第13話(身だしなみ検査物語)


中間テストが帰ってきて数日、みんなの心が落ち着いてきたころ、それは先生の言葉によって、幕を開ける。



「明日の朝、言っていたとおり身だしなみ検査があるから、名札、爪切りを忘れないように。髪の長いやつは切っておけよ」



「げっ!みだしなみ明日だったか。やべー、今日中に髪切っとかなきゃな」



先生の言葉から、俺は1か月ほど髪を切ってないことに気が付いた。


この学校は身だしなみには異常に厳しく、身だしなみ検査になると、なぜか普段温厚な先生の口からでも怒号が聞こえてくる始末である。俺は1年の頃に1回引っかかってから、身だしなみ検査前には必ず散髪に行くことにしている。


身だしなみ検査合格の条件は長い爪なら切っているか、名札を付けているか、必要以上の髪の長さになっていないかの3つである。特に3つ目の髪が一番厳しく、男は前髪が眉毛についていないか、髪が耳にかからないかの2つの点を見られる。


俺の髪はすでに眉毛にも耳にもかかってしまっている状態である、どう考えてもアウトだろう。


まぁ検査が終わった後なら、髪が前髪にかかろうと咎められることはないので、ほとんどの人は基準のぎりぎりを狙って、また伸ばすことが多い。俺もそのうちの一人である。



「散髪屋でぎりぎりのところまでを切ってもらうか」



俺はそう言いながら、今日の帰りに散髪屋に寄るのだった。





次の日の朝、俺はいつも通り学校に向かう。


身だしなみ検査の準備はばっちりだ。おそらく検査に引っかかることはないだろう。身だしなみ検査は朝の集会のあとにあるので、教室に荷物を置いたら集会の時間までに、体育館に向かうことになっている。


教室に着き、俺が扉を開けると、



「あ、佐藤!やべーよ俺、髪切るの忘れちゃったよ!どうしようっ!!」



教室にいた山田が俺に向かってそう言ってきた。見てみると、山田の髪は眉毛にはかかっていないものの、耳にはしっかりとかかっている。



「マジかよ!まずいじゃん」



俺がそう言うと、



「まあ、自業自得だろうな」



前田が冷たくそう言い放つ。



「そんなことを言わずにさ~、何か乗り越える方法考えてくれよ」



俺はこういった時に一回は思いついた方法を提案してみる。



「それならさ、ばれない程度にワックスで髪固めちゃえよ」



「おぉ、いいじゃん!やってみるわ」



山田はその提案をすんなりと受け入れ、クラスの人からワックスを借り、髪が耳にかからないように髪を固めて整え始める。


結構適当に言ったんだけどあっさりと受け入れたな、こいつ。



「おしっ!これで大丈夫だ。さぁ体育館に行こうぜ」



山田はさっきまでのテンパりは何だったのかというくらい、急にリラックスして教室を出た。



「現金な奴だな~、ま、これでうまくいくといいんだけど」



悲しいことに俺は素でフラグを立ててしまった。





体育館で朝の集会を終えると、身だしなみ検査ができるように男子と女子で学年ごとに分かれる。そして出席番号順に並び、5人ごとに検査が始まる。


俺はだから結構早めに順番が回ってくる。



「はい、爪見せて、名札もついてるね、髪もOKっと。よし、この列、教室に戻っていいぞ」



俺の列は無事に乗り越えることに成功した。しかし、問題はこの次の列で起こってしまう。



「おい、お前何髪固めてるの、ふざけるなよ」



身だしなみ担当の男の先生の低い声が全体に響き渡る。どうやら山田以外にもワックスをつけたやつがいたらしい。



「お前、ここに残っとけ」



先生による悲しい宣告が下される。


おいおいヤバいぞ、このままじゃ山田も引っかかってしまう。だが、山田はから始まるため一番最後の列にいる。まだ時間はあるはずっ!


俺は体育館を出るふりをして後ろの列に回り込む。



「おい山田、ワックスはおそらくばれる、このままじゃまずい!」



「なにっ!」



俺は山田に危険を知らせる。こうなっては仕方がない、かくなる上はっ。



「おいっ、今すぐここで切れっ!」



俺はあらかじめポケットに忍ばせておいたはさみを手渡す。



「おいおい嘘だろ、マジかよっ!ここで切るの?」



「こうなっちゃ、しょうがないだろうよ。緊急事態だ、急げ!」



俺は、かつてワックスを付けていたことがばれて反省文3枚書かされた事例を知っている。さすがに俺の提案のせいでこうなってしまうのは、さすがに多少の罪悪感を覚えてしまう。



「おい前田、あとのフォロー、頼んだぞ」



「はぁ?なんで俺が」



俺は一つ前の列にいる前田に、俺たちの姿が先生に見えないようにサポートをお願いする。



「しょうがないだろ、緊急事態だ。あ、隙間から先生見えてる、隠して隠してっ!」



「え、あ、ああ」



前田の体で先生の視界から山田を隠す。



「よーし、任せとけ、見た目はともかくスピードには自信がある!」



「あの、できれば見た目もよくしてもらいたいんだけど」



俺は山田の発言を無視して、作業に取り掛かる。おそらく列の長さから制限時間は2分ほど。スパッといかせてもらうぜっ!


しかし、作業は終わらないまま、列は短くなっていく。そして、



「おいおいまだかよ、次は俺の番だぞ、さすがにばれるって!」



前田が危険を知らせてくる。しかし、



「まだだ、うまく俺たちを隠してくれ。任せたぞ」



「嘘だろ!できねーって!」



前田はなるべく俺たちの姿が見えないように先生に合わせて体を動かす。幸い、先生は前の列を見るのに集中しており、後ろはあまり気にしていない。



「よっしゃ!できた」



俺は切り終えるとすぐに後ろに下がる。



「はい、次」



先生がそうつぶやく。


あっぶね~、間一髪だった。


しかし、間に合ったはいいものの、また別の問題が発生する。



「おいっ、お前...耳んとこの髪、どうした?」



先生が笑いをこらえながら、そうつぶやく。時間重視で行ったため、長さがバラバラで多少ワイルドな感じになってしまったが、それはしょうがない。



「いえ、その、昨日自分で切ったんですが、明らかにやらかしました」



「ああ、そうか...さすがにこれはまずいから後で整えとけよ」



山田は苦し紛れの言い訳で、何とかの場を乗り越えることに成功した。



よっしゃー!俺は心の中でそう叫ぶ。



しかし、これが原因で陰で山田のあだ名がサルに、また豊臣秀吉関連でハゲねずみにまで発展してしまうことは、この時はまだ、誰も知らない。








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