第3話 待ち人

 それからさらに四年が過ぎた。港にまで足を延ばす者も随分少なくなった。これまでにこの地に帰った者が約百四十万人。骨になって帰ってきた者もあった。しかし、未だ私の夫は、生きた姿でも、骨となっても帰ってきていない。

 私は港から海に向かって手を合わせ祈った。それは、夫の帰りを祈るものではない。息子と再会した直後、その息子を赤痢で亡くし、自らもこの海で命を絶ったウメに捧げる祈りだった。

 今日来る船が最後。その知らせは私の耳にも届いていた。

 最後の船が接岸し、パラパラと疲れ果てた男たちが降りてくる。そこに夫の姿はなかった。

 龍一が生きているのか、死んでいるのか分からない。しかしこの時、私は夫を失った。

 私は二年前に、ある男から求婚されていた。その男をずっと待たせている。今日はその男の家へ帰ろう。新しい居場所へ帰ろう。そう思い踏み出す一歩一歩に、身体に浴び続けた毒が大地に溶け、浄化されるよう、この国土に祈っていた。

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