冒険録76 魔王様はとても頼りになるぞ!

「「『それだっ!!!』」」


 ゆづへの対策に頭をなやませていた俺達三人は、「づーままにもからだあげるのー」という突拍子とっぴょうしもないルナの発言から、思いもよらない打開策に気付くのだった。


「ふわわぁびっくりっ、みんなどーしたのー?」

「ありがとね、ルナちゃん。おかげでママ達、いいアイディア思いついちゃったわ」

「そーなのー? るなすごいー?」

「うんうん、とっても凄いわよ!」

『固定観念にとらわれない幼子の些細ささいな一言、これまさに天啓てんけいごとし。ルナじょうに先をされてしまい、アドバイザーとして少々くやしくもあるくらいだね』

「むふぅ~」


 理由は良く解らないものの、とにかくベタめされたということで、ルナはオーロラ色の羽をうれしそうに羽ばたかせて飛び回っている。


「……それで、実際いけそうか?」

『ふーむ…………………………』


 カレンは俺を一瞥いちべつし、目をつむってこめかみに人差し指を当てると、羽耳をパタパタさせながら考え込む。

 ややあって安心と信頼のナコナコカリキュレーションタイムが終わると、カレンは目を再び開いてこう告げた。


『見えた! 困難ではあるが不可能ではない! キミ達の努力次第だね!』

「よぉっし! 夕とゆづのためだ、どれだけ困難だろうが全力をくすぜ!」

「るなもおてつだいするのー!」

「パパぁ、ルナちゃん……ありがと」


 夕は俺の手をぎゅっとにぎり、次いでルナの頭を指先ででる。


「……んで具体的には、魔法で夕の分身を作る、でいいのか?」


 確か十年後では、再生医療いりょう技術の発達により人体の複製がほぼ可能となっており、そこへ夕のたまちゃんを引っしする手があると以前に夕は話していた。その高度な医療技術による複製を、魔法で代用すれば良いと思ったのだ。


『残念だが、それは難しい。まず第一に、人体丸ごとを無から創造するだけでも、途轍とてつも無い量のリア充力を要する』

「……ああそっか、わずかな水を生み出すだけで三十分も消費したもんなぁ。現状の七時間かそこらじゃ、指一本作れるかあやしいレベルかぁ」


 リア充魔法は非常に自由度が高くほぼ万能と言えるが、ただ一点、リア充力費用と効果の等価とうか交換こうかんの法則にはしばられるのだ。リア充魔法で全部簡単解決……なんて甘い考えは通用しない。


『それと、自分の身体をコピーして新たに生み出す魔法、ゆーちゃんはイメージできるかい?』

「絶対無理です。そもそもあたし、物を動かす程度の魔法すら使えませんし……ごめんなさい……」

「――夕、そんなしょんぼりすんな? 自分の幻影げんえいを投射するとかならまだ分かるが、現物として肉体をコピーするなんて俺も到底とうていできる気がしないっての」

「う、うん」


 夕はすぐに自分を責めてしまう悪いくせがあるので、すかさずフォローすることが大切だ。これほどにハイスペックなのに、随分ずいぶんと世話の焼ける子である。


「カレンさんには、他に良い案があるんです?」

『うむ。自力でフルメイクが無理ならば、まずは素体ベース別途べっと用意してはどうだい?』

「えと……例えばマネキンみたいな等身大人形ですか?」

『半分正解。人間に限りなく近い人形が望ましいので、ここは……ホムンクルスが最適かな』


 ホムンクルス……ファンタジー漫画などで聞いた覚えはあるな。


「たしか、錬金術れんきんじゅつで錬成する小さな人造人間……でしたっけ?」

『その通り。この世界では、人体組成と同じ素材を集めて錬金術――魔法で人型に組み上げ、人間を作り出そうと研究している者が少なからず居る。もちろん完成に至った者はいないがね? 何故なら――」

たまちゃんが無いから。……ですよね?」

『くくっ、流石は専門家だね!』


 スクリーンの向こうから、カレンがパチパチと拍手はくしゅを送る。


「なるほどなぁ。どこかの錬金術師に、人間サイズのたまちゃん無しホムンクルスを作ってもらえば、夕のたまちゃんを移して――っ待てよ、移せるのか?」

『くくっ、リア充魔法ならば可能では? 何故ならばゆーちゃんは、すでにたまちゃんの移動を体験しているのだからね!」

「「おおー、たしかに!」」


 夕は十年後から現代へタイムトラベルする際に、ゆづという異なる身体へとたまちゃんを移動させて、こうして現に生活しているのだ。夕以上にたまちゃんの移動をイメージできる者は他に居まい。


「じゃぁゆづがこの身体に残り、夕が移動だな」

「うん。返してあげなきゃだもんね」


 元々がゆづの身体なのだ、そもそもそれが筋というものか。


「――あっ! 同じ身体じゃないとたまちゃんは移せないんですけど、あたしと同じDNAと脳を持ったホムンクルスなんて作れるんです?」

『わたしは錬金術に詳しくはないが……おそらく困難かと思う。だがそれも、リア充魔法で調整してはどうだい?』

「そうか、夕が汎用ホムンクルスを自分の身体に作り変えたらいいんだな。一からの創造じゃなく、ほぼ完成しているものの調整だから、リア充力の消費も少ないし? ――あっ、それで素体ベースと言ったのか」


 カレンが鷹揚おうよううなずく。……いやしかし、このカレンの発想力と課題解決力よな。話がトントン拍子びょうしに進んでいくぞ。こうして魔王様講師から夜間補講を受けられて、本当に良かったというものだ。


「むむむぅ……コピーほど難しくないとしても、たまちゃんの移動や調整をするとなると、やっぱりあたしの魔法の上達は必要不可欠なんですね……」

『そうだねえ、ゆーちゃん以外にはできない作業なのだからけては通れまい。期待しているよ?』

「は、はい。頑張って練習します!」


 努力家で多才な夕のことだ、根気良く練習を続けて、必ずや上達すると信じている。


『そうだ。まずは、で練習してはどうだい? 丁度良かろう?』

「えっ……もしかして、もういけるんです?」

『短時間ならば』

「やったぁ! これは楽しみだわぁ、にしし」

是非ぜひとも感想を聞かせてくれたまえよ? ククク』


 夕とカレンが、いたずらっ子のように笑い合っているが、俺には何のことやらさっぱり分からない。


「……何の話?」

「『ひ~み~つ♪』」

「ひひひーぱぱにはひみつなのー!」

「「『ね~♪』」」

「えええ……」


 また恒例こうれいの乙女の秘密というヤツか……まあ、夕が楽しそうだから別にいいけどさ? タネ明かしされた時は、せいぜいビックリしてあげるとしよう。




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