暁のモレンド

シロ

第0話 暁のモレンド

「僕は君に出会って、ある一つの感情を思い出したんだ」

「…………」

「覚えているかい?僕と君が初めて出会ったときのこと」

「……〈覚醒者リズベリオ〉検定所のことか?」

僕は曖昧に微笑む。ぽかんとしながら僕を見上げていた君の顔を、今でもはっきり思い出せる。

あのときはこんなことになるなんて夢にも思っていなかったけれど。

それでもこうして、出会ってしまったから。

「……検定所で君に声をかけたのは、ただの興味だった。僕と同じ日本からの転生者は一体どんな人なんだろう、って」

「え、……あれ?あんた記憶が……」

「……黙っていてごめん。本当はとっくに思い出していたんだ。それでも僕は『勇士ハルト』だったから。なかなか言い出せなくて」

「…………」

紫の瞳に、微かに不信感が揺れる。それが少しだけ辛いと思った。

だけど、言わないと。君に何も告げずに去ることだけは、きっと許されない。勇士としても。1人の人間としても。

「……ずっと、言わないといけないと思っていた。今日まで言えずにいたのは、僕の弱さだ。君の優しさを、友としての君を、失うのが……怖かったから」

「……、……いいよ、言えよ。……だ、だいたい何が言いたいかは想像がついてるから」

「ああ、……君も、気づいていたんだね……」


アキラ。暁と書いてアキラ。きれいな名前だと思う。

そのきれいな名前の由来である夜明けの空の光が、僕らを照らし始める。

アキラの頬が赤く染まって見えた。

少し泣きそうな顔に見えるのは、僕の気のせいだろうか?

可愛らしい、年下の青年。ほんの僅かに、胸が痛んだ。

でも、――でも、今日こそ伝えると決めたから。

僕は、僕の中の全ての勇気を振り絞って、口を開いた。


「僕はずっと、君に――……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る