やり直しの新しい人生で、なぜか初恋の人がメイドとして家に住み着いてしまった……。

桜祭

1、労災タイムスリップ

「おはようございます、太陽様。本日より、わたくし星野メグがあなた様のメイドになりました」

「え、え?え?」


どうしてこうなった?

は、初恋だった星野さんがなんで俺のメイドになったんだ?


わからない。

わからない。


俺の前回の人生とは何もかもがおかしい……。

思えば、労災が原因でタイムスリップしたあの時からおかしなことばかりだった……。








─────






ジリジリと肌を焼く太陽。

何もしないのに、汗が止まらない。

そんな炎天下の中、俺は親友の墓地と向き合っていた。



「なぁ、光秀よぉ。……お前が死んで17年経って、俺34歳になっちまったよ……。いつの間にかお前の倍生きちまったよ」


高校2年の夏休み直前に交通事故で亡くなった親友の命日。

毎年この日に、俺は線香をあげに足を運ぶ。

まだ、こいつが死んじまったことに俺は納得出来ていないのだ。


「マジでお前が死んでからさ、つまんねぇ人生でよぉ……。まだ独身だし、ウチの会社はブラック企業で給料激安だし、物価も消費税も上がるし本当に嫌になってくるぜ……」


俺は結構、引きずるタイプらしい。

親友のこと、初恋のこと……。

全部、時間が忘れるなんて出来ないんだ。


「今日、有給出したのによ用事終わったら出勤しろとか言い出す頭おかしい会社でさぁ……。本当になんでこうなったんだろうなぁ……」


墓石に缶コーラをぶちまけながら親友に愚痴るように語りかける。

その愚痴が返ってきたことなどないのだが……。


「お前はまだ未成年だからコーラだ!…………はぁ。俺があの世行ったら酒でも飲み交わそうな」


そう言って別れを告げて、お参りも済ませ、俺は切り替えながらバイクを走らせる。

余韻に浸る間もなく、バイクで風を突っ切る。

そのまま、会社へ向かうと上司にグチグチと文句を言われながら仕事を振られる。





「とりあえずさぁ、この倉庫の荷物をこの棚に積み上げといて。半日休んだんだから半日多く仕事してもらうから」


タイムカードを切らない出勤にうんざりしながら、誰もやりたがらない雑用じゃねぇかと心で舌打ちする。


「ち、ちょっと待ってください!?この荷物をここ積んだら崩れるっすよ!?」

「崩れないように荷物を積むのが君の仕事だと言ったよ。労災になったら君の責任になるんだからよろしくな」


テキトーな仕事を振った上司は倉庫から出ていく。

次は違う人にパワハラしに行くんだなと軽蔑しながら、既に数多の段ボールが原因で歪んでいる棚を見上げながら山ほどある段ボールをどうやって積んでいこうか頭を捻らせる。


「耐久値そんなないだろ、この棚……」


段ボールを端に寄せて隙間を無くしたり、しながら上司に指示された乱雑の段ボールを無理矢理入れまくっていく。


「しかも、重すぎんだろ!なんかの機械でも入ってんのかよ!」


1個1個が10キロ近くありそうな箱を上の方へ3つほど詰め込んだ時だった。

棚の板がミシミシと鳴り出した。

「うわっ、やべぇ」と言いながら、さっき詰め込んだ段ボールを取り除こうとした時だった。


棚とその段ボールが俺目掛けて倒れかかる。


「ちょっ!?だ、だから言ったんだっての!」


棚を抑えようと手を出すも重すぎて手の施しようがねぇ!

手を離した瞬間だった。

床に倒れた俺に、容赦なく荷物の雨が降り注ぐ。






「いや……、これ労災……」


血が目に入ったのか、視界が赤い。

これは俺、死んだでしょ……。

そんな時に走馬灯が流れる。








あぁ……。

あん時に、一目惚れしたあの子に声かけときゃ良かった……。






忘れられない初恋に後悔しながら、俺──月原太陽つきはらたいようは労災により死んでいったのであった……。

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