第16話 結末と別れ(1)

 ”カモメ”が桟橋に着いたとの連絡を受け、私とナミそれにエドワール皇太子御一行様10人ほどが桟橋へ移動します。


 桟橋に係留された”カモメ”は全長は14ヒロ(20m)、最大幅は5ヒロ(7.5m)ほどの小さく可愛い感じの、カスミちゃんの世界では帆走カッターとか呼ばれる事になる最も小さい外海へ出れる帆船です。


 他の船と大きく違うのは、甲板部分が全て船室になっている事です。

 トップヘビーに成らないように、材料を漆と系列の同じ魔物でパッムユーから採れる油性の樹液を使い錬金で合成樹脂に生成して水を弾き、強度もあって軽い素材を作り上げ、その素材と合板で作った船室です。


 喫水は1ヒロ(1.5m)、水面から上でも舷側までは1ヒロ(1.5m)ぐらいありますので、家の屋根ほどの高さがある半分が水の下です。

 これは、深いように見えますが船が安定して航行できるように、船底にバラストとして重さの在る物を入れているからです。


 今回はレタが仕入れた漆などの魔物や迷宮産由来の品物を入れて重くして(買い込み過ぎです by妹)あるからです。


 こうすることで舵が効率よく効くぐらいまで船が沈んでくれます。

 実際はバラストが無くても多少は舵が効きますし、舵のコントロールは操舵室からコントロールできるように魔道具化しています。

 それに水流推進機が2本在るのと弱いながらも左右への水流を発生できるので、舵の代わりもできます。

 (レタはバランスを見て、順次神域の部屋へ移動すると言ってるよ by大姉)


 桟橋の高さ(水面から1ヒロ)から乗り込むには船縁が高くて邪魔をします。

 其処で今回艤装として作って貰った手すり付きのタラップをレタとアイが桟橋から登って船の甲板へ降りれるように架けてくれています。


 出迎えてくれた、レタとアイに迎えられて船に戻ります。

 姉ねは既に家(神域の部屋)へ帰っています。


 直ぐに今度は船長としてエドワール皇太子御一行を迎え入れます。


 船に乗り込んだエドワール皇太子と随員9名は人が歩く幅を残して船室があるのに驚き、次に帆柱の固定用静索の位置が他の船と大きく違うので驚いたようです。

 帆柱の固定用静索は船殻の船首端と船尾に在ります、これは火球砲の射線と三角帆のブーム(帆の底辺に取り付けた木の棒)の移動を妨げないように考えたものです。


 しかも帆を畳んだ状態で移動してきたのを、桟橋で船が来るのを待っていた桟橋を管理している人が見ていたようです。

 彼が、桟橋から皇太子の随員に魔道具の推進具についてエドワール皇太子に進言して、何か少しでも情報が得られないか聞いて欲しいと嘆願しています。


 しかしエドワール皇太子はそんな言葉が耳に入らないようです、乗り込んむ前から船室の上の帆柱の根本にある火球砲の砲塔を熱心に眺めています。


 レタに桟橋から離れて、試射する場所へ移動するように言います。

 皇太子を接待するのは私の役目です、既に船室の食堂にはそのための飲み物と料理が用意されているそうです。


 船室の食堂部分に出入りの扉が作ってあります、ドアを開けると階段があり少し降りる必要があります。


 エドワール皇太子一行10人を全員食堂へ招き入れ、簡単な昼食を取ってもらいます。

 食事は、アイがサンドイッチを色々工夫して作っています。

 ジュースと紅茶にコーヒーなどの飲み物以外にハムとレタス?、チーズやキュウリ?、アスパラガスもありました。


 エドワール皇太子様はマヨネーズソースが気に入ったようです、レシピは書いて渡すことになりました。


 「カスミ姫歓迎してくれて感謝する、この船もとても居心地の良い船だと思う。」

 「だが、そろそろここへ来た目的の火球砲と偵察バードを見せてはくれないか?」と早く火球砲を見たいようです。


 「はい、今船を出航させ、砲撃しても周囲に被害が出ない場所まで移動しているところです」と言うと、エドワール皇太子は舷側にある窓から海を見て既に船が移動している事を知ってびっくりしています。


 船を出航させるのは事前に伝えて了解を得ていますし、出航時の桟橋と舫綱を外す時の声等良く聞こえていたと思うのですが?


 「いや、声がしていたのは聞こえていたが、その後静か過ぎて移動しているなど思わなかったぞ。」と船が動いているのにびっくりしているようです。


 そうですね、波も静かですし、移動もこれと言って音はしませんし、確かに静かですね。

 揺れも桟橋に係留している時から少しはありましたから、分からなかったのも仕方が無いですね。


 動いている所を見てみたいそうなので、一度舷側の通路まで出て、船室の手すり付き階段を登って船室の上にある上甲板へ移動します。


 王都の港を出るまでは時速7ワーク(時速10キロ)程の速度で移動し、港を出てから時速14ワーク(時速21キロ)まで上げていきます。


 あまり港から離れてもエドワール皇太子が乗っているので困りますから、周囲に船が見えなくなった場所で試射を行う事にしました。


 私は皇太子に断ってその場を離れて操船の為、操舵室へ入ります。

 皇太子一行も船室の食堂へ集まって貰い、私が画像音声付与魔道具の艦内放送で操船しながら説明をしていきます。


 アイが火球砲の砲塔を操作して撃ちます。

 レタとナミが2つ用意してもらっている的の設置や回収をします。


 船に備え付けのボートを下ろして、レタとナミが的になる浮き輪に括り付けた旗を、海へ浮かべると、そのままボートを船が牽引したまま移動して2ワーク(3㎞)ほど離れます。


 右舷からの砲撃を敢行します。

 エドワール皇太子に右舷の船室の窓越しに的を見ていて貰います。

 2ワーク(3㎞)先なので的は波に隠れて見えませんが、おおよその位置は旗が教えてくれます。

 アイが操作する砲塔が的を向いて、射撃準備が整ったので、操舵室に居る私は、画像音声付与魔道具の艦内放送で、エドワール皇太子に一言断り撃ちます。


 「それでは撃ちます、……撃て!」私の命令でアイが火球砲を撃ちました。

 2ワーク(3㎞)先の的が8秒ぐらいして、周りが火球と水柱で見えなくなり、収まった時は破片だけが水面に浮いています。


 船を動かして的の近くまで移動します、ボートでレタとナミが破片を回収します。

 それを船に引き上げ、エドワール皇太子たちに見てもらいます。

 木で出来た浮き輪は、細かな破片だけになり、旗も竿は折れ、布の部分は燃えてしまっています。


 その間にレタとナミは新たな的を用意し、船に戻ってきます。

 今度は偵察バードを使って空から標的の監視を食堂の壁に映し出すため人手が必要なので呼び戻したのです。


 船が新たな(今度は左舷での砲撃です)位置に着くころ、ボートを固定したレタとナミはスクリーンを用意する為、倉庫から偵察バードの画像と音声を写す魔道具と壁に掛けるスクリーンを出すために下の倉庫へと移動します。


 私は操船デッキで船の操船にかかりっきりなので、動けないのです。

 倉庫からスクリーンと画像と音声を写す魔道具を持って来た2人は食堂の船尾側にスクリーンを張ります。


 直ぐスクリーンに偵察バードからの映像と音声を出します。


 映像と音声がスクリーンから流れ始めるとエドワール皇太子たちは、その映像に魅入られたように群がり、私が「それでは撃ちます、……撃て!」と声を掛けても気が付かないようでした。

 映像に標的の周りに水柱が立って、火球が広がったのを見て初めて火球砲を撃ったのを知ってびっくりしています。


 今度は、的の回収は行わず、側を通過するだけにします。

 エドワール皇太子達は、側を通過する時的の破片を舷側の通路から見て感心したように火球砲の威力について話しています。

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