幼馴染

k-ing@二作品書籍化

第1話 幼馴染

「ねえ、君の好みに髪の毛を切ったけどどう?」


「……」

 俺はいつも彼女に声をかけているが未だに聞いたことはない。それでも俺は彼女のことを小さい頃から恋している初恋の相手だ。


 俺は帰ろうとすると一枚の紙をスッと渡された。


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髪型似合っているよ。

でも短髪ならひょろひょろじゃカッコ悪いよ?

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 俺は制服を捲るとたしかにお腹は凹んでいるが腹筋は出ていない。身長も昔より高くなったがひょろっとしているからな。


「んー、今度は腹筋をつけた方がいいってことか」

 俺は紙をポケットに入れると家に帰ることにした。


「母さんただいま」


「おかえり!」


「俺今日から鍛えるから鶏肉が食べたい!」


「……そう、わかったわ」

 俺の顔を見て母さんは優しく微笑んでいた。


 俺は部屋に戻るといつものように紙を大事なお菓子の缶に入れた。そこには彼女からもらった紙が何十枚も入っていた。


 話すのが苦手な彼女はいつも俺が渡した紙に書いてくれるのだ。


「絶対高校を卒業するときにはあの子に告白するんだ」

 そんなことを思っていると母さんにご飯が出来たと呼ばれた。


 食卓に並べられた鶏肉のソテーは食欲がそそる匂いが部屋中に広がっていた。


「今日は鍛えた方が良いって言われたんだ」


「そうなんだね」


「母さんはどう思う?」


「んー、私はそのままでも良いと思うけどね」

 俺を見る母さんの顔はどこか寂しそうだった。


「そっか! でも花が鍛えている方が良いって言ってたから頑張るわ」

 俺は食べた食器を片付けると部屋に戻った。今日から筋肉をつけるために筋トレしっかりやらないとダメだからな。





「ねぇ、今度は筋肉つけたけどどう?」

 俺は少し浮かび上がった腹筋を見せた。腹筋をつけるのに二ヶ月もかかったのだ。


「……」

 それまでも彼女に声をかけたが声が返ってくることはなかったが、どうやら今日も同じようだ。もう何十年もこんなことが起きているから俺にとっては何も思わない。


「じゃあ、また今度来るね!」


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あんまり女の子に腹筋見せたら嫌われちゃうよ?

でもカッコよかったよ。

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「へへへ、サンキュー!」

 俺は褒められて嬉しかった。俺を褒めてくれることなんてあまりないからな。


 俺はいつものように紙を折り曲げてポケットに入れた。


 ウキウキしながら校門を出るとなぜか学校の前に母さんが待っていた。


「母さんどうしたの?」


「久しぶりに周平と帰ろうと思ってね」


「ははは、母さんと帰るのって小学生以来だな」

 母さんの仕事場が学校から近くなってからも一緒に帰るのは久しぶりだ。


「ここの道懐かしいね」


「そうね」


 俺は母さんと歩いていると母さんは急に方向を変えていつもと違う道を歩こうとしていた。


「母さんどこ行くの?」

 俺は小中高一貫の学校に通っていた。だから帰る道もいつもと同じはずだ。


「どこって……こっちの方が近いじゃないの」


「えっ? 母さん何言ってるの?」

 久しぶりに一緒に帰ったから母さんは忘れたのだろう。


「周平……今日はこっちから帰ろうか?」


「いや、俺はこっちから――」


「いくよ!」

 母さんは珍しく無理やり俺の手を握ると違う道で帰ろうとしていた。


「嫌だ……母さん離してよ」


「離さない」

 俺の手を握る母さんの力は強く跡がつくほどだった。


「母さんおかしいよ!」


「おかしいのはあなたよ! いいから来なさい」

 大きくなった俺の体でも強く引っ張る母さんの力は強かった。


「嫌だ……行きたくない」

 俺はなぜかそっちの方に行ったらいけないと悪い予感がした。


「いつまでそんな夢見てるのよ! 花なんてもういないのよ」


「母さん何言ってんだよ。 ほらここの紙にも――」

 俺はポケットに入っている紙を取り出して母さんに見せた。


「あなた何言ってるの? 毎回見せてくれる紙には何も書いてないわよ」

 さっき花からもらったばかりの紙だから何も書いてないわけではない。


「だってここに――」


「花ちゃんはここで十年前に事故に遭って亡くなったの!」


「嘘だ! だって今日も……」


「嘘じゃないわよ! 今日も花ちゃんの命日じゃない! あなた今までどこに居たのよ」

 俺は母さんの言っている意味がわからなかった。


「花に会ってくるよ」


「ちょっと待ちなさい」

 俺は母さんの手を振り解くと日が暮れる中、学校に戻った。


 息が苦しいのは走っているのか現実を受け止めたくないのか俺にはわからなかった。ただ単に花に会いたかったのだ。


「花……花に聞きたいことがあるんだ」

 俺はいつものように花に声をかけるが、響くのは俺の声だけで花の声は聞こえなかった。


「ねぇ、お願いだから今日だけは声を聞かせてよ」

 俺は必死に叩いた。花の声が聞きたかったのだ。


――コンコン!


「花! 俺と会ってくれよ」


――コンコン!


 響くのは必死に扉を叩く音だけだった。





 次の日もその次の日も何度か声をかけても花からの手紙はなかった。気づいたらいつのまにか高校を卒業する日になっていた。


「なぁ、いつのまにか俺卒業することになったぞ」


「……」


 やはり今日も花から声をかけられることがなかった。


「ねぇ、花! 俺はずっと花のことが好きだったよ。 でもこれでお別れだね」

 俺はずっと前から知っていた。ここに来ても花には会えないことを……。


「じゃあこれで最後だね。 今までありがとう」

 俺は立ち上がるいつものように紙が落ちてきた。


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毎日あなたが声をかけてきてくれて私は嬉しかったです。

いつも忘れられた存在でずっと話してくれたのはあなただけでした。


生まれたからこんなに男の人の好かれたのは初めてでした。

私を女の子として接してくれてありがとう。

毎日会いに来てくれてありがとう。


今まで私の勝手に振り回してごめんね。

私のことは忘れて優しくてたくさん話してくれる彼女を作ってね。


しゅうちゃん……私も愛してたよ。

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「ははは、そんなこと言うなら帰って来てくれよ。 俺を一人ぼっちにしないでくれよ」

 溢れてくる涙が紙に落ちると次第に文字は薄れて消えていった。


「あれ? なんで俺トイレなんかにいるんだ?」

 俺はどこかいつもと違うトイレに違和感を感じた。


「ってここ女子トイレじゃないか!」

 俺はなぜか白紙の紙を持ったまま女子トイレに立っていた。


───────────────────


【あとがき】


 幼馴染に恋したはずがトイレの花子さんに恋をしていた少年のお話でした。


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