第51話 死亡説
ルーベンスはアンゲルを伴って、王宮へとやって来た。アポイントは既に取っていたので、スムーズに謁見へと流れて行った。
「久しぶりだな。」
鷹揚に国王が上座から声を掛ける。ルーベンスとアンゲルは膝を付いて、頭を垂れていた。
「お久しぶりで御座います。閣下の葬儀の際にはお力を御貸し頂き感謝しております。」
「お前も食えない奴だからな。何があった。」
ルーベンスは壁に控えていた宰相のガストに手に入れた手紙を渡した。受け取ったガストは中を開けて、一読すると、額に手を当てて項垂れた。少ししてから、国王に渡す。国王は受け取ると、ルーベンスに視線を送った後にガストをもう一度見てから、手紙に視線を落とした。少し読み始めてから、大きな溜息を吐いた。
「ダンヒル子爵は馬鹿なのか?」
「はい。それ以外の何者でもありません。」
国王の言葉に間髪入れずにルーベンスが答えた。
「ガスト。ラビィ・ハントはどうなっている。」
「今は独房に入れております。」
「ラビィ・ハントの身の安全を考えると、一度は死んでもらった方がよさそうだな。他の暗殺ギルドに依頼等されたらたまったものではない。」
「左様でございますね。一度毒殺いたしましょうか。」
ルーベンスは床におしゃな小瓶を態とコツンと音を立てて置いた。
「それは何だ?」
「はい。私のギルドで扱っている依頼者の安全を守るために使用している仮死状態になる薬です。」
「仮死状態?」
「はい。この瓶を服用すると約12時間の間仮死状態になります。それを人に見て貰い死亡と勘違いをして貰ってから、安全な場所に棺桶にて運び出すという方法を使っております。」
「成程。それは妙案だな。ガスト上手くやれそうか?」
ガストは少し考えてから、国王に視線を移して頷いた。
「出来ますね。その為には騎士団長には話を通さねばなりません。」
「まぁそうだろうな。では、手配をしてやってくれ。裁判まではしっかりと身の安全を確保してやらねば。」
「お願い致します。」
ルーベンスは、頭を垂れたままで返答をした。
「フィンデル夫人はどうする。」
「これからモニカ・フィンデル夫人と会う手筈は出来ております。」
「どこでだ?」
「此処、王宮で御座います。」
「「は?」」
国王とガストは素っ頓狂な声を出した。
「此処?どこでだ?」
「王宮図書室で御座います。」
「「成程。」」
「王宮図書室は、声を出すこともなく静寂な場所で会話を聞かれることもなく、筆談をしていたとしても、調べ物をしている風を出せば、解り難くなっております。木を隠すには森です。」
「相分かった。ラビィ嬢は此方に任せて欲しい。必ず法廷まで連れて行く。」
「ありがとうございます。」
国王は上座の椅子から腰を上げて、一度止まった。
「時にアンゲル。」
「はい。」
「今日は、手持ちはないのか?」
「陛下。大変申し訳ありませんが、私は、今はオルゲーニ公爵家の家令では御座いません。オルゲーニ領の物を私的に使用することは出来ない身分で御座います。」
国王は、フリーズした後、見て解かる位にしょぼくれた。
「そうか。そうであったな。」
それだけ言うと足早に謁見の間を後にした。ガストは後を追って駆けて行った。
「何の話だ?」
ルーベンスは不思議に思いアンゲルに問うと
「大人の内緒話ですよ。」
と躱されてしまった。そして二人はモニカと待ち合わせをしている王宮と諸室へと向かって行った。
☆☆☆
王宮図書室は、足音とページを捲る音そしてペンを合知らせる音が響いていた。普段であれば気が付かない音が響いている位に静寂な場所だった。
指定をしたのは図書室奥の左端にある死角になっているテーブルだった。先に着いていたモニカは、読書をしているように見えた。隣に座ったルーベンスは、一枚目の紙をモニカのテーブル前に置いた。
これを読め
モニカは視線を遣ってから紙を本に挟んで出された手紙を読んだ。内容を見て震え出した。それを確認してから二枚目の紙を出した。
仮死状態になる薬を用意した。旦那と領地へ視察に行く振りをして、領地で薬を飲んで旦那に誰にも解らない場所に匿って貰え。出来れば、領主しか知らない地下室若しくは別荘などが好ましい。
モニカは、バックからペンを取り出して、貰った紙の裏に書き出した。
了解。どこに潜んだかは夫に後で聞いて欲しい。その後のやり取りは、私の葬儀などを利用して連絡を取って。
ルーベンスは首を縦に振った。それからポケットから綺麗な小瓶を取り出して、モニカの前に出した。
モニカは、一度本に隠した紙と小瓶をバックにしまって、席を立ち読んでいた本を仕舞ってそのまま図書室を後にした。
ルーベンスは図書室の法律関係の本の辺りで探しているふりをして時間差で図書室を後にした。
その翌日首都に
ラビィ・ハント嬢何者かに毒殺される。
と新聞が報じた。そしてその五日後には、
モニカ・フィンデル夫人フィンデル領地にて毒殺される。
と新聞が報じた。
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