文化祭には生前葬を
2学期も始まって9月も中旬。文化祭の時期がやってきた。生徒会がだしたスローガンは『私達の未来』僕はこれを見た時にピンときた。僕がやりたかったこと、この文化祭ならばできる。
僕はいま教壇に立っている。
「有権者のみなさん、こんにちは。森メメント改め、んほぉプロデューサーです。んほぉ、もしくはプロデューサーとよんでください。今回の文化祭、僕が企画したのはこれです」
僕は黒板にふとい字で生前葬と、でかでかと書いた。そう生前葬。僕はこのクラスで葬式をあげたいのだ。
「なんで葬式なんかやるんだよ」
「はんたーい」
「んほぉ、だめぇ」
有権者たちの口汚ない罵声が浴びせられる。
「みなさん、本当に喫茶店だのお化け屋敷だのやりたいですか? そんなもの糞です。なぜ糞か。くだらない茶番なんかしたところで何一つ得られるものなんてないですよね? でも生前葬は違います。しかも今回は合同生前葬。みんなで一緒に写真を撮ってそれを遺影にする。まさに『イェーイ』といった感じになります」
「馬鹿が」
「やりたくない」
「うちは代々のお墓があるだけど」
「まあまあ。みなさん。落ち着いて。生前葬っていうのはお焼香をたいたり、火葬だったり土葬だったりするものじゃありません。生前葬は自由葬なんです! まさになんでもあり。なんだったら、軽食も売っていいし、どくろを飾ってもいい。喫茶店とお化け屋敷のハイブリッドもできる。こんな文化祭にふさわしいものはないんじゃないか、と思うくらい。もしかしたら『高校生のとき自殺しといたらよかったな。人生の絶頂期だったし』なんて後悔する人もいるでしょう。だからみんなで一緒に死んどこ?」
「やだよ!」
「俺たちにはバラ色の人生が約束されているんだよ」
「ひとりでやれ!」
「いや、あんたらの将来なんてたいしたことない。いまが一番いいときに決まってる。バラ色の未来なんてない。死ぬときは結局、誰でもひとりだし。死の間際『あのとき生前葬をあげといてよかったな』って思いながら死ぬよ。きっと」
「私は死なないし、不死だし」
「死を恐れるな」
「それが魂に聞いた答えなのか」
「これが僕の意志だ。変えることはない!」
クラスは騒然となった。僕を小ばかにするもの、見下すもの、尊敬する目、無関心。それぞれいたが、結局対抗馬はそんなに出ず、喫茶店とお化け屋敷、そして生前葬の3つにしぼられた。そんななかクラス委員は多数決で決着をつけることに決めたようだった。まずい。これでは必ず生前葬は落ちてしまう。
「ちょっと待った!」
僕は立ち上がり大いに右手を挙げた。
「なんですか。んほぉプロデューサー」
「ちょっと待ってください。まだ生前葬の魅力を伝えきれていません! 後日また企画書を持ってくるので、多数決はまだはやいです」
「んー。だそうです、どうですか、みなさん」
みんなはめいめい騒ぎ始めた。あきらかに反応はよくないが、かならず生前葬をあげてみせる。クラスのみんなと死んでみせる。僕は心の中で誓った。
やがて解散になり僕は企画書を書き始めた。
楽しい楽しい生前葬 んほぉ
まず生前葬は無宗教葬です。お焼香やら白黒のたれまくやら、葬式仏教として堕落した現代の仏教やら、拝金主義に堕ちたお坊さんやらといったものはいりません。なにより自由。
食べ物を売ってもいいし、音楽を鳴らしてもいい。楽器だってもくぎょと鈴なんてものじゃなく、エレキギターや管楽器、ピアノだって使っていい。もちろん歌だってゴスペルじゃなくて流行歌だって歌っていい。煩悩にまみれてえっちなメイドさんを雇ってもいい(これがほんとの冥土のみやげ)。なんといっても青春の新しい形にになること間違いなし。これから流行するに決まってる。この流れにあなたはついてこられるかな?
文化祭のスローガンは私達の未来。つまり死のことです。
教室中を白とピンクに染め上げた明るいお葬式図。大きいクラス全員の写真を飾る。棺をいくつか並べてレッツ死んだふり!
来場者には、オリジナルの副葬品を持ってきてもらってクラス写真の前に飾る。お花とか? ぬいぐるみとか? 飲み物とか?
バンドに来てもらう。知り合いにキャトルフィーユという女子大生バンドがいるから勧誘してみる。生演奏、生歌、生女子大生。
必要な支出は、生徒の写真や飾りつけなど、あとは棺を借りるお金。お花、玩具、晩餐、エインヘリヤル。喫茶店とお化け屋敷とは違って安く済みます。なんなら最小限の支出だけで可能。写真だけの場合。
収入はなし。無料開放。
一番大事なもの、それは感謝。生前葬は生きている間に関係者に感謝することです。
っとこんなもんかな。細かいところはあとにするとしてだいたいやることは決まった。一番下の感謝というところはこれっぽっちも思ってもいない虚言だけど、まあ、こうでも書かないとやたら善に傾いた連中を納得させることはできないしな。うわ言だけど、まあ大丈夫なはず。ああ~、早くみんなを殺したいぜ。
後日、クラス委員に渡した。この生前葬計画。このあと学年委員がでてきたり、先生から反対があったり、生徒会がでてきたり前途多難の長い長い道のりになるわけだけど、このときの僕はまだまだ知る由もなかった。
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