第3話 知り得たその先に〜

『夢ではなかった』という事実が彼の話を聞いて頭に染み渡る。


彼は女装趣味を持っていた。

日頃は男子生徒として、部活のテニスにも精を出し男友達やクラスの女子たちとも普通に談笑する。

何一つ、変わらない生徒なのだがまさに『事実は小説よりも奇なり』だろう、私は理解をするために彼の言葉に耳を傾けていった。


「何から話そうか…俺の家族ってさ俺含めて3人の子供がいるわけよ、残りの2人は俺より上のお姉ちゃん」


「昔から事あるごとに女装させられてさ。嫌がっていたのに2人に遊ばれるかのようにさせられてた。だから当時は嫌で嫌でしょうがなかったんだ」


時折ジュースを口に含んで会話を続けていく、私は頼んだシェイクすら飲まずに彼の言葉を聞き続けた


「けれどある時かな、中学生の時。俺、すんごいメンタルが落ち込んじゃって。部活とかでも全く勝てないし勉強とかも上手くいかない。皆んなは背が伸びる一方で俺はチビのまま…めちゃくちゃ辛かった」


「そんな時、何を血迷ったのか。お姉ちゃんのセーラー服を着てみたくなったんだ。男である自分を忘れたくて…男だから競争させられるのかな、小さいことも男だから嫌なのかなって。」


「姉ちゃんに事情話したらすぐに受け止めてくれた。多分そこからなんだと思う、俺が始めたきっかけっていうのは」


「それからメイクとかも覚えていった、楽しくてついね」


「学年が上がるにつれて今まで出来ていなかった事が出来るようにはなってきてあの時抱いていた劣等感は薄れていったけど、それでも女装は辞められなかった、今も辛い時とか変わりたい時はそれに縋っている」


「こんな感じでさ、今も女装しているってわけ。で、たまたま昨日会ったのが斎藤さんってわけよ!アレはマジでビビったわ」


ハハッと一言笑い、買ってきた飲み物を飲みやポテトを初めて口につける。一気に話しすぎたようで一口で10本は口に入れただろう。

私も少し溶けてきたシェイクにこの日、初めて口をつけて飲んでいった。


「…とりあえず、話してくれてありがとう。上手く理解できるか分からないけど何となくの経緯はわかったよ」


「それで、私に話してどうすればいいの…?なんか、こうゆうのって脅すっていうのかな、なんかあるんじゃないかなぁ、、、って正直怖い」


素直な感想だ、急に隠していた秘密に気づかれて翌日に個人のメッセージに連絡がきたのだ。そして当日になれば当人だけじゃなくて、ガタイのいい友人もいるとなればその先の展開が怖くてしょうがない。

しかし、私の考えていたことは先程まで隣で聞いていた友人によって崩れていった。


「……ふ、ハハハ!おい、かご!斎藤さんめちゃくちゃ怖がってんじゃねーかよ!」


「大丈夫だよ斎藤さん。何もしないって。ただ、約束して欲しいんだ、このことを周りに言いふらしたりしないでほしい」


「俺自身がそのうち解決する、させるべき悩みだからさ。茶化されたくないんだよね。どう?約束できそう?」


「う、うん!絶対、守るから!安心して!」


予想と違った対応の仕方で声が裏返ってしまったせいか2人はケラケラと笑っていた。


(自然と犬山くんに話す事ができたのって初めてかもしれない…)


今までは雲の上のような存在で近づくことすら出来なかった。けれど、今ではそれは嘘かのようにハンバーガーとシェイクを片手に話している。


「それじゃあまぁ、よろしく!斎藤さん」


私が知る事になった秘密、それは彼との縁を近づける事になっていく。



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