52.データを信じてカーブを放った

 君は捕手のサインに首を振り、カーブを放つ。

 だが、君の放った変化球は敵打者の強力なスイングによって、観客席に叩き込まれた。

 変化球に弱い――それはかつての真実だったのだろう。

 だが、人間はいつまでも弱くはいられない――どれほどの努力を積んで、相手の一番打者はそれを克服したのだろう。

 捕手がマウンドに上がり、意気消沈する君に語りかける。


「試合は始まったばかりだぜ」

「でも、俺……」

「確かに一点は敵にくれてやった、でもこの一発でお前が俺を……そしてお前自身を信じてくれるなら、それでいいじゃないか」

「俺……自身を」

「お前のストレートはお前が信じている以上にすごいんだよ」

 そう言って、捕手がマスク越しに笑う。

 そしてキャッチャーミットで君の胸を叩いた。


「まだ、試合は始まったばかりだ……行くぜ」

「はい!!」


 一点は奪われたが、それから君は先発投手としての仕事を無事にこなした。

 それから君は甲子園を勝ち上がったのか、あるいはこの試合で敗退したのか、どちらでもいいことだ。

 信頼という何よりも大きい財産を得たのだから。


「「「「「行くぞォーッ!!!!」」」」」


 夏の熱を掛け声が切り裂く。

 甲子園球児の夏は始まったばかりだ。


【俺たちの夏はこれからだ END】

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