第19話 終了のデビュタント2
あれから、早ひと月が経ち、明日はデビュタントの舞踏会の日だった。
デビュタント時期になると、トーニアとの出会いと別れを思い出して、暫くは夢に魘されている。
マナーハウスのベッドで横になっていたランドルフは、エメに揺り起こされた。
「見て。みて、ランドルフこれやっと出来上がったのよ。」
白い光沢のあるシルク生地に散りばめられたダイヤモンド。流石にランドルフも起き上がった。
「これをどこに着ていくの?」
通常なら、デビュタントで使われる意匠のドレスに驚きが隠せない。エメは読めん前にデビュタントを終えている。それなのに態々デビュタントで着るドレスを発注する意味が理解出来なかった。
「やだ、デビュタントの子達だけが白のドレスという訳ではないじゃない。」
いや、貴族間で暗黙のルールはある。しかも、貴族のマナー授業では教わるはずだ。流石のランドルフもそこは弁えていた。
「ダメだよ。エメ。それは今回じゃなくて、夜会や舞踏会で着て欲しい。」
エメは、頬を膨らませて怒った。
「このドレス、先月調整してやっと出来上がったのに。あの時好きなドレスを作りなさいって言ったじゃない!」
ランドルフは、いつもエメやラビィのおねだりにはその言葉で返していたので、言ったかどうかは解らない。
「もう友人達にも知らせたから、このドレスで明日は行くからね。ランドルフの服も出来上がって来たから一緒に行くんだからね。」
そこまで言われてしまうと、ランドルフは言い返すことが出来ずに、了承した。
翌日は、エメと揃いの服装で王宮に向かった。
王宮の入り口には、未だあどけない少女達が父親や兄等のエスコートを受けて並んで入場待ちをしていた。
「可愛いね。」
その姿を本当に微笑ましそうに眺めていた。
「浮気は駄目だからね。」
エメが頬を膨らませて、瞳に涙を溜めながらランドルフを見上げていた。
「解っているよ。僕はエメとラビィしか見てないよ。」
とピンクブロンドのハーフアップに結われた髪を撫でる。
ランドルフとエメの横を颯爽と駆け抜ける青年がいた。すらりとした瘦躯に青銀の髪を靡かせて王宮内へと入っていった。
彼の姿を見たデビュタントの少女たちは、エスコートの父親たちに誰なのか知っているかと質問をしていた。
(あの髪、見たことがあるような・・・・。)
ランドルフは記憶の箱を開けようとしたが、エメの声に中断してしまった。
「私、誰よりも素敵?」
エメの言葉に、再度エメの姿を頭の先から足の先まで見分をして、笑顔で頷く。
その対応にエメもランドルフの腕に縋り付きながら笑顔を見せた。
☆☆☆
王宮内へ駆け入ったルーベンスは、会場内でケニアの姿を探していた。時間的に押し迫っている為に既に会場入りしていると考えていた。しかし、どこを見ても伯父の姿もなく、ケニアのメイドのサリーもルーナもシンシアの姿も見つからない。
気持ちだけは焦っていた。
領地での見分の結果、税徴収を特別税徴収として一時的に値上げして通常の税とは別に徴収をされていたその指示を出していたのはランドルフだった。正確には、なにも確認しないでサインだけをしたのはランドルフで、徴収を行っていたのでは、ラビィ・ハントと、その取り巻きの男たちだった。その徴収をされた特別税は、男達によって領地から運び出されていた。そこまで調べ出すのに一か月掛かってしまった。そして、盗まれた金額を取り戻して、男達を警備兵に引き渡したのがつい先程の事だった。公爵家に行くよりも王宮が早いと踏んで此方へ来たのに、デビュタントのケニアが居ない。何度も何度も会場を回って探していると、ランドルフのエスコートで入って来たエメのドレスを見て血が頭に上るのを自覚した。
(あれは、公爵とケニアと僕で考えたドレスじゃないか!)
何も知らないのか、知っていてその対応なのか、どちらにせよ許せるものではなかった。
ランドルフとエメの傍に行こうと一歩踏み出した足はその場で止まった。ランドルフの傍に歩み寄った女性のデコルテと耳朶に輝くネックレスとイヤリングは、ルーベンスが、ケニアの為に特注したもので、領地アフィトで、二年前から採れるようになった、ケニアの名前を付けたケニアルファの石を使った宝飾品だった。
(なんでアイツが僕がケニアに送ったものを付けているんだ。)
エメとランドルフと傍には、人集りが出来て来る。
「ラビィのそのネックレスとイヤリング凄いなぁ、高かっただろう。」
「うふふ、想像にお任せするわ。」
「エメドール・・・流石にそのドレスは・・・やばくないか?」
「あら、誰が白のドレスはタントだけと決めたのよ。」
「ていうか、エメドールのデビュタントは四年前に終わったよね。」
その言葉にデビュタントでエスコートしている男性たちは、エメを見て怪訝な表情をする。
自分たちの娘のデビュタントになんてことをするんだ。と
ルーベンスが、ランドルフ達のところへ歩み寄ろうと踏み出すと、後ろから腕を掴まれた。振り返ると息を切らせたアンゲルが居た。
「アンゲルどうした?君がケニアのエスコートに来てくれたのか?」
その言葉に、アンゲルは首を横に振る。
「奥様はデビュタントには不参加です。エメ嬢にドレスを奪われて、ラビィ嬢に宝飾品を取られて、参加が出来なくなってしまいました。ルーベンス殿のお帰りをお待ちしておりましたが、従者がルーベンス殿は此方に向かわれたと聞き、追って参りました。」
「何かあったのか?」
アンゲルは俯き、一度視線をランドルフに向けるが、楽しそうに笑っている姿を見て、小さく息を吐くと、ルーベンスに耳打ちをした。
「旦那様が危篤です。愛人たちが押し寄せて来ますと、大変な事になります。奥様がお一人で対応をされていらっしゃいます。奥様の為にお公爵邸へお越し下さい。私は陛下にもお伝えしてから屋敷に戻ります。」
ルーベンスは頷くと踵を返して、会場を後にした。
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