てるてる坊主の次の日は。

第56話 穏やか

朝食の時間。

今日は店は休みということでほぼ貸し切り状態の上にカフェの朝御飯を無料で食べられると言う贅沢を楽しみにしていたのだが…

「む…」

「ん…」

僕のそのささやかな贅沢を実に心休まらない状況にしている、今もなお僕の両サイドでバチバチと火花を散らす二人。

…マジでもうそろそろいい加減にしてくれないか…？

「あ、おはよ…う…蓮くん。…あと…天木さんと白坂さん…」

階段から降りてきた拓磨さんに、少なからず救いの糸を見出だした。

「…できれば助けて貰えるとありがたいです」

そう僕が懇願する

「あはは…ごめん…」

「そんなマジで心の底から無理だって悟ったような声で断らないで下さい…」

まあ…そんなことだろうとは思っていた…

普段からあの『拓磨さんすきすき～♥️』なみおさんになかなかに振り回されている拓磨さんだ、そもそも助けを求めること自体意味がない…

「なんか…めちゃくちゃ失礼なこと考えてないかな、蓮くん…」

とりあえず二人とも離れて欲しい…やっぱり女性と肌が触れあうと相変わらず緊張してしょうがないのだ…

「とりあえず…二人とも離れません…？ほら、朝食時ですし…朝食でも作らないとですし…」

「ん、私も手伝う」

「私は…私は…っ！！」

「良いですよ、奈那さん…適材適所ですから…」

そう言って、僕らは厨房へと歩く

最近判明したことだが…奈那さんは料理があまり得意じゃない。

…この前奈那さんの家に行った時なんて、とりあえず卵焼きと味噌汁、そしてウインナーを出したが…

正直それ以外に食べられる物も無かったので…きっとまあ…そういう食生活をしているのだろうと思った。

奈那さんでも、めちゃくちゃ苦手という訳でもない。

僕が来る前までは多少拓磨さんの料理の手伝いをしていたらしいが…その当時の拓磨さん曰く

『レシピ通りに作って３割くらいの確率で失敗する』

というなんともゲーム染みた失敗をするらしい。

…ちょっと興味が湧くのはなぜだろうか

「…ん、蓮。塩が足りない、取って？」

「あ、はい…確かここに…」

「…む…」

ちょっと気を取られている間に、琴音ちゃんは料理を始めていたらしい。

どうやらスープを作っているらしく、たまたま冷蔵庫にあった、ざく切りの白菜と玉ねぎが中を泳いでいた

たぶんコンソメスープ…かな。

…よし

「琴音ちゃん、朝ご飯はパン派？」

「ん…！」

「良かった、確かその棚に食パンがあるから取って貰ってもいいかな？」

「ん、たのしみ。」

珍しく目をキラキラさせて…すごく楽しそうだ。

「琴音ちゃんって…料理を作るの、好きなの？」

トースターを取り出して、バターを塗って…

その間に、ふと思っていたことを質問してみる

「ん、好き…食べるのも…作るのも…」

「へ～…」

「惚れた？」

「…」

「…私のこと、好きになった？」

「そのくだり、まだやります…？」

どうも朝からその話題しか聞かない…

そろそろ止めて欲しいものだ…

とりあえず、トーストが焼けるまでに少し食材の確保でもしておこう

「…蓮…本当に…天木さんと付き合うの？」

「…そのつもり…ですよ。」

「…ん…。」

先ほどまでとはトーンの違う声に、少しだけ対応が変えられた。

バタン、と冷蔵庫の扉を閉じ、必要な食材を切る作業に入る。

「…どうして…？」

「どうして…って…」

「見てて、分かる…蓮は、女性と触れ合うのが苦手…違う？」

ジュワァ、と卵がフライパンに落とされ、焼かれる音が、代わりに響いた。

「…なんで…分かったんですか？」

「…蓮、やたら『離れて』とか『○○したから△△してね』とか…私と天木さんを遠ざけるようなことしか言ってなかった。」

「…ははは…本当に…よく見てますね…」

今は、その表情の変わらない琴音さんの顔を見るだけでも、きっと…

「蓮が無理するのも…私はやだ…だから…」

「僕と付き合って…『お互いに楽な生活』をしたかった…ってこと…ですか？」

「…ん、それもある。」

「…あとは…なんなんです？」

ふと、背中越しに琴音ちゃんの視線を感じた。

棚と棚、そして調理器具に囲まれた数メートル未満の距離…たった５、６歩で埋まる、その場で彼女は…

「私は…純粋に…蓮のことが好きだよ。」

きっと、顔は満面の笑みでいっぱいの表情で

彼女は、僕に告白をした。