第4話 ビチェンパスト王国(3)

 目的の魔石は手に入れたので、もう少し街中を散策します。


 私達が泊まっている宿は町の北側にあります、そこから南下して市場がある通り、そこを通って右方向へ曲がり西へ行くと先ほどのボーディアーノ商店がある町の中心街が在ります。


 今は更に先にある広場へ向かって歩いています、だんだん周りに武装した人が多くなってきたのですが、悪い予感がします。

 この辺のお店はお酒と食事を出す料理店が多いようです。

 料理屋以外のお店も魔物狩用の武器や道具を店先に飾った工房に研ぎ屋兼鍛冶屋の様な武器に関係するお店が増えました。


 広場の西側にどこかで見た様な2階建ての建物が在ります、そう冒険者ギルドです。

 冒険者ギルドへ図らずしも着いてしまいました。

 広場には屋台や荷馬車が沢山在って、冒険者と見られる人達も大勢います。


 ここでも人々は私達に近寄りません、一目で貴族と分かる服装ですから無理もありませんが、嫌がられているのは楽しくありませんね。

 明日はもっと街中に溶け込める服装で来ましょう。


 広場で引き返すことにします。

 元来た道を戻りますが、先ほどの市場は人で混雑していますので、少し西よりの路地を通って宿へ帰ります。


 路地を通ったのが悪かったのか、もっと前から目を付けられていたのか、路地に幾つかある酒を出す店からゾロゾロ出てきた、10人程の冒険者崩れと思える者達から前後を挟まれています。


 私達の前に5人後ろに5人、リーダーと思しき男がアイの前で手を広げて通せんぼしています。


 『レタ、帝国の関係者だと思いますか?』魔波を店内から感じたので、今一番知りたいことを脳内会話でレタに聞いて見ます。


 木を隠すには森の中、人を隠すには人の中とは良く言ったものですね、いくら空間把握が在っても雑踏に紛れたり、今回みたいにお店の客に擬態して居れば分かりません。


 『はい、ここを通ると見て張っていたであります、他の路地や道路も人が配置されていたようで、他の場所からここへ集まって来ているであります』

 『今の内にここを突破すれば道は開けると考えるであります』


 『そうですか、レタ強硬突破です』前方への突撃を慣行いたしますわ。

 (宿は直ぐ引き上げられるよ、部屋の中に物は置いていないからね by大姉)

 (ありがとう、姉ねネエネ by小姉)


 アイとレタが前方へ走り出します、ベルトポーチからアイはミスリルの棒、レタはスタッフを出します。


 前に立ちふさがってこちらをニタニタしながら見ている男が「おい、姉ッ・・」と何か言いかけたようですが、構わずアイが矢避けの風の結界を掛けて突進したので何処かへ弾き飛ばされてしまいました。

 私もレタとアイに遅れないように、走ります。


 吹き飛ばされた男の後ろに居た男たちは、慌てて路地の家や塀に張り付いてこちらを避けようとしていますが、アイのミスリルの棒で突かれレタのスタッフで殴られて路地脇に伸びてしまいました。


 伸びた男たちを脇目に見ながら路地を走り抜けます。

 普段着(超高級品)なんて着て来なければ良かったです。

 着物は足に纏わりついて走るのを邪魔しますし、マントまで羽織っているのですから走りにくくて2人に遅れそうです。


 ナミが後ろから追ってくる者に闇魔術で目くらましを掛け、先頭の男が躓いて倒れると続く男たちも折り重なって倒れてしまいました。

 それを確認して、ナミが私達を追いかけます。


 私に追いついたナミが私を抱っこして走ります。


 幸い路地を抜けても追っては現れず、私達は宿へと駆け戻りました。

 この宿も見張られているかもしれません。


 宿の部屋の中に物は置いてなかったので、直ぐにフロントでチェックアウトしてもらいます。

 午前中でしたので、2日分払い戻しが在りましたが宿へキャンセル料として銀貨4枚を渡して置きます。


 宿を引き払い、前にゴーレムを土に戻した場所で、ゴーレムを新たに作ります。

 「その身に大地を纏え、ゴーレムベア」

 そして、「その身に大地を纏え、ゴーレムベアツー」命名はあれですが、ロマーネ山脈で手に入れた6級魔石でゴーレムを作りました。


 ゴーレムベアに私とアイがゴーレムベアツーにレタとナミが乗り街道をビチェンパスト王国の首都へと急ぎます。

 着替える暇も無かったので、まだ普段着(超高級品)のままです、もう普段着は部屋以外では着たくありません。


 頭の内でみんなで先ほどの件に付いて話し合います。

 『みんな帝国はここまでするような力をビチェンパスト王国に持っていると思いますか?』

 (ビチェンパスト王国と何か取引して居たら在りだね by大姉)

 (ビチェンパスト王国に入って3日目だよ、早すぎない? by妹)

 『この町の闇ギルドを動かしたと思うであります』レタもセルボネ市での思いがあるのか闇ギルドを疑う意見を出してきます。

 『私がロマーネ山脈を越えた事が帝国に把握されていると見て間違いは無いですね』

 (逆かもしれないね、この町でカスミを見つけてロマーネ山脈を越えた事を知ったのかもしれないね by大姉)

 (帝国の裏の組織はビチェンパスト王国へスパイ網を作っていたって事さ by大姉)

 『そうね、レタと姉ねネエネの言う通り帝国の影とこの町の裏ギルドが連携して襲ってきたと言う事だと私も思えて来たわ』


 「ほんとにしつこいんだから!」つい愚痴が口から出てしまいました。


 ジェリモネフリッカの町を出た私達は、チビータ・ウデキネをへてパルコネーノからポルトカオーネを通り王都パストへ着いたのが4日後、その間は宿では無く街道から少し入った林の中で家(神域の部屋)に泊まっていました。


 帝国の追ってを警戒していましたが、幸いにも見つからずに王都パストに着いたのは昼9時(午後2時)頃でした。

 王都に着いたと言ってもその玄関に着いただけで、実際の王都は更に沖にあります。

 橋は無いので、艀(馬車も載せられる大きな船です)で王都まで移動しました。


 結局真の王都パストに着いたのは昼11時(午後4時)頃になっていました。


 それから、港近くに『海カモメ』と言う宿を取り、4人部屋を確保してアイとナミは何時ものように宿の食事を試食しに行っています。


 私は宿を取った後、帝国を警戒して家へ引っ込んでいます。

 アイとナミが試食しに出かけた後、ナミが家に帰ってきました。


 まだ外は日が沈んでいません。

 「何だか昼の時間が帝国より長くなっていない?」疑問に思っていることをつい口に出すと。

 「それは自転軸が傾いていて四季がある事から分かる事だよ、不定時法だと日の出から日の入り迄が昼だから、冬は北の方が南より昼の時間が短くて夜が長いのさ」と姉ねネエネが教えてくれます。

 「それなら南へ行けば冬でも昼の時間が長くなるの?」妹が私と同じ疑問を投げかけます。

 「そう言う事だね、逆の半球は夏になるから夜の時間が短くなるよ」と姉ねネエネ


 「ビチェンパスト王国は定時法でしたです、時計の時間合わせを定時法に変えなければでございます」

 レタがあわてている。


 「わたしも時間の経過が定時法だと馴染んだ時間の間隔になるので過ごしやすいわ」レタの情報からやっと帝国の頸木から逃れたのだと実感しました。


 「そうよね、20ワーク(30km)毎に町があったり、1年中時間の長さが同じなら旅行しやすいよね」と妹。

 「船乗りが作った国だからかもね」姉ねもビチェンパスト王国の歴史を知っているのか、そう言います。


 さて港町へ着きましたけど、船に乗ってヴァン国へ行くにはどうすれば良いのでしょう。

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