第69話 模倣犯

 車が発進すると警部は流暢に事件の詳細を説明していく。


「犯人の名前は田村和樹、四二歳。お恥ずかしながら元道警の警官です」


「いまは違うのか」


「ええ、三年前までは交通課の速度取締官だったのですが、突如辞職しまして、いまはウェブデザイナーで生計を立てています。警察官になる前は北海道高専に通っていたようで、その技術を生かして自由業に転身したとか……独身で実家暮らし、父は既に他界していて、母と二人暮らしだそうです」


「政治的志向はあったのか」


「学生時代はボランティア活動に率先して参加していて、ジェンダーを支援する活動もやっていたそうですよ」


「なるほど、リベラルの毛はあったようだな」


 沢渡は警部と会話しながらも資料を読み込んでいった。


「この猟銃というのは一般的なものなのか」


「ええ、そうですね。国家が定めた規定に則ったものです。銃の細工は特にありませんでした。この不自然な消滅現象の正体は弾丸にあるかもしれません。でもその弾丸も見あらなくて……」


「つまりヒューノイドの機体と弾丸は干渉するとパッと消え去ったということだな」


「まさしく、そうとしか考えられません……」


「弾丸の流通元の特定は出来ているのか」


「それが容疑者宅を調べ上げてもそのような痕跡は一切残っておらず。取り調べをしても黙秘を続けるばかりです」


「生嶋事件のアリバイはあるのか」


「当時、容疑者は北海道にいた証拠がいくつも残っているので、同一犯ではないかと……」


「その人、三日前に東京のサーバーにアクセスしているみたいだよ」


 先ほどからなにやらパソコンをいじっていた朱雀が呟いた。


「三日前か、その足取りは掴めているのか」


 沢渡が質問する。


「普通に考えれば、三日前に東京に来て、インターネットを使用したということになるけど、どうもこの線は考えにくいんだよね」


「ええ、三日前は実家で仕事をしていたと証言があります。それに札幌の市街カメラにも映っているので……」


「なら外部ブラウザから東京のサーバーにダイブしたのかもね」


「外部ブラウザ?」


「海外や海賊ブラウザなんかから入ると、位置情報がそのサーバーのある場所に表示されるんだ。つまり犯人は東京にあるなんからの非公式ブラウザにアクセスしたことになる。データを見ると、その非公式ブラウザにこの人、過去に何回もアクセスしているよ」


「そのサーバーの名前は分かるのか」


「いまそれを誰が管理しているのかはわからい。でも基盤はファインドソフトが開発したブラウザだよ。取り敢えず、容疑者が過去閲覧していた画面を表示するね」


 朱雀がそう言うと、車のモニターに掲示板サイトのようなものが表示された。そこにはアルファオメガのアドレスと渾沌の文字が書かれていたのだ。


「アルファオメガ……」


 警部は眉間にしわ寄せながら呟いた。


「不明瞭な点は多いが、弾丸の流通元が割れたな」


 沢渡はそう言って、口元を隠すように手で覆った。

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