第9話

 簡単に通された。上のほうで、話が通っているらしい。近くで寝れば効果が強くなるかもしれないなんていう、どうでもいい理由付けも要らなかった。

 駅から程近い場所の、ホスピス。

 彼。

 ベッドに寝かされている。点滴も、何もついていない。ただただ、眠っている。無表情。

 彼は。ここにいる。

 まだ、生きている。

 彼の隣に、潜り込んだ。

 彼。まだ、暖かい。

 彼の匂い。ちょっと、どきどきする。まだ思春期みたいな感情が残っている自分に、ちょっと驚いた。彼が死んでから、なにもかもが投げやりだったのに。彼がいると、失われた何かが戻ってくるような。そんな感じがする。


「ばかみたい」


 それでも、任務だから。どうせすぐ眠るだろう。彼のようになってしまったのだから。もう、わたしも。

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