第18話・1 (閑話)エドワール

 父から話があると父の部屋へ呼ばれた。

 親しき中にも礼儀あり、は王室では当たり前の事でそれほど意識して実行しているわけでは無いが、父の部屋へ入ると自然と礼儀ありを思い出す。


 「エリザヌス国王陛下、お呼びと聞きはせ参じました。」

 「皇太子エドワールでございます。」

 深くお辞儀をする。


 「エドワール、今日は父として話がしたい。」と父が言う。

 珍しい事では無いが、昨今の情勢を考えるとカスミ姫の件だろう。


 「父上何事ですか、また婚姻の相手が居るとでも言われるのですか?」

 いくらなんでもカスミ姫では無いだろう、妖精族は婚姻相手としては世間の評判が特定の話題で急降下することになるからな。


 「いや、カスミ姫の件を言い出すつもりは無い、お前は世間の評判を気にするからな。」

 「実は、お前の祖父ジョゼフィス前王がな。」

 「船団を作ってヴァン国へ行く気に成っておる、今回の取引した小麦を満載した大型新造船でな。」

 「ヴァン国へ行く良い口実が出来たとでも思って居る様だ、ヴァン国へ行くと帰ってこなくなるでな、連れ帰る人材が必要なんじゃよ。」


 「なにせ千年待たせたからね、ビチェンパスト王家の寿命は国家の最高機密だから色々とあったのだ、やっと私に正式に国王を引き継げたので、話にしか知らないマーヤ姉様に会いたくなるのは仕方が無いとは思っとるよ。」

 「だからと言って、ヴァン国へ行ったっ限(きり)、帰ってこなくなるのは今度は私が困るのでな。」


 「その役を私にやれと?」

 帝国との戦が迫っているこんな時に国を離れる訳にはいかないだろう。

 お爺様もお爺様だ、何を思って、いやお爺様なら肩の荷が下りた今なら、何処かへふらふらと行ってしまうかもしれないな。


 「帝国で皇位争いが激しくなったそうだ、ボネ派と東邦派に分かれて新興貴族達が纏まりだしたとも聞いておる。」

 「つまり戦争は数年は先になると言う事じゃ。」


 「東邦派のアルベルト皇子が一歩抜きんでていると聞いていましたが、怪我の後遺症でも出たのですか?」


 「いや、そうでは無い、大砲と呼ぶ火球砲の代わりの武器の供給が滞っておるそうじゃ。」

 「いままでに供給された大砲は30門ほど、それに大砲で使うという炸裂弾も120発ほどしか出来て無くて、大金を掛けて鉄を供給する製鉄所なる名の工廠を作るそうだ。」


 帝国の情報がここまで詳しく分かるのは、帝国の宰相辺りに内通者が居るはず、まだ私には教えてくれないけど。


 いや、お互いに機密情報を知らせ合っているのかもしれない、帝国は軍事、政治の内情を、王国は国王の交代の欺瞞と真実(寿命を誤魔化すために父と子で王位を交互に交換した)とか今回の様な火球砲の数とか、お互いに脅しを兼ねた手札を見せ合い化かし合っているのだろう。


 「ボネ派が大金を出すことに反対したため計画をめぐって政争が勃発したのが理由じゃ。」

 「皇帝もそろそろ60に近いからの、次代を決めるのも早い方が良いと考えているようじゃ。」

 「アルベルト皇子がこの政争に生き残れば彼に次期皇帝の座は行くじゃろう、問題はボネ派を取り込むか、敵対して粛清できるか、内戦になるかじゃ。」


 「ボネ派は爵位を最近継いだ若いボネ公爵が実権を握ったと聞きましたが、ボネ伯爵を継いだのは弟だとかボネ派内での争いにならないのですか?」


 「いや成らんかった、ボネ伯爵を継いだ弟はベルベンボネ市で領代官をしていた準男爵だったそうでな、代官としては有能だったが、派閥を率いて帝政を如何にかしようなど少しも思っていないようでなボネ公爵の一人勝ちよ。」


 「では、アルベルト皇子の属する東邦派が弱体化すれば事によってはボネ派のチェレンコフ皇子が次期皇帝になる可能性があると?」


 「そこは無いと読んどる、何せアルベルト皇子には聖女が献身的に尽くしているでな。」


 「教会の力は強い、アルベルト皇子には教会の知恵も東邦派と言う武力もある、側近や側妃を亡くしたと言えど有能な部下も多い、大勢は変わらんよ。」


 「ボネ派と見られている皇帝は沈黙を続けている、アルベルトへの不満があるのではと思う、じゃからこそ頑張って内戦まで行ってくれれば我が国としては一安心なんじゃがな。」


 「しかし、内戦の後、アルベルト皇子が最初に狙うのは我が国では?」内戦の後だと帝国の結束が強くなるかもしれない、懸念は強くなる。


 「心配せんでも考えておる、アルベルト皇子は東邦派じゃ最初に手を着けるのは東邦の竜騎士対策と見ておる。」

 「彼等には我が国から資金が流れておる、帝国には内緒だぞ。」

 「と言う事で、ヴァン国へ行ってこい。」


 「そうなのですか、分かりました。」どうやら抵抗もこれまでの様だ。


 「この皇太子エドワール・パスト・エルルゥフ・ダキエ、陛下のご用命しかと引き受けましてございます。」と深くお辞儀をしてやる。


 「ふん、生意気になりおって、カスミ姫との縁談でも進めるかな。」


 最後に爆弾を炸裂させて、会談は終った。

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