三題噺「ポケット」「魔法少女」「レモネード」

白長依留

三題噺「ポケット」「魔法使い」「レモネード」

「ポケット」「魔法使い」「レモネード」


「クエン酸ミラクルシャワーーーー!」

 魔法のステッキの先から怒濤のごとく飛び出すクエン酸。浴びたら最後、よだれが止まらなくなるくらいの酸っぱさに襲われ、相手は人生はジ・エンドになる最恐の技だ。

「なんの!」

 かけ声と共に素早く横にとびすさり、相手は私の必殺技を回避した。

 なんでこんなことになったのか――絶滅危惧種の魔法使い。その魔法使いの卵である魔法少女同士の争い。

「さすがはレモネードの魔法少女ね、一筋縄ではいかないわ。危うくよだれが止まらなくなって脱水症状で死ぬところだったわ」

 私が守護するこの都市に、突如土足で乗り込んできた魔法少女。いまだに力の全容を見せること無く、私の攻撃を躱している。

 すでに、戦場となっている公園は私がまき散らしたクエン酸で白い世界になっている。いずれは完全にクエン酸に支配され、逃げ場のなくなった相手は負けること必至なのに。

 ……なのに、私に向かって不敵な笑みを浮かべてくる。

「いい加減、貴方の目的を教えてくれてもいいんじゃない?」

「バカじゃないの? 相手の有利になる情報を教えるはずがないじゃない」

 相手の魔法少女について分かっているのは、ステッキがハンマー型だということだ。だからといって、単純に『ハンマーの魔法少女』なんて短絡的な発想は危険だ。

 ハンマーを片手にじりじりと近付いていくる魔法少女。私は先程の必殺技でクエン酸を大量に使いすぎてしまった。補充出来るまで少し時間がかかる。

「そろそろ終わりにしましょ? こっちは時間があるわけじゃないの」

 腰を屈め、一息に距離を詰めてくる魔法少女。何故かステッキのハンマーを振りかぶること無く、眼の前まで近付く。

「な、めるな~~~!」

 クエン酸だけが『レモネードの魔法少女』の力だと思うなよ!

 魔法を唱えながらバックステップで距離をとった私は、とっておきの力を解き放つ。

「クエン酸が無ければ、リンゴ酸とコハク酸があるじゃない!」

 マリー・アントワネットを彷彿とされる発想で力を解放する。ステッキから二条の光が螺旋を描いて相手の魔法少女に襲いかかった。

「甘いわ!」

「な、なんで!?」

 リンゴ酸とコハク酸を体中に浴び、口から大量に摂取した魔法少女はのたうち回って干からびるはずなのに!

「つーかまえた」

 その言葉を聞いた瞬間、私の意識は暗闇に飲まれることとなった。




「力がバレている魔法少女なんて、こんなものよね」

 ぺっと口から種を吐き出し、口元を拭う。口から吐き出したのはミラクルフルーツの種。

 どんな食べ物でも甘く感じさせてしまう、レモネードの魔法少女殺しといっても過言ではない食べ物だ。

「にしても、とんでもない魔法力よね。あたり一面、クエン酸となんだっけ? まあいいや、汚染されたことには変わらないか」

 地域の陰の守護者として魔法少女は細々と生き残っている。昔は多くの人間が魔法を使えたそうだが、今ではごく一部だけだ。その影響なのか、魔法使いや魔法少女の力が高まりつつある傾向にあった。

 ポケットを軽く叩く。さきほど捕まえたレモネードの魔法少女がポケットの中で動いたのが分かった。

「さてっと、問題ない程度にまで砕きますか」

『ポケットのなかにはビスケットがひとつ、ポケットをたたくとビスケットはふたつ♪』

 手に持つハンマーでポケットを軽く何度も叩いていく。叩く度にレモネードの魔法少女から削り取られた力が、ハンマーに流れ込んできた。

「警部。対象は捕獲済みですか?」

 歌を口ずさんでいると、バディの刑事が声をかけてきた。クエン酸を踏みしめる音で公園内に入り込んできたのは気付いていた。

 魔法使いの保護と監視を行う機関。警察庁特別部隊第七課――通称、特七。

「レモネードの魔法少女の力は問題ない程度まで減衰させたよ。で、奪った力を寄越せって?」

「『魔法使いに関する力と能力に関する法律』で一定以上の力は、自然エネルギーとして再利用することになっています。ただちに、このUSB型バッファに力を移して下さい」

「『魔能法』って忠実でご苦労なことですねー。頑張ったご褒美に少し位、別けてくれてもいいじゃない」

「ダメです」

「少しでも力があれば、次の仕事が楽なのに?」

「ダメです。それとも減給されたいんですか? それとも逮捕? 私としてどっちでもいいですが」

「ひどいバディもいたもんだ」

 首元にUSB型バッファを当て、レモネードの魔法少女から奪った力を移す。

「確かに」

 絶滅危惧種の魔法使い。数が少なくなったからこそ膨大な力を持つにいたり、管理という名目で力を奪い人々の生活へのエネルギーへと転換する。

 脱炭素社会の一つの答えとして、人類が導き出した一つの答え。

 ――魔法の有効活用。

 完全にクリーンでなんのデメリットもないエネルギー。魔法使いを正しく管理するだけで無限に近いエネルギーが手に入る。

 例え少しの人間が泣くことになっても、九九%以上の人類が幸せになるなら、これ以上になり幸せな方策だった。

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三題噺「ポケット」「魔法少女」「レモネード」 白長依留 @debalgal

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