第13話  入籍後の夜会1

結婚式が近いというのに、ランドルフはお構いなしに今まで通りに夜会に出席していた。

友人たちとシャンパングラスを傾けていると見知らぬ青年が寄って来た。


「はじめまして。僕もご一緒しても宜しいですか?こういった場が初めてで勝手が解らなくて。色々と教えて頂けますか。」


青銀の髪にワインレッドの瞳は、その場の女性たちだけではなく男性達も魅了した。


「ランドルフもかなりのイケメンだけど、君も相当モテるだろう。」


皆がホウっと溜息交じりに感嘆を漏らした。


「そんなことはありませんよ。僕は先日振られたばかりですから。」


苦笑気味に発した言葉に女性たちは食い付いた。


「私があなたの心の傷を癒してあげましょうか?」


青年の腕を掴んで凭れ掛かる。


「ご厚意には感謝しますが、僕は・・・暫くは一人で良いです。もしかしたら彼女が戻ってくるかも知れませんし。」


「あら、彼女が戻って来るまででも、癒しは必要よ。それで立ち直ったのが、彼、ランドルフよ。」


青年の腕に絡みついた女性がランドルフに向けてウィンクをすると、ランドルフは、微笑み返した。

青年の様子を観察するように見入っていたのはランドルフの幼馴染のサザンだった。

サザンは二か月前に馬車の事故で突如父母が他界をして、家督を継いでルード公爵となったばかりだった。最近では名前のサザンよりもルード卿と呼ばれることが多かった。


「君、あちらで僕と話をしないか。」


サザンは、青年の腕を掴むと奥庭へと早歩きを始めた。


「痛いので、そろそろ離して頂けませんか?ルード卿。」


「どうして君が此処にいるんだ。ルーベンス・カナガン。」


ルーベンスはわざとらしく服をパンパンと叩きながらサザンに微笑みかけた。


「数日後には結婚をする男が此処にいる方が咎められるはずなのに、僕を注意するんですか?そういう貴方は此処で何をしているんですか?」


「此処にはオルゲーニ公爵が、良い商談があるからと教えてくれて。」


「違いますよね。ランドルフ・オルゲーニの監視でしょ。何か悪さをしないようにと。その代償として良い商談を教えてあげると言われたのでしょう。逆に監視が出来ていなかったら、商談話だ。」


サザンは肩を揺らした。この青年がどこまで知っているのか。図りかねていた。


「僕達は商会の経営もしているし、ギルドの経営もしている。傭兵もいれば、暗殺者もいるし、密偵もいる。情報は君たちよりもより優れたものを持っていますよ。だからこそ、貴方のやり方の汚さには反吐が出る。」


綺麗な顔を歪めて、サザンに言い募る。


「ランドルフが振られた時に貴方が支えてあげれば良かったんだ。貴方は友人たちに馬鹿にされているランドルフを優しく助けた体を装い、自分も好きになったトーニアを独り占めしたランドルフに嫉妬をして彼を嵌めたんだ。優しい振りをして。彼を堕落に落とした。最低だよ。貴方の公爵家もトーニアに随分と貢いで大変みたいですね。僕が背中をトンと軽く押しただけで貴方の家は没落するよ。トーニアとのギャンブルデートは楽しかったでしょ。そのせいで僕の最愛の人はこれから苦境に立たされるんだ。貴方にも地獄を見て貰うよ。」


サザンは途端に顔を蒼くした。


「や、やめてくれ!親が亡くなって没落なんて。冗談でも笑えない。頼む!頼むから!」


「だったら今からでも彼を真っ当な生き方が出来るように導いてあげたらどうでしょうか?出来ないなら彼から離れた方が良いですよ。今後は僕が許しませんから。」


「や、やる!いや、で、出来なかったら離れる!もう無理かもしれない!離れる!」


ルーベンスは面白いものを見つけたように片側の口角を上げた。


「おや、もう降参ですか?では何故無理なのでしょうか?エメ嬢かな?ラビィ嬢かな?」


「モニカは離れたみたいだけど、エメとラビィは、・・・牽制しながら・・・ランドルフに着いて行くみたで・・・まだ、欲しいものが、あるって。」


ルーベンスは先程よりも顔を歪ませた。


「働かない奴がどうやって愛人を囲うんだよ!」


「し、知らない。公爵が、公爵がどうにか・・・」。


「どうにかするだろうな。可愛い息子の為に。人の娘を使ってな。」



今まで、ルーベンスを傍で見て来た人たちが此処に居たら驚くだろう。極稀に怒ることはあってもルーベンスが此処まで言葉汚く、人を詰ることは無かった。

それ程にルーベンスの怒りは大きかった。


「お前は帰れ!」


サザンは、這い上がるようにして、転がりながら夜会から去っていった。


「ジェラ、ジェロ。ランドルフの傍に行き、アイツの言動や動向を探って欲しい。」


「「仰せのままに。ルーベンス様は如何なさいますか?」」


ルーベンスは俯き下ろした両手に拳を作った。


「僕は今アイツを見たら殴ってしまうから、このまま帰る。頼んだよ。」


「「御意に。」」


そのままルーベンスは夜会を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る