タッグイベント—―③

 試合開始からともうすぐ5分が経とうとしているが、戦況は硬直状態。陽動や威嚇の為に双方共に引き金を引くが効果はなし。


どうにかしてこの状況を打破しない事には勝利はない。


「おい、いつも通りで行くぞ」


 ヨルが作戦を提案すると、【祝い酒】のメンバー瞬時に察して頷くが、【カロン】メンバーは疑問符を浮かべる。いくら多くコラボしていると言ってもこんな曖昧な作戦指示で通じるはずがなかった。


ワンテンポ遅れてそのことに気が付いたヨルが内容を砕いて説明する。


「【カロン】の三人に同時に別々の場所にグレネードを投げてもらって、それを合図に俺たちが突入します。ある程度撃ち合いが始まると思うので、投げたらすぐに援護に来てください」


 言い切った後に小さくため息のようなものが聞こえたのは、説明の時に使わなかった酸素を一気に吐いたからだと思う。


「わ、わかりました!」


その勢いに少し押されながらも【カロン】は返事を返す


 作戦通りの配置に着いたことを確認した後、作戦開始のカウントダウンを始めた。


「3...2...1...GO!」


合図に合わせて【カロン】のメンバーは一斉にグレネードを投擲する。


 後は爆発と同時に突入するだけなのだが...ここで問題が発生する。

敵本陣に対して一つのグレネードが少し味方側にそれてしまったようだ。


「おい!スナイパーならしっかり距離計算ぐらいしろ!」


投擲を少しミスをしてしまったのは【カロン】屈指のスナイパー、『みのり』

だ。


「ごめん、少しそれた」


「すこしぃ?もう少し角度が違ったら俺も喰らってたんだぞ!」


「だから、ごめん」


 普段から荒っぽい性格なをれっとが大会中にも関わらず大きな声で怒りを露わにした。幸いなことに観客たちには聞こえていないようだが...


「おいをれっと、いい加減にしろ!」


さすがに見ていられなくなったのかヨルがその言い争いに割って入る。


「うるせぇ!」


 しかしそれは燃え盛る炎に油を注ぐようなことで、をれっとの怒りは理不尽なまでに飛び火していった。


もちろんそんなことをしていたら指揮は乱れ、攻撃に綻びが生じるのは必然だ。


「ひでぶ!」


「ace!なによそ見してるんだ!」


 言い争いの様子を少し離れたところで傍観していたaceとカロンの一人が見事に頭を撃ち抜かれて戦闘不能となった。


「す、スイヤセン」


「謝るんぐらいだったらしっかり警戒しておけ!って、うおぁ!」


 敵チームによって中断された罵倒をここぞとばかりに再開して、aceの脇腹を刺す。

もちろん、そんなことをやっているから奇襲に対応できずにアッサリと撃破された。


『なんとこの短い間でレッドサイドが3人続けて脱落!対するブルーサイドはまだ一人も失っていません!どうなっているんだ!?』


 圧倒的なまでの人数不利。よくネットで出回っているクリップ(場面集)では人数不利を顧みず戦って勝利するようなものがあるが、現実はそんなにうまくいかない。


6対3までなるとなおさら逆転することは難しい。


「大丈夫....いける。俺ならいける。いけるぞぉ!」


 数少ない生き残りであるサクラとみのりに相談なしにヨルは無謀にも敵陣めがけて突貫を仕掛けた。


「うおぉおおお!」


 勇ましい雄たけびを上げながら銃を乱射する。アジアトップのチームのリーダーの実力は確かにあるようで、この乱射で見事敵2人を撃破する。


キルログを確認するや否や、ヨルは不敵な笑みを浮かべて声を上げた。


「まだまだいけるぞぉおお!」


しかし、結局は包囲されて簡単に戦闘不能になってしまった。


その後、【カロン】の二人の活躍で何とか残り一人まで追い詰めることができたが...



『最後は綺麗に二枚抜き!よってこの試合!ブルーサイド、【ラド】【ガルドル】のタッグチームの勝利です!!』


 勝者の発表で沸く会場の様子を【祝い酒】の面々は眉を寄せてぶっきらぼうに勝者インタビューを聞いている。



そうこうしているうちに【祝い酒】と【カロン】のタッグチームにインタビューが回ってきた。


ここぞとばかりに【祝い酒】リーダーのヨルがすべての質問に対して答える。


「今回の敗因はいくつかあるのですが、まずは指揮の混乱。一人が焦りを見せると選手全員に伝播してしまいます。おかげで見事に隙をつかれてしまいました」


顔は笑っているが手元には悔しさと憤りが見え隠れする。


 確かに色々が重なっての敗北だったが、インタビュー対する返答はそのことばかり、これは暗にしっかり統率で規定なかったのは他の人、【カロン】の所為だと言われているような気もする。


 ややあって、勝者と比べたら圧倒的に答えるインタビューが少なかった彼らは一度控え室に戻ることにするのだった。

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