第97話

 決戦の朝。俺達は何時もより早く学校に来ている。昨日の立花との電話は、長時間に及んだが、そんなの関係ねぇ!とばかりに朝はパチリと目が覚めた。


 自分が思ってる以上に、この件に関して入れ込んでるんだろう。まあ当然か、今日で立花の将来が決まる…とまでは言わないが大きく変わる可能性が高い。


「じゃあ、行きましょう」


 委員長の掛け声で歩き出す。とりあえず今は全員いるが、実際担任と話すのは立花、委員長、春川、俺の4人って事になった。


 王子は立花の親友とは言え、別のクラスだし、タクに関しては今回の件では、当事者って訳でも無いから、話がややこしくならないようにこのメンツで向かう。


 職員室まで向かう道中は皆無言で、はりつめた空気感だ。普段なら場をなごませるタクですら、ピリッとした空気を醸し出してる。


「…それじゃあ、行ってくるね」


 立花を先頭に職員室へ4人で入っていく。王子とタクは心配そうな顔をしてたが、任せとけ、絶対何とかする。


 職員室に入るとすぐに担任を見つける。


「……先生昨日の件でお話が」


 立花が声をかけると少し驚いた様にこちらを見て


「あの件は、あれで終わったんだ。他に話すことは無いだろう?」


 普段なら話ぐらい聞くんだが、今日は何故か強く拒否してくる。流石におかしいだろ。


「先生、昨日私達も立花さんから話を聞いて事実と違う部分が多々あるので話をしに来ました。とりあえず話だけでもお願いします」


 とりあえず、最初は委員長が話を進めるって事になってる。俺は変にカッとなった前科があるし、春川は…変なことを口走らないとも限らない。


「ん?……早川か……わかった、ここじゃ何だから奥で話そう」


 早川を見て押しきるのは難しいと考えたのか、職員室の奥のスペースで話し合う事になった。まずは第一関門突破だな。


「ふぅ……それで、どうしたんだ?こんな人数で」


 平静を装ってるのか、何時もの調子で話し出す担任だが、足を小刻みに動かしてるのが見える。実際は焦りがあるんだろう。ますます怪しい。


「そうですね。じゃあまず昨日の話を振り返っても良いですか?」


「昨日の?立花が色々とやってたって話か?お前らも知ってたなら、同罪だぞ」


 ここに来てまだ脅すような事を言ってくる担任に声が出そうになるが。


「先生、その件も含めて話しましょう」


 委員長がバシッと締めてくれる。


「あ、あぁ…」


 委員長の圧に気圧されたのか語気が弱くなる担任へ畳み掛ける様に


「それじゃあまず、脅迫の件ですね」


 話し合いが始まった。まずは屑とアホ面の話だ。事の発端の、から揚げを投げて遊んでいた話。そこに俺が駆け付けて言い合いになっている所に立花達クラスメイトが追い掛けて来たこと。


 俺がかなり憤慨していて、立花が間に入ってくれたこと、その時に開き直る屑とアホ面へそれならばと、こちらも勝手にすると伝えたと言う事。


「ふむ…しかし、二人を脅すような事は事実だったんだろう?」


 経緯を伝えたがまだこんなことを言ってる担任に


「そうですね、でも事の発端は向こうです。それに、先に開き直って謝りもしなかったんですから、こちらだってヒートアップしますよ。売り言葉に買い言葉じゃ無いですけど」


 委員長も内心では何言ってんだ?こいつと思ってるだろうが。努めて冷静に話してる。ここで俺も援護だ。


「それに、1組の…アイツらも文化祭の日に自分達に非があったって認めて謝りに来ましたよ、クラスまで。後、立花は結局…アイツの彼女には、何も言ってないんだよな?」


 そう言えば、屑とアホ面の名前をまったく覚えてない。それは良いか別に。


「うん、本気じゃなかったし、アキナが先に何処かで知っちゃったみたいで、謝ってきたよ。あたしは別に気にしてないよって伝えたの」


 うん、これも事実だ。そのLINEも見せて貰ったし、屑の彼女さん…アキナさん?も言えば証言してくれるだろう。ここで委員長が畳み掛ける。


「勿論脅すような事は良くないと思いますが、事の発端は1組の子達ですし、立花さんだけが罰せられるのはおかしくないですか?」


 担任の表情が曇る。


「うーん……まあこの件に関してはそうかもな」


 渋々と言った感じで認める担任。何をここまで意固地になる必要があるんだ?


「わかって貰えて良かったです。それじゃあ次はイジメの件ですね」


 ひとつ解決して、このまま行けば何とかなりそうだと希望が見えてくる。心なしか立花の表情も、固さが少し取れた気がする。


「まず、先生は誰がイジメられてたかは、ご存知なんですか?」


 まずは確認だ。本当に知ってるなら、今の状況がおかしいって分かるだろ。


「ん?……一応春川がイジメのターゲットだったと聞いている」


 知ってんのかよ!じゃあもう分かるだろイジメなんて無いって。


「そうですか、それじゃあ今ここに春川さんが来てる時点でそんな事は無いってわかって貰えましたか?」


「それは違うだろ。何で春川がここに来てるかは知らないが、無理矢理連れてこられてる可能性だってある。春川は大人しい性格だし、潔白を証明するために着いてこいと言われれば着いてこざるを得ないだろ」


 うーん…確かに本当にイジメがあったとして、イジメてた本人が横に居るなら連れてこられてる可能性もあるか…?しかし何でこんなに否定してくるんだよ。


「それは…」


 委員長も言葉に詰まる。立花が春川をイジメてない事は俺達にとっては周知の事実だが、委員長が前言っていたように、端から見ると強引に連れてこられた様に見える可能性もある。


「違うっ!!」


 俺達が言葉に詰まってると、春川が今まで聞いたこと無い位はっきりと大声で、そうじゃないと否定した。



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