狐の提案
「ほら、大丈夫だったでしょう?」
いつもより長かった動画が無事にエンディングへ入った頃、楓は隣に座る伊織に顔を向けて少し誇った様な笑みを見せた。
「ん。反応は上々」
流れ続けているコメントは伊織の予想に反して大多数が好意的な物ばかりだった。ただ、やはり批判的なコメントも見受けられたが、いつもより早く流れるコメントの波にさらわれて消えていった。
「ちょっと…その、びっくりです」
良い意味で予想を裏切られた伊織は残った語彙で感想を口にする。
「こう言ってはなんですが、この反応は正直予想以上ですね」
「ん。やったね」
:かわいい
:普通に期待
:推すわ(即答)
:男の子だったら推します!
:↑ここ大事
動画は終わったが、ほぼ変わらない速度でコメントが流れ続けている。じきに止まるであろうチャット欄だが、依然として好意的なものが多くを占めていた。
もちろんこの後に見てくれるであろう視聴者たちによって評価が覆る可能性も大いにあるが、出だしでこれほどの評価を貰っているのであれば考えにくいだろう。
「さて、次に伊織さんが出演する動画を決めましょうか!」
「ん。とりあえずデスク環境作りは確定」
「いきなりレギュラーは伊織さんの負担にもなるので、不定期に登場する準レギュラー的な立ち位置になってもらいましょうか」
動画撮影は精神的な疲れが溜まりやすい。種類によっては肉体的にもだが、動画撮影全体を通して言えることだろう。
なにせ発言や仕草、内容と言ったところまでにも気を付けなければならない。
神経質すぎると言われるかもしれないが、世界に動画を発信する上では外すことはできない。
実際、過去に意図しない発言が海外で炎上したり、動画に映った物で殺害予告を受けたケースも存在するぐらいだ。
全てに対応することは不可能だが、ある一定のラインは抑えておく必要がある。
「因みになんですけど、伊織さんは何かNGありますか?」
「う~ん、特にはないですよ?あ、でも辛い系はちょっと.....」
「ん。辛い系の企画を持ってくる人は人類じゃない。伊織、私の仲間」
「あ、ありがとうございます?」
珍しく長文で話すみのりは伊織との距離を縮める。だがそのジト目ともいえる眼差しはここにはいない別の人間に向けられたもののような気がする。
コメント欄がリアイブ仕様から通常のものに切り替わった頃だった、『カノン』で使用している仕事用のスマホから通知が鳴った。
それに気がついた楓さんがメールを確認し始める。そう思ったら徐に自身のスマホを取り出し電話を掛ける。
「もしもし【カノン】リーダーのサクラと申します」
『おお、レスポンスめちゃ早いなぁ』
スマホから漏れて聞こえてくる声に伊織は耳馴染みなものを感じた。
『連絡が来たってことは、メールの中身があってたってことでええんやな?』
「........」
『沈黙は肯定と受け取るで?そや、話の前にちょっとええか?』
「なんです?」
『伊織くんに代わってもらってええ?もしあれやったら、スピーカーにして貰ってもかまへんから』
楓は少し考えた後にスピーカーボタンをタップして机に置いた。
『伊織くん聞こえとるか?』
「は、はい!聞こえてます!」
『よしよし、動画見て元気なのは知っとったけど、やっぱ声聞くのが一番や』
伊織は何かを思い出したようで、ハッとした表情で電話越しにもかかわらず頭を下げた。
「そう言えば前回の打ち合わせ、連絡なしにすっぽかしちゃいましたよね!ごめんなさい!」
角田にはその様子がお見通しだったようで、電話先で小さな笑い声が聞こえた。
『いやすまんね、その件は別に気にせんでええよ?ヨルのバカ坊主から連絡あったし、もし気にするんやったら....そうさな、半年ぐらい前にあたしが寝落ちした分と相殺っちゅうことにしよか』
明るく優しい声音で話す角田に伊織は緊張で上がっていた肩を下ろした。
『ああそうそう、本題になるんやけどな?回りくどいの嫌いやから、平たく言うで』
いつもと変わらぬ口調でそう告げた角田は一拍置いてからこう告げた。
『【
ーーーーー
はい、また前回から一か月ほど経ってしまいました。申し訳ございません。
頑張ってペースを安定させていきたいと思いますのでこれからもよろしくお願いします。(毎回言ってる気がする)
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