第4話 その4

 マクシミリアン・ロベスピエール、それが王妃さまの復讐する相手だと分かる。ルイ16世をギロチン台に送った男だ。ただ史実ではワーテルローの20年も前にロベスピエールはギロチン送りになっているから、この作品では前後関係がかなり変わっています。


 そして余談ですが、ギロチンが発明された当初、それを見たルイ16世は「平な刃を斜めにすればもっと良く切れるのではないか」と発言したようです。ギロチンは首切り役人の負担を減らして、更に失敗も無いから人道的だと、当時の人々からは思われたらしい。


 マクシミリアン・ロベスピエールの恐怖政治では、僅か47日間で、パリの断頭台は1376名の血を吸い込んだ。フランス全体では約2万人が処刑されたという。処刑方法はギロチンがよく知られている。

 そのロベスピエールは議会演説で「徳なき恐怖は忌まわしく、恐怖なき徳は無力である」と主張した。


「私の復讐の為だけではありません。フランス人民の為にもあの男の暴走を止めなくてはならないんです」


 王妃さまは固い決意をあらわにしたのだった。



 ロベスピエールは人民の蜂起を求める演説を巧みにおこない、穏健な思想を持つジロンド派を追い落とす。人民軍の指揮は仲間のアンリオがとることになった。アンリオはまず、美貌に加えて並外れた知性と教養を持っていたジロンド派の中心的な人物、ロラン子爵夫人を逮捕する。

 翌日は武装した群衆を率いて国民公会を包囲、逃亡しようとする議員29名と大臣2名を拘束する。

 のちに数人は処刑され、2人は自殺した。こうしてロベスピエールが率いるジャコバン派の独裁が開始される事となる。暴徒を利用しただけで、正当性などどこにも無い。力による恐怖こそ正義だ。


 史実ではこの後王妃マリーアントワネットが処刑されます。両手を後ろ手に縛られた彼女は、群衆の見守る中を刑場に送られた。


 その後、王妃の処刑に反対していたジロンド派の粛清が行なわれ、21人のジロンド派全員が死刑判決を受けた。皆ギロチンで処刑されたが、要した時間はわずか38分であったという。1人の首を平均2分で切り落としていったのだ。


 さらにパリ市長も処刑された。国王ルイ15世の愛妾であったデュ・バリー夫人は金持ちというだけで処刑された。また有名な科学者は共和国は学者を必要としないという理由で処刑された。ルイ16世の死刑に賛成票を投じた王族のオルレアン公も処刑された。これを暴走と言わず何と言うのか。もうめちゃくちゃだ。


 反革命容疑で逮捕拘束された者は全国で約50万人、死刑の宣告を受けて処刑されたものは約1万6千人、それに内戦地域で裁判なしで殺された者の数を含めれば約4万人にのぼるとみられる。


 誰も彼もが処刑されるのは既に恐怖政治の末期症状だ。スターリンも最後は処刑を遂行する部隊の者まで殺したと言われている。





 オーストリアがプロイセンと軍事同盟締結して、フランス包囲網を形成すると、フランス立法議会はオーストリアに対して再び宣戦布告を決定した。

 しかしこれまで何度も戦争を指揮してきた6千人もの貴族将校は恐怖政治を逃れて既に亡命しており、作戦指導をできる優秀な将官はいない状態となっていた。ために戦線は大混乱を来した。

 戦地ではよく訓練された職業軍人で構成されるオーストリア=プロイセン同盟軍が進撃を始めると、未訓練の義勇兵を中心としたフランス軍は、統制を欠いて戦える状態ではなかった。各地で敗北、敗走を重ねていった。



 一方フランス国内では、ロベスピエールは党派の求心力を強める為、急進派を味方にして革命の主導権をさらに掌握しようとする。


 反革命派がクラブや議会にスパイを潜り込ませて、国家の転覆を図っているのだと繰り返し訴えた。

 このタイミングで公安委員会メンバーの秘書がイギリスのスパイであることが発覚。

 これをチャンスに変えるべきと考えたのか、危機を克服すると称して恐怖政治を加速する。軍の強化を進め、国民の結束と国内の統一を図ろうとした。


 だがロベスピエールの思惑とは裏腹に、国民はもう恐怖政治に嫌気が差すようになっていた。ジャコバン派の一部は中間派と密に協力してロベスピエールを打倒しようと密かに画策し始める。

 また、恐怖政治の先鋒としてパリ以上に行き過ぎた弾圧を行っていた地方派遣議員らは、ロベスピエールの追及を恐れて先制攻撃を画策していた。

 そして混乱収拾により再び勢力を拡大しそうな穏健派と、恐怖政治のさらなる強化を主張する強硬派は対立。いつまでも収まらない闘争に嫌気が差したのか、ロベスピエールは公の席にほとんど姿を見せなくなっていた。その間にも反対派の陰謀は進行していたのだった。

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