して寝れないかと思っていたけれど、夜更かしが奏してあっという間に寝入ってしまったようだった。


 *  *  *


 朝起きたら、何か頭がモヤモヤした気持ちになったものの、何も思い当たらなかった。

「昨日は、ゲームして、クエストずっとやって……あ」

 スマホを見たら電源が切れていた。ゲームをしたまま寝て充電を忘れていたらしい。

「なんか、昨日やってたゲームみたいないい夢を見た気がするけどなんだったかな」

 と、スマホを充電して、電源を入れた時計をみたら9時過ぎていた……。

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真夜中のお仕事 朝凪 凜 @rin7n

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