三題噺 ポケット 魔法使い レモネード

N通-

彼女の秘密

 8畳のさして広くない部屋に、少女と少年が向かい合う。少年は今から起こることを聞かされておらず困惑顔で、少女は自らの重大な秘密を打ち明けようと緊張に足が震えていた。しかし、キッと決意の眼差しで面を上げ、高らかに宣言する。


「超! 回復少女メチャカワ! へーんしん!」


 まだ未熟な体の少女の体を、光の粒子が包み込んでいく。ファンシーな音とともに、次々に現れる装束……原色をこれでもかと詰め合わせたようなど派手でふりふりな衣装に、虚空から現れたロッドの先端にハートが付いた杖を、少女はつかみ取り。

 

「メチャカワ少女! 独りのグレイちゃん登場!」

 

 しゅたっと、カーペットの上に降り立った少女は、目の前で呆然としている少年……幼なじみで彼女の片思い相手でもある日乃出 陽太へと目を向ける。

 

「なっ……こ、こんな非科学的なことが!?」


 驚愕している陽太に、少女……影端 月乃は答える。

 

「そう、人知れず生まれ出る、悪を打つ……それが私の役目なの。陽太くん、驚かせてごめんね……」


「驚いた……驚いたけど、これは、超科学的発見だよ! 月乃ちゃん!」


「ひゃ、ひゃい!」


 恐れか、拒絶か……それを覚悟していた月乃は、陽太の熱い抱擁に顔を赤らめた。

 

「科学実験をしよう!」


「ふえ?」


 言われたことの意味を捉えきれず、月乃は間抜けな声を出した。

 

「何か、君が普通の人間と違って選ばれた存在である証がきっとあるはずだ!」


「そ、そうなの?」


「うん、何かないかな。月乃ちゃん」


 突然そんなことを言われても、月乃には思い浮かばない。すると、ぽんっとピンク色の雲が出現し、それが晴れるとピンクのデフォルメゾウさんが現れた。

 

「グレイちゃん! それなら簡単だよ!」


「わ、なんだコレ!? これも魔法なの?」


 驚く陽太に、ゾウはわかりやすくプンプンと怒って見せる。

 

「僕はれっきとした魔法の国の住人だぞー。ふざけんじゃないぞー。折角協力してあげようってのにだぞー」


「す、すまない。取り乱した。それで、方法って?」


「ふふふ、月乃、僕にはお見通しだよ? 君の“ポケット”、もう緊張で限界なんでしょう?ぞー?」


「はうっ、ど、どどどどうしてそのことを!?」


 ただでさえ赤い顔をしている月乃の顔が更に茹で上がる。

 

「さあ、それを陽太くんに差し出してみるんだぞー!」


「ええええええええ!? だ、ダメダメ、ダメだよ!」


「それが一番簡単だよ、さ、僕も手伝うから! ぞー」


 するとゾウの鼻が恐ろしいスピードで伸び、あっという間に陽太に絡みついてカーペットに引き倒した。

 

「な、何をするつもりだ?」


「ふふふ、さ、月乃ちゃん覚悟を決めるんだぞー」


「わ、わかった、陽太くん……」


「つ、月乃?」


 倒れて動けない陽太の顔の上に、月乃が立つ。すると中が丸見えなわけで……。

 

「え、履いてない!?!?」


「さ、陽太くん……」


 月乃は陽太の顔の上に座り込み、そして--。

 

「さ、飲んで。僕の“レモネード”」


「!?!?!?!?!?!?」



 その後、しょわしょわとした音と、何かを飲み込む音が部屋に響いた。後日、陽太は語ったという。

 

「あの“レモネード”は、凄く甘美な味だったよ……」


 おしまい

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三題噺 ポケット 魔法使い レモネード N通- @nacarac

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