第3話 深刻な『フロムET』ワクチン被害

『外の世界は、今まで知っていた世界とどんどん変わってしまい、心も身体も病んでいく人達で溢れ返っているけど……喘息持ちという事が、今回は、幸いにも君を救ってくれていたの』


 喘息持ちだという事で、僕は救われた……?

 厄介でしかなかった、この病気に……?


 自分は、今まで何度、このヤワな身体に嫌気がさした事だろう!


 僕にこんな持病が無かったら、あいつらなんかに馬鹿にされる事も無くて……

 運動だって得意になっていて、和木やわらぎさんにも振り向いてもらえていたかも知れなかったのに……


『ううん、それが有ったから、こんな渦中にいても、君だけは、変わらないままの君のままでいられたの! それは、とても尊い事なのよ! でも、君自身は、それがどれほど尊い事なのか、本当の意味で、まだ気付いていないかも知れない……』


 哀し気な声が、僕の頭の中で響いていた。


 そう、僕もまた、その声と同じような気持ちだった……


 哀しかったんだ……

 そして、情けなくも有った……

 何ひとつ出来ない自分の無力さが!!


 二重マスク生活を強いられていた事により、人々は徐々に健康を奪われていったけど、それだけでは済まされなかった。


 健康体の場合、そのまま放置しても治る可能性が大きかったにも関わらず、大多数の人々は、その未知なるウィルスに対し、何故か、薬に依存した状態で回復する事を強く望んでしまっていた。


 製薬会社は、その大衆心理を上手く利用し、 レムなどという悪魔的な響きにも聞こえる特効薬で対応し、ここぞとばかりに荒稼ぎした。

  デシビルレムには即効性が有るどころか、副作用の方が上回る報告数が上がっていたが、それでも『フロムET』ウイルスに対抗できる唯一の処方薬として、常に需要が多かった。


 今が絶好の稼ぎ時と判断した製薬会社は、 デシビルレムという薬のみならず、『フロムET』ウイルスに侵された死体からウィルスを採取し、早急に経口ワクチンを用意した。

 しかも、一定期間の治験で効果を確認する過程を経る事も無く、そのワクチンを用いて、地球人全体を相手に大がかりな人体実験に臨んだ。


 ワクチン接種は、強制ではなく、あくまでも任意という事だったが、宇宙から飛来した未知なる殺人級ウィルスに対する人々の恐怖心は大き過ぎた。

 その結果、わらにもすがりたい思いで、老若男女が先着順で毎日一定数用意されている経口ワクチンを欲し、接種会場に詰め掛けた。


 日本においての未接種者は、諸外国よりもかなり少なく、人口の0.1割にも満たないほどだった。


 これは、日本人の他人を思いやるという心優しい国民性と、周りと同じ状態である事を安心する心理を利用した同調圧力的なキャッチフレーズ、更に、接種済みの場合には、例え感染しても、流行り風邪のような軽症で収まるという、情報コントロールが功を成した結果だった。


 接種前の診断時には、書類上に承諾する署名を直筆でしなくてはならなかったが、これが治験段階である旨や、負の情報が載せられた小さな文字の部分には目を通す時間は与えられず、流れ作業の如く、サインを促された。

 その時点では、あたかもそれが唯一無二の特効薬のように洗脳され、何一つ疑わず、すがるような思いで『フロムET』ワクチンを接種する人々。


 ところが、そうしてワクチンを接種しても、宇宙人に試されているように、打ったはなから『フロムET』ウイルスは、どんどん変異し続けた。

 その変異も有ったせいか、接種した人々が望んでいたような効果は全く表れる事は無かった。


 接種した事で、体内に免疫が出来るわけでもなく、確実な効果が明示されていない状況にも関わらず、製薬会社側は、ワクチンを複数回接種する事でのみ、身体に免疫が付くのだと、ひたすら力説し続けた。


 挙句に、厚生省までもが製薬会社と手を組み出した。


 接種済みにも関わらず、その接種期日が不明な人々を未接種者扱いでデータを上乗せした。

『フロムET』ウイルスによる死亡者数には、別の持病などで亡くなった人々ももれなくカウントされ、更に、その9割以上が未接種者と改ざんされた。

 一目瞭然で、接種者が有利と思い込ませるグラフを用いて、厚生省は『フロムET』ウイルス感染者数をメディアに公表した。


 何百兆円もの国家予算をつぎ込み、無料接種会場が数多く設置され、無料の『フロムET』ワクチンを接種出来るという優遇された状態を国民にアピールし、ワクチン接種を推進していった。


 各先進国でも、競うようにワクチン接種が進んでいた。

 日本と違い、各国の情報操作されていない統計によると、ワクチン接種率が高い国ほど、『フロムET』ウイルス感染率が高いという、皮肉な結果がもたらされた。


 もちろん、ワクチン接種が殆ど進まない後進国では、『フロムET』ウイルスに感染する人々は、ほぼ皆無だった。


 にも関わらず、国内では、それらの諸外国の情報を得られない人々や、目にしても疑う人々が、尚も『フロムET』ワクチンによる感染予防に努めた。


 これら『フロムET』ウイルス感染者数に計上されている大多数は、実際には、『フロムET』ウイルスに自然感染した人々ではなかった。


 それは、治験中の『フロムET』ワクチンによる副反応だった。

 その副反応は、人により様々な病状が顕れた。


 まず高熱から始まり、視覚や聴覚に異常をきたす人々が多く、中には、身体が何かに乗っ取られたように、意志とは無関係な動きが止められなくなっていった。

 その状態が暴走した結果、最悪の場合は、駅のホームにて電車待ちの時間に突然飛び込むなど、自害に見せかけられ命を落とす人々も急増した。

 

『フロムET』ワクチンの副反応は、それだけではなかった。


 治験段階の『フロムET』ワクチンの含有成分は一律ではなく、毒性の強いロットも有り、そのロットを接種した人々は殆どが、重篤な後遺症や突然死などに見舞われた。


 それらは、明らかにワクチン接種が原因だったにも関わらず、製薬会社や政界からの圧が強力過ぎて、原因がワクチンと特定される事は無かった。

 それでも、超過死亡者数が100万人以上をカウントしたデータが公表されるようになると、死亡者数の多さに、周りも気付き出して来た。


 そのデータを目にした僕は、喘息を理由に、ワクチンを接種してなかった事に対して安堵したと同時に、学校へ通っている接種済みの友人達が心配になった。


 ただ、僕だけの杞憂であってくれたなら、どんなにか良かったのに……


 引きこもってからも、年賀状をやり取りしていた友人達の喪中ハガキが、接種が始まった年に1人、去年は2人からも届いていた。


 今まで、こんな身近な若い人命を何人も奪うようなワクチンが、存在していたのだろうか?

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